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第22話 爆誕!ヨウィスちゃんと愉快な仲間たち

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がう

とリヨンが吠えた。

虎っぽい隈取はしているものの、別に口が耳まで裂けているわけでも歯が肉食獣のそれに変じているわけでもないので、なんとなく雰囲気で獣っぽさを出しているだけで、まあ、見方によってはかわいらしい、とさえ言える。

力尽きたジャイアントスパイダーは、ほぼバラバラの惨殺死体となって、転がっていた。
その胴体の上で、リヨンは吠えてみたのだが、勝利の雄叫びというほどの迫力もなく、戦いの間は呆然自失だったエルマートが、無遠慮にその胸をじろじろ見るので、ルトは、ジャケットをかけてやった。

「さて、ここはどこだ?」

いまひとつ緊張感のない声でフィオリナが言う。

少なくとも「魔王宮」のどこかには違いなく、兜を脱ぐにはタイミングが早すぎるのだが、フィオリナは気にしない。

「第一層のどこかだと、思う。」
ヨウィスは、相変わらず、下を向いてあやとりに集中していたが、エルマートとリア以外のメンバーはそれが周りを探索し、危険な魔物を察知する(場合によっては迎撃する)ための行動とわかっていた。

「迷宮では階層をまたがっての転移は転移陣がないとできないはず。」

「こいつは結局、かいそう・・・ぬし?じゃなかったってこと?」
リアは不安そうではあったものの、ルトとフィオリナが飄々としているので、少なくともパニックにはなっていない。

「階層主が倒されれば、第二層への入口が開く。どこにもそれが感知できない以上、階層主は別にいる。」

「え、え、え・・・じゃもっとすごい魔物がいるわけ? そんな・・・」

リアは胸を抱きしめるようにしてあたりを見回した。

照明は薄暗く、石造りの床と壁は闇に溶け込んで果てしなく続いているように見えた。

「大丈夫、『ヨウィスと愉快な仲間たち』のリーダーは功を焦ってパーティを危険にさらすようなマネはぜったいしない。」

ヨウィスは胸に手をあてて、うんうんと頷いた。

「なに? 『ヨウィスと愉快な』って。」
「この臨時パーティの名称だ。いやならいくつか候補があるから選んでいい。
『ヨウィスと哀れな下僕たち』
『ヨウィスファンクラブ』
『ヨウィスちゃんと5人のしもべ』」

「ヨウィスがリーダーなのは決定なわけ?」

「それはそうだ。そっちの少年少女は冒険者の初心者だそうだし。『栄光の盾』の二人はバカ。そして、ギルドマスターはパーティリーダーを兼任できないことになっている。
消去法でわたししかいない。」

「・・・・・」

「ついでに『収納袋』を持っているのもわたしだし。水とか食料はたぶん1年分くらいあるけど、だせるのはわたしだけだし。」

「ヨウィスがリーダーで賛成」

上がった手はエルマートを除く全員。

「こ、ここは、どこなんだ。」

リヨンがジャケットを羽織って肌を隠したところで、あらためて正気に戻ったのかエルマートが叫んだ。

「み、みんなは。父上は? クリュークはどこだ?」

「王様たちは、みんな避難したよ。」
リヨンがバカにしたように鼻をならした。
「あんたが、居残って戦いを見物してたんでしょ? この中ボス蜘蛛とわたしたちが戦ってる最中にあんたが突っ込んできて、おかげで転移にまきこまれたってワケ。」

エルマートは恐る恐るフィオリナを見た。

「だいたいあってる。」

にっこり笑ったつもりだったが、またエルマートの顔色が悪くなった。そんなに怖いのか、わたし。

「たぶん、さっきの転移はお互いの場所を入れ替える『交換転移』だ。』

ルトは壁を触りながら言った。リアよりも夜目の効くルトには、ところどころに棺が置かれているのがわかる。

「場所は、たぶん『風の使者』が魔法型のジャイアントスパイダーと遭遇した場所。霊安室だと思う。」

「『風の使者』たちもいない。」
フィオリナが言った。
「すると、わたしたちと金属蜘蛛。『風の使者』と魔法蜘蛛をそっくり入れ替えるような転移だったわけか。パーティの人数も同じだし、理屈は合うかもね。」

「ぶ、無事に出られるのだろうな、ここから。」

エルマートがうじうじと喚いたが、フィオリナに睨まれた黙り込んだ。

「なんなら、このまま第六層を目指してもいいかも、ね?」

なんで自分がニッコリするたびにエルマートが総毛立つのか。少なくとも群を抜いた美人であることを自覚しているフィオリナにはさすがに不満だった。

「ほら、王子さまに、そのパーティ『栄光の盾』のペイント女、見届人の『白狼』のヨウィスもいるんだから、条件に不足はないんじゃない?」

“それに、もうひとりの王子さまとそのどちらかの王妃候補もいるわけか。これ以上完璧な布陣はないんじゃないか?”

誰の思考かはいちいち書かないが、そういうことであった。

「では、リーダーも決まったことだし、休憩にしよう。」

ヨウィスは、さっさと座り込むと、パンとミルク、それに果物を干したものを出した。

エルマートはなるべくフィオリナと離れて、リアにそばに座ろうとしたが、リアはそれをさけて、ルトの隣にこようとするし、それをフィオリナが邪魔をしようとするし、その様子をリヨンがものすごく面白がるので、ヨウィスは明らかにイライラしはじめ

「最初にこのパーティのルールを決める。パーティ内では恋愛禁止!」

なにやら、いちばんショックを受けたのはエルマートだった。アホか。

「でも、若い男女が一緒にいるんだから・・・」
「あと、恋愛感情のない交尾も禁止!」

相変わらず身も蓋もない言い方するなあ。

とルトとフィオリナは思った。

「あ、あのその両方の合意があっても?」

「両方の合意がなければ、改めて定める必要もなく禁止だ!」

それはそうだ!とルトとフィオリナは頷いた。

「そもそもこの中で成人に達してるものは? エルマート王子、あなたは?」

「14です・・・・」
「たぶん聞かれてないけどリヨン、18才です。西方領域だと18が成人のとこが多いよ!」
「リアです。一応16です。」
「えっと、ルト。14・・・かな。」
「フィオリナ16だ。そういうヨウィス、あんたっていくつだっけ?」

「魔道院の12回生・・・・」
「えぇ、知らなかった・・・じゃ、24か5?」
「飛び級してるから、まだ22だよ、姫!」

外見だけならこの呉越同舟のパーティでも最も幼なげに見える少女は、言い返した。

「そう言えば、ヨウィスのやりたいことってなに?」

「・・・・」

ルトが手をあげた。
「蜘蛛をぶちのめしたやつから、願望の優先権をって、ぼくが言ってやつ?」

「ま、実際、こいつの」フィオリナは、じぶんの腰掛けになっている蜘蛛の頭部をつんつんした「糸はけっこうやっかいだったから、ヨウィスが来てくれたのはとっても助かったのは事実なんだけど。」

「あ、ぼくのはそのイリアと」

「エルマートクンには聞いてないよ?」

エルマートは遠くを見ながらパンを齧った。
もともと、さっきまで戦闘を片目に見ながら飲み食いしていた彼は、それほど腹もすいてはいなかったのだろう。あまり美味しそうに食べてはいなかった。

「わ、わたしは、一人前の冒険者になりたいです。で、できればその・・・ルトと・・・」

「イリア、それは、ちょっとまって、あとで話をしよう?」

フィオリナは苦笑いを浮かべた。顔立ちは違うがそんなところは父の公爵によく似ていた。

「わたしのやりたいこと? 姫にひとつお願いがある。」

意を決したように、ヨウィスは顔をあげた。

「わたしに? なんだろ? まあ、蜘蛛退治には助けられたし、いまもこうやって、ヨウィスのおかげでご飯にありついてるわけだから・・・できることなら適えるけど。」

「姫にしか出来ないこと」
ヨウィスは、真剣な顔でまっすぐにフィオリナを見つめた。ヨウィスを知るものなら、これがめったに無い行動だとわかっていた。
フィオリナも真顔に戻り、やや口調を改めて言った。

「クローディア公爵家長子にして、『不死鳥の冠』ギルドマスター、フィオリナ=クローディアがその名誉にかけて誓う。
望みを申せ。“隠者”ヨウィスよ。」

「ハルトとヨリを戻してほしい。」

何を言い出すんだ、こいつ。

全員の思いは共通していたので、ルトがミルクをむせこんでもあまり目立たなかった。

「あの・・・な。わたしは婚約を破棄されたんだぞ。それも一方的にだ。
それを頼むならハルトだろ?」

「ハルトは、魔道院のじっさまのとこを出てったあと、行方不明。
それにあの婚約破棄は、王位の継承がごたごたするのがわかってそれに、親父殿と姫を巻き込みたくなかったからしたものだってことは、もうわかってる。」

「そ、そうなのか!!」

「エルマートは黙れ」

「は、はいフィオリナ先輩・・・・」

「幸い・・・というか、ハルトはパーティの編成もできない。魔王宮攻略に参加もできない。バカなほうは、王の依怙贔屓があるから、一流冒険者でパーティを組ましてもらってる。迷宮をどこまで攻略できるか、以前にもう勝敗はついた。

王太子はバカで決まり。ハルトは、王に疎まれてるから、たぶん爵位どころか捨扶持ももらえずに路頭をさまようことになる。

だから、あとはフィオリナがハルトを見つけて、ご飯と泊まるとこを用意してやれば絶対寄ってくる。」

“捨て犬とか野良猫の餌付けとかそっちの話だよね”
とリアがルトに囁いた。

「まあ・・・それで、陛下がよいと言ってくれれば、まあ、うん。わたしはアリな話かな・・・」

ルトをチラ見しながら、フィオリナは言う。

「陛下はともかく、ここに次期陛下がいる。」

エルマートの顔色は、奇女ふたりの視線にさらされて、青を通り越して白くなった。

「幸いにいっしょにパーティを組み、命を救われたパーティリーダーの頼みを断ることなどありえないと思うが、もし、一人だけ行方不明になるヒトがいるとすると・・・」

「はぃいいいいい、わかりましたあ。ぼくが王太子になった暁には、ハルトにいは、あらためて、クローディア公爵家に嫁がせますぅ。約束です。ぜったいです。」

「え? いいの? エルマートはわたしと結婚したかった?んだよねえ。」
クローディアはほんとに怖い笑みを浮かべてエルマートにささやいた。

「す、すいませんでしたあ。ぼくには先輩はやっぱり無理でした。ぼくは・・その、イリアと。」

「わ、わたしは、冒険者になります。そして、ルトと。」

「なるなる」
リヨンは、しっぽがあればぴょこぴょこ動かしたいような顔で言った。
「で、さあ。坊やはどうするの?」

「どうするって・・・ぼくは魔王宮に来たくて冒険者になったんです。
ここで、やりたいことがあってそれはまだ果たせていません。」

「ふうん」
フィオリナが目をふせる。
「“魔王宮でやりたいこと”については聞かないでおいてあげる。
なんだか、裏がありそうだしね。こんど、ふたりのときに、ね。」

「姫! なんでその坊やを口説きかかる!」
ヨウィスがむっとしたように言った。
「パーティでは恋愛は禁止!」

「あのですね・・・なんでヨウィスさんは、そのフィオリナとハルトをくっつけようとするんですか?」

「あの二人はよい。」

ヨウィスはうっとりと天井を見上げた。かわいらしい顔立ちではあったが、なんとなく気味の悪いものを感じて、ルトはぞっとした。

「特別な輝きを持って産まれた、しかし孤独だった魂が惹かれ合い・・・ひとつになる。絡み合い、縺れ合い、それでもともに手を取り合って未来に進んでいく。」
ううっと、ヨウィスは嗚咽をもらした。

「と、尊い・・・・」

「あ、あれか、カップル推しかっ」

「まじめに聞くだけ、時間の無駄だったわ。
ヨウィス、休憩は終わり。どっちに進むの? できればここの階層主はぶちのめしてから帰るから!」

迷宮の階層主が八つ当たりの対象にされるのか。
と、全員が思ったが、賢明にも誰も口にはださなかった。

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