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第47話 勇者たち

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西方域こそが、人類の文明の中心である。

そんなことを大声で主張する者は、少なくとも西方域と呼ばれる国々では、ひとりもいない。

主張するまでもない。当たり前のことだから。

まれに偏屈者の学者が、さらに南東に下ったいわゆる「中原」こそが、人類文明の発祥の地であり、現在もそこには多くの国が栄えているのだから、中原諸国にその座を譲るべきだ、という説を、そう30年に一度くらいは、論じられるものだが、対応は決まっている。

なるほど、なるほど、そういう見方もできますね。

ところで、来週、オルデバルとランゴバルドに新しい路線が開通するようですよ。

ええ、魔道機関車です。これで、両都市の移動の所要時間は、12時間短縮されるようです。

けっこうなことですな。


西方諸国でも特に鼻持ちならないことで有名なのは、ギウリーク聖帝国である。
ここでは「西方領域」が人類文明の中心地であることは当たり前。

に、続いて次のような「常識」がまかり通っている。

「西方領域」の中心は、ギウリークである。

なぜか。
なぜかって、陽光の色さえ、空気の香りさえ、違うではないか。
わからない?

ああ、そう、わからない・・・ねえ。

ギウリークは、たしかに西方領域でももっとも栄えている国のひとつには間違いない。
さらに、千年の歴史を持ちながら、現在も発展を続けている数少ない国のひとつである。

そう、もっとも栄えていて、長い歴史をもつ数少ない国のひとつであって、人口、経済力、軍事力、最先端の技術といったそれぞれ部分において、これを凌駕する国もないではないのだ。

それでもギウリークが自らを、西方の中心、人類の盟主と称するのは。

「勇者」

がいるからである。

千年前、魔王を斃しこれを大北方の迷宮に封じた勇者の子孫は、北方のグランダ王国にその血を伝えている。

だが、勇者そのものは、一種の称号であって、それを任命できるのは聖光教会のみ。
その聖光教会の総本山は、ギウリークの首都ミトラにあり、代々の教皇は、ギウリークの皇族が務めるものとされていた。

「勇者」は称号、ではあるのだが、この任命は、「勇者」が各世代、必ず生まれ変わるものとする聖光教会の教義による一種の宗教的な存在に他ならない。
長い歴史の中には、その実力からして、勇者を称するには明らかに力不足の者もいたし、逆に人格の面で勇者と呼ぶにふさわしくない者もいた。

さらに言えば、勇者としての記憶の断絶は、転生の場合、起こりがちなこととして特に問題とはされなかった。

当然、これに反発する諸国もあったが、そこは、大国ギウリークの力がものを言う。

かくして、ギウリークの国力と勇者という称号のブランド力は互いを高め合う理想的な形で今日まで、ギウリークの隆盛をささえてきたのである。

だが、当代の勇者については。

「コ、コロセ・・・・」

東方のなまりがある少女は、跪いてそう喚いた。
身体には一筋の傷も刻まれていない。

速さを旨とする少女の流派が着ける鎧は、ほとんど急所となる部分しか肌を覆ってはいない。
たとえば、大北方からきた者がいたとしたら、ほぼ、半裸にみえるような、そんな意匠である。
なので、滑らかな彼女の肌に、まったく傷がついていないのは見ているものにはよくわかる。

だが、心が折れてしまっている。

殺せと言われた当代の勇者は、困ったように頬をかいた。

「いや、これは試合だから、ね。」

本当は試合ですらなかった。
ここは、皇室が運営する道場のひとつであり、彼女が「勝負だ、勝負だ」と言うので試合形式にしただけで、彼のやっているのは、希望する者たちに稽古をつけること。

「こ、このような負け方・・・故郷の爺様に申し訳が立たぬ!
少女は折れた曲刀の先を首に当てた。
「ワザの未熟は、我が生命で償おう。我が流派は弱いのではない、ただ、この私が未熟であったからだと。」

「お主には見どころがある。」

勇者はきっぱりと言った。

「み、見どころ・・・?」

「未熟ながらその才能、我がパーティの候補となるにふさわしい。」
「わ、わたしが勇者のパーティに・・・」

自害しようとした少女の顔がみるみる紅潮し、目に大粒の涙が。

「今しばらく、この国にて修業に専念せよ。
たった今からおまえは、魔王復活に備えた勇者のパーティの候補者のひとりだ。」

「あ、あ、」
少女は跪いて頭を垂れた。

「ありがたき幸せ。」

感涙にむせぶ少女を退出させたあと、勇者はうんざりした顔で、お付きの剣士を見やった。
お付きの剣士もまた、この国では「剣聖」の称号を持つものでは合ったが、勇者以上にうんざりした顔で、勇者を睨み返した。

「・・・792番めの勇者パーティ候補ですね。」
「聞かれる前に言うな。」
「今週にはいって4人目です。月がかわってからかなりハイペースになりました。
一応、パーティ候補と言ってしまったからには、道場の紹介や、生活費の援助などもしてやらねばなりません。

予算も無限ではないのです。
相手が絶望して自害したくならないように、もう少し手加減はできませんか?」

「してるつもりなんだ。
そもそもこの公開稽古は止めにできないのか?」

「勇者から直接に教えを請うことができるチャンスですからね。
人気取りに余念のない教皇局がやめるわけはないでしょう?」

「もう少し人選をするとか?」

「これでも相手は選んでます。
今の調子では、わたしが相手をしても同じ結果でしょう。」
「オマエニハニミドコロがアル。ゼヒ793バンメのユウシャパーティコウホ二…」

剣聖は、相手にせず、書類に目を落とした。

「次で本日は、最後になります。
冒険者アウデリア・グランバーグ。」

勇者は目を輝かせた。

「大斧豪アウデリア殿か!」
「彼女も本当の本気で、アスレチックかジムに通う感覚で勇者に稽古をつけてもらうのをそろそろ勘弁してほしいですがね。」

勇者は無視して、いそいそと支度を剣を、模擬のものから、真剣へと取り替える。

一応は、相手の腕前をそれなりに選別してはいるものの、目の前の剣聖を含め、勇者が本気で剣をふるえる相手は少ない。
前の対戦相手の少女も、勇者は剣を抜きさえしなかった。
素手で曲刀を叩き折り、軽く投げ飛ばして、終わり。

まるでこわれやすい玩具で遊ばされているような、不満足感。

彼がそんな配慮をしなくてもよい数少ない猛者のひとりが、北方出身の冒険者で、斧使いの女冒険者アウデリアだった。

のそり。

と、彼女が入ってきただけで、道場の空気が撓む。

まだ少年と言っていい勇者より、はるかに背が高く、また幅も広い。
けっして太っているわけではないのだが、身にまとった筋肉の量が違うのだ。

よく見れば、胸も豊かで、腰はきれいにくびれているのだが、まずもってそんなところには目が届かない。
鮮やかな朱の髪を束ね、鎧、どころか、下着の上に布一枚の貫頭衣、という出で立ちである。

「おう、勇者クロノ。先週ぶりだな。」

「やあ、冒険者アウデリア。」

アウデリアは決まったパーティを持たぬ冒険者だ。
ミトラを中心に西方領域でここ数年、名を上げている。

ソロでも行くし、誘われればパーティへの参加も厭わない。
マロアドークの迷宮制覇で、銀級に位置付けられているが、そもそも単独での制覇だったので、黄金級、あるいは英雄級でもよいのではないか、とささやかれてはいるものの、本人はあまりそういうことには無頓着らしく、貧しい村の小鬼退治でも軽々と腰をあげるため、下層民を中心にかなりの人気があった。

「さあて」
獰猛な笑みを浮かべて、背負ったバッグから取り出したのは、斧。
使い込まれた柄の部分に鎖が付いていた。

片手斧にしてはかなりの重量がある武器だったが、アウデリアの体躯と比べると玩具のようにも見える。

「体は温まってるな? いきなりいく…」

言葉が終わらぬうちに勇者は動いた。

剣聖の目にもそれは、姿がかき消されたようにしか見えない。

ドン

という鈍い音が、道場に響いた。勇者が抜きかけた剣を、その柄を押さえるようにして、アウデリアの拳が重なっている。

「瞬き、をかわしますか?」
「毎回、見てるからな。目も慣れるさ。」

勇者の後退に合わせて自分も距離を取る。
そこに踏み込もうとした勇者の頭上から、斧が落ちてくる。

重さと速さのある一撃に、剣を折られる危険を感じた勇者は、さらに後退。
落ちてきた斧は、繋がった鎖にひかれて、アウデリアの手の中に収まった。

「鎖を調整して自在に軌道を変えますか。また器用な技を。」
「おまえと違って、引き出しは多いんだ。」

斧を自分の真横に投擲。
鎖を引いて、飛ぶ方向の変わった斧は、横殴りの斬撃となって、勇者を襲う。

身をかがめた勇者の髪が数本、斬撃の圧力で引きちぎられる。

走り抜けた斧は、そのまま、またも軌道を変えて、勇者に向かう。
勇者の姿が、かき消えた。

ミトラ真流陰の極、歩法、瞬き。

一度の踏み込みならば、見切ったアウデリアも連続での瞬きは、想定していなかった。
勇者の姿を見失ったが

どっ!

踏み込んだ脚が、石畳を敷き詰めた床を震わせ、バランスを失った勇者がタタラを踏む。

「変わった歩法を使う相手には、けっこう馴れているのさ。」

女傑は、余裕たっぷりに笑った。
再び、斧を旋回させる。

「瞬き、はミトラ真流だけの技と習いましたが、似たような技を伝える流派はほかにもありましたか…」
「わたしの知ってるやつは我流だったけどね。」
「我流で?
自信なくしますね。」
「その若さだ。しかたあるまい?」
「嫌味、ですか?」

斧の軌道が変わる。
今度は、アウデリアの周りを旋回し始めた。

旋回は速度を増し。
軌道を変え。

ついには剣聖の目には、渦状の斬撃が彼女の周りを包み込んでいるかのようにしか見えない。

「クロノ!」剣聖は勇者の名を叫んだ。「うかつに近づくのは危険です。魔法を使って・・・」

「魔法解禁か・・・かまわないよ。」

斬撃の竜巻の中から、アウデリアが笑う。

「いや、なんでもアリにしてしまうと・・・」
「アリにしてしまうと?」
「この街区が吹っ飛びます。」

勇者クロノは三度、「瞬き」を使う。
今度は、アウデリアの右後ろに移動、そこで、跳躍し、さらに何もない空を足場に方向転換。
加速して、斬撃の渦のない頭上からアウデリアを襲う。

全力で斧を振り回している以上、その周回軌道を避けて、内側に飛び込んでしまえば。

そしてそれは見事に成功した。

アウデリアは反応はできたが、鎖で斧を引き戻すには一瞬、タイミングが遅れる。
クロノの振り下ろした剣を受け止めたのは、アウデリアの拳。

生身ならば、拳ごと切り裂かれる。

が、そこには斧につながる鎖が分厚く巻かれていた。

剣と拳のぶつかり合い。
鎖が断ち切られ、アウデリアの手から血が飛び散る。
顔をしかめたまま、アウデリアはそのまま拳を振り切った。

剣が二つに折れ、拳はクロノの腹部につきささる。

身体を折って吹き飛ぶクロノは、勢いのまま、転がり、それでも膝をついて立ち上がる。

「おぉ!」

若い勇者の瞳が燃えている。全力で戦えることへの歓喜がほとばしる。
剣がおれた?
そんなものはなんだ。

「そ、そこまで、です。」

剣聖が、両者の間に短剣を投げた。
これは、ミトラ真流では、試合の中断を意味する。

アウデリアは不満そうに、剣聖を睨んだ。

「おいおい、ようやく勇者が温まってきたのにここで止めるか?」

「ひ、引き分け・・・・」
アウデリアに睨まれて剣聖は首をすくめた。
「い、いえ、勝者アウデリア。」

「引き分けでいい。」

アウデリアは拳を差し出した。

巻きつけた鎖は断ち切られ、傷は手の甲にまで達している。
吹きこぼれる血はしかし、もう止まり、傷はみるまに癒着していく。

「さすがに大した不死身っぷりです。」

クロノは、もう一度膝をついて、腹を抑えた。

「き、効いたあ・・・戻しそう。」

「治癒師を呼びます。」
「あ、いい。」クロノは剣聖を止めた。「このくらいは自分で治せる。」

「腕をあげたな、勇者。」
アウデリアはにっこりと笑った。
猛獣の笑いにも似ていたが、少なくともこれからとって食われるわけではないらしい。
「勇者相手に連戦連勝してるあなたに褒められるのは・・・ありがたいことなのでしょうね。」

クロノは手に治癒の術式を紡ぎ、腹部に押し当てている。

「実のところ、上げすぎた。なにがあった?」
「お察しの通りかもしれません。」
クロノは自重するように言った。
「連日、この稽古イベントに半日。あとは、国や教会のお偉い方々との会談、夜はパーティ、部屋に帰ればベッドに潜り込んだ女の子を追い出すのにもたっぷり時間を取られ」

「あ、全部追い出してるわけではありませんよね?」
剣聖の目が冷たい。

「君も伯爵家の令嬢なんだから、そこらへんは目をつぶって夜は屋敷に帰ってくれ。」

「剣聖、は勇者のパーティの一員と、それはもう初代勇者のころから決まってるんです。」

「それなら、初代のときのパーティでは剣士は、初老のおっさんだったぞ。
しかも剣聖と呼ばれたのは、魔王との決戦のあとで、それ以前はただのガルフィートだった。」

「実家に伝わる肖像画は、なかなかの美形に描かれていますけど。」

「それは、だな。
やつは、つまりキミの遠いご先祖の初代ガルフィート伯爵は、肖像画を描かせるときに髪の量を盛らせるクセがあったんだ。

剣以外では、女にモテること以外には地位も名誉も関心のないやつではあったが。

で、ちょうどその頃の風潮で、男も女も髪を伸ばして結い上げるのが、流行っていたんだ。
我々は戦いに行ってたから、髪は短くしていたし、ガルフィートは兜を被りやすいように頭を剃っていたんで、気がつかなかったんだな。

いざ、髪を伸ばそうとしたら、かなり頭髪が薄くなっていたことに。

人前では、カツラって手もあって実際そうしてた者も多かったんだが、肖像画では、地毛を見せる、そんなものがマナーになっていた。

ガルフィートは、肖像画を描かせる度にちょっとずつ髪の量を増やさせていった。

なにしろ、人類を救った勇者パーティの一員だから、彼の肖像画がほしいという人間もあとをたたなかったからな。

さて、我々の活躍は、詩人に歌われ、劇になり、小説もかかれた。
そうこうしているうちに、彼の青春時代を描いたスピンオフ「若き剣聖の英雄譚」が大ヒットした。

そのなかでは、彼は貴族の御令嬢や姫君から想いを寄せられつつも、魔王を倒すために孤高の道を貫いた超絶美形の剣士として、大活躍するんだ。

どうも今日、伝わっている彼のイメージはこの小説が、元になっている気がする。

彼の名誉のために言っておくと、これは彼が亡くなってから書かれたもので、原型はグランダの詩人たちの詩で、彼が住んでいたここ、ミトラには逆輸入されたものなんだ。
ガルフィート伯爵家がそれをどう思ったかはわからないが、初老のおっさんの肖像画の顔から皺やたるみを修正して、若い頃の姿するのはそう難しくはなかっただろう。

髪の方は、とっくに盛られてて、若い頃のままだったしね。

かくして、伝説と願望と空想がごちゃ混ぜになって、いまの美丈夫たる初代剣聖ガルフィートが誕生した、というわけだな。」

「…どこまでが、あなたが実際に見た光景なのですか?」

「グランダの王を引退した後、ミトラを尋ねたときに、亡き祖父がへんな具合に美化されている、という相談をガルフォードの孫から受けたところまで、かな。
いまから、否定するのも大変だし、乗っかっといたら、とアドバイスした記憶がある。

で、すまない待たせた、アウデリア。ぼくがこのところ妙に絶好調な理由だったかな?」

「話の腰を折るのも悪いと思ってそのまま、聞いていたが。」
アウデリアは神妙な顔(彼女にしては)で言った。
「では、あの噂は、本当なのか?」

「ぼくの過酷な鍛錬の噂ですか?」

「おまえが“真の”勇者だという噂」

「ぼくが、初代勇者の生まれ変わりだという話なら本当です。

教皇庁のお歴々は、ぼくの存在が確定した時、パニックになったと聞きました。

勇者は魔王と対になる存在。本物の勇者が生まれ変わったのならそれは魔王の復活を意味するのではないか、と。」

アウデリアはやや自虐的なクロノの回顧を、興味深そうに聞いていた。

「なるほど。わたしも実は同じことを考えていた。
先月から今月、先週から今週と、おまえの力は日に日に増している。

特別な訓練でもしているのかと思っていたが、どうも鍛錬は夜の方ばかりらしい。」

「いや、別に、そのアレは鍛錬というわけではなく。」
顔を真っ赤にするクロノを見て、剣聖は思った。

“こいつ、遊ばれてる”

と。

「わたしまで“魔王の復活が近い”とか喚き出したらどうする?」

「どうするんですか?」

「そこだよ!」

「どこです?」

アウデリアは胸を張った。

「わたしが、ミトラ真流の道場なんぞに足繁く通った理由だ。
どうだ、勇者クロノ。一緒にパーティを組まないか。」

ふええええええええっ

剣聖がへんな叫びをあげた。
当の勇者は。

我意を得たり、と言わんばかりにニヤッと笑った。

「光栄、ですが話が見えません。」
「大北方、グランダ国の“魔王宮”の封印が解かれる。」

「い、いけませんっ!勇者クロノ。予定は半年先までいっぱいです。
今日も午後からは、勇者記念館の理事会、教皇庁定例会、夕刻からはドリット侯爵邸で舞踏会に出席が。」
剣聖の叫びは悲痛なものがあった。

「魔王絡みなら、なによりも優先だろ?」

「ま、まず先遣隊を派遣して調査を」

「どうも王位継承者を決めるのに、二人の王子にパーティを組ませて、迷宮攻略を競わせることにしたらしい。」

自分の言葉が平然と無視されるのに慣れていない剣聖は、顔を真っ赤にし、続いて青ざめ、なにか言いかけては黙り、叫ぼうとして気をかえ、一人で葛藤を続けている。

「その補助の名目で、一般のパーティも迷宮への侵入が許されたそうだ。
どうだ? 行ってみたくはないか?」

「魔王がらみで勇者が出張らないわけには、いかないのでは?」

二人の戦士は、ニッと笑って手のひらを打ち合わせた。

「決まりだな。」
「ま、待ってください。確かに魔王絡みとなれば、教皇庁ももちろん許可は出しますが、それにしても準備が! パーティの編成が! 戦士ばかり三人ではバランスが悪すぎます!

せめて、魔法使いと斥候役を。」

「これは、勇者パーティではない。」
クロノはバッサリと剣聖の言葉を切り捨てた。
「また、ぼくとアウデリアで迷宮を制覇するつもりもない。
これは、きみが言った調査のための先遣隊だ。

もし仮に魔王が復活する兆しでもあれば、それは、もはや、グランダ国の手に余る状態だ。
西方諸国が連合して当たらねばならない。

その判断を下すため、ぼくが行く。
間違っちゃいないだろ?」

「と、と、と、とにかく!」
剣聖は泣きそうだった。
「教皇庁に走ります。優秀な術者を手配します。少し時間をください。」

剣聖は本当に走っていった。

「いい剣士なんだけど。」

クロノがぽつり、という。

「才能だけに頼りすぎなきらいがある。」

アウデリアは、ポンと自分の胸筋を叩いた。

「線が細すぎる。最終的に頼れるのは自分の筋肉だぞ。
似たようなヤツを知っているだけに歯がゆい。」

「うちの剣聖に匹敵する才能の持ち主ってことですか?」

クロノは面白そうに、アウデリアを見上げた。

「アウデリアのお仲間ですか? ぜひ紹介してください。」

「・・・・お主は女グセが悪そうだからな・・・仲間、というか私の娘だ。」

クロノは目を丸くした。ある意味先ほどの拳の一撃よりショックだったかもしれない。

「お嬢さんがいるのですか・・・」
「ああ、16になる。おまえと同い年だが、残念、婚約者がいるぞ。」
「16で婚約者、ですか? どこぞの姫君でもあるまいに。」

「さっき言った後継者争いで圧倒的に不利な方の王子が婚約者だ。

父親は公爵だから、姫君で問題ないだろう。

ちなみに対抗馬の王子には、燭乱天使ががっちり付いているそうだ。

どうだ? 燃えてきただろう?」

「千年ぶりに本気で戦えそうです。」
勇者は、楽しそうに笑ったが、ふと眉をひそめた。
「ひとつ、提案です。

ガルフィート伯爵家令嬢“剣聖”カテリアは置いていきませんか? 燭乱天使に魔王では、彼女にはキツすぎる。」

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