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第34話 第二層探索

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階層が変わればそこは別の世界。

が、迷宮での常識である。

地下に向かって降りるタイプの迷宮だから、降りるにつれて洞窟が狭くなったり、暗くなったり、は必ずしもそうはならない。

あるいは物理的な意味で、つながっていないのか、突然、空があり、湖があり、草原がある。
そんな階層にぶちあたることさえある。

だから、一層より、二層が暗くて狭くてじめじめしているのはたまたま偶然、そうなっているだけで

ルトの話は、別に足元が泥濘んでいることとか、灯りひとつない暗闇のため、ずっと光球を維持し続けなければならないこととか、天井がひくく、ところどころ、しゃがんだり、這いつくばったりしてすすまなければならないことへのなんの慰めにもならない。

エルマートは最初の泥濘で、膝まで泥に浸かっただけでもう音をあげていたし、リアはリアで、狭いところを通り抜けるのに胸が支えて・・・・

フィオリナとヨウィスはそんなことはないので、ひょっとすると女性の冒険者はそういう体型がむいているのか、などとリアが思い始めた頃、先頭を歩くヨウィスが立ち止まった。

「この先に部屋がある。なにかの集会所に似た造りのアーチの天井のある部屋で、かなり広い。」

「そりゃあ、助かる。」
ザックがつぶやいた。
人一倍背の高い彼は、この洞窟を歩く間、ほとんど身をかがめていなくてはならなかったのだ。

「よし、そこで休息を取ろう。」

エルマートがリーダーっぽいことを言った。
彼にそう言わせるために、ヨウィスはわざわざその報告をしたのであり、彼女なりの配慮と言って言えなくもない。

「魔物は?」

とリアがきいたのをヨウィスが軽く睨んだ。

「スケルトンタイプのアンデッドが三体。もう首を刎ねた。」

ほんとはこの質問は、休息以前にエルマートが発しなければいけない質問であって、エルマートを少しでもリーダーとして育成しようと考えていたヨウィスには、リアがしゃしゃり出てその質問を横取りしたのはちょっと不快であったのである。

身をかがめるのに飽きたザックは、ヨウィスの脇を抜けて、先に最堂に入った。

ヨウィスが危険を調査し、魔物を排除済みとは言え、先陣を切るのは戦士である自分の役目と決めているのであろう。
こういったところは、いくら裏があろうとも、彼もまたベテランの冒険者なのだ。

広さは、街角の小さな礼拝堂程度。

足元は、白い石がきれいに敷き詰められ、とりあえず、泥水と泥濘からは解放されそうだ。

天井がアーチを描いてるのも、祭壇らしき、一団高い部分があるのも礼拝堂を思わせる。

床には三体のスケルトン。
ヨウィスは「首を刎ねた」と言っていたが正確ではない。
二体はそのとおりだが、一体は頭蓋を縦に割られている。

骨になってまで動くアンデッドの一種だが、通常はそれほどの脅威ではない。
脅威でないにせよ、最初から排除済みと、一戦交えなければならないのは雲泥の差だ。

並の鋼糸使いなら、実際に目視してから、糸をからめて、動きを封じ、戦士が止めを指す、というスタイルをとるだろう。

ヨウィスという糸使いの技量の高さが伺える。加えて、馬鹿げた規模の収納魔法。

「大丈夫そうだ。地面も乾いている。ほぼ一日ぶりだぜ、固い地面を歩くのは。」

エルマートとリアが倒れ込むようにして、石造りの地面に手をついた。
丸一日、足場の悪い狭苦しい通路を、歩き、這って進んできたものはこれが通常だ。

一体くらいスケルトンを残しておけと、文句を言う公爵家令嬢と、まあまあと言いながら軽口をたたくその元婚約者が普通ではないのだ。

しかし、これはとんでもないパーティかもれない。

ザックの呪いとも言えるふざけた体質を活かすフィオリナの魔法に、まだまだ底のしれないルトことハルトの体術、ヨウィスの超絶たる鋼糸の技量、リアの光の矢も牽制程度には充分だろう。

実際に、第一階層主の神獣が、敗退を余儀なくされているのである。

“今はハルトを処分せずに地上へ帰還させろ”
というのがクリュークの命ではあったが、そもそも易々と処分することが可能とも思えない。

それにしても第一階層の階層主を突破し、第二層と第一層の回廊を確立させたなら、それはもう迷宮の攻略において大変な成果となる。

その多大な功績をあげた臨時パーティに、エルマートとハルト、両方が所属していることに何やら象徴的な意味が見いだせないわけでもない。

両方を競わせるのではなく、まして片方を謀殺するのではなく、兄弟がともに手を携えてこそ、大きな栄光と成果が得られるのだ・・・・と、何がしかに気が回るものなら思いつきそうなことだが、あの王様では無理か。
と、考えるのがばかばかしくなったザックは、床に寝転んだ。

収納から引っ張り出した上着はややサイズが合わず、途中の壁ですれて泥まみれになっている。
寝転がったまま、酒を一口飲んだ。
この白酒という酒は無駄に酒精が高くていい。

「いままでの通路が、ぐちゃぐちゃのべとべとだったのは、そもそも一層の崩落の衝撃で、地下水が一部、泥と一緒に噴出したためのようですね。」

いままでの泥壁とは違い、石を丁寧に組み合わせた壁面にさわりながら、ルトが言った。

「ここからは、魔物やら罠やら中止しながら進む必要があります。」

エルマートをじっと見つめる。

“よし、ヨウィスは少し休め。その間は我々が交代で見張りをする。”

というセリフを期待したのだが、ルトの心は通じず、しかたなくルトは代わりにそのセリフを口にした。

「ヨウィス、悪いけど、水と携行食だけ用意したら、休んでください。 
見張りはぼくが替わりに行います。」

「見張りは、ヨウィス以外の全員で行おう。」
エルマートが言った。
「イリアとぼくは正直、見張りの仕事そのものが初めてなので、ペアを組んでもらいたい。
ザック殿とフィオリナ先輩、ぼくと、ルトと、イリア。それぞれが一刻半ずつ休息をとって欲しい。」

「種馬は、イリアと二人きりになるのは諦めたのか?」
フィオリナが揶揄うような口調で言った。

「た、た、た…それはともかく、もし、ザック殿が造反したときに速やかにに制圧できるのはフィオリナ先輩しかいません。
ぼくと、イリアだけでは見張りそのものが満足にできない可能性が高すぎて論外です。
これは、仕方なしの最適解です。」

「いま、ハルトの口調で脳内再生されたぞ。」
フィオリナはけっこう楽しそうだった。
「最適解かどうかはともかく悪い案ではないな。
エルマートにしては上出来だ。」

「俺は一人で大丈夫だぜ。あと、俺の真の主筋からは、この全員を無事に帰還させるよう厳命が出ている。
なんの証拠も示せないが、少なくともここを無事に出るまでは、俺のことは信用してもらっていい。」

「ザックさんの不死身っぷりはわかりましたが、背中から魔法をぶち込んでくれる人間とペアでないと、攻撃力がそもそも心許ないのですよ。」
ルトは淡々と酷いことを言う。
「なので、ペアは、ザックさんとリア、エルマートで1組。ぼくとフィオリナがペアになります。」

「理由を一応聞いとく?」
とフィオリナ。
「ザックさんがリヨンと同じ邪神の勢力に属していると仮定すると、エルマートとその寵姫候補のリアを害する可能性は限りなく低い。
リアは光の矢が射てますから、ザックさんの強化にも役立ちます。」

「…だそうだ。リーダーはどの案を採用してみる?」

「わたしは、姫と坊やのチームがよい。わたしはいないものとして扱ってくれていいから。」
「ヨウィスは寝ててください!」

しばらくわいわいと話し合ったが、そうこうしているうちにも、エルマートとリアはもう体力が限界なのが、誰の目にもわかってきた。

つまりはこの二人は先に休ませる必要がある。
そして、働きっぱなしのヨウィスも。
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