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魔王になんかなりたくない!

神は滅ぼすべきものか

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そう。

ぼくたちは、「世界の声」に勝った。

「お、おのれえっ、こんどこそは必ずっ!」
と、連続活劇の芝居の悪役のような小物感満載の捨て台詞を残して、「世界の声」は姿を消したのだったが、それだけだった。

フィオリナからも、竜王陛下からもその力の残滓は消え去っていた。

だから、ぼくたちは勝ったのだと思う。
これ以上のことは出来ない。

神を倒したり封じたりすれば、必ずその神が世界の成り立ちにおいて、担当していた「なにか」を失うことになる。
たとえば、大地の神だったら、大陸全土が沈むし、海の神なら、大津波が起こる。
そして、神は、死ぬことはないけれど、存在できなくなる。
だから、「神殺し」というのは、絶対にしてはならないことなのだ。
逆に言えば、その存在を消滅させることができなければ、たとえどんな強大な力をもって打ち倒したとしても、必ず復活する。

「滅ぼしたい?」
と、アキルは無邪気に聞いた。

あらためて説明するのもアレだが、黒眼黒髪のこの異世界少女は、大邪神ヴァルゴールの現身だ。
普通はどんな依代を作っても、こんな風に地上に馴染むことはできない。
だから、ヴァルゴールは、かつての自分、異世界において、人間だったころの自分を依代として、召喚したのだ。
今のアキルは、ぼくらのクラスメイトであり、『踊る道化師』の大切な仲間でもあるが、同時に、この世界を滅ぼしうる存在のひとつだ。
そんな少女に、こんな質問を受けるとは、不思議な気持ちにもなる。

「いや、正直、もうどうでもいいよ。」
ぼくは答えた。
「ぼくもそうだけど、この世界で生きる有限寿命者は、世界を滅ぼせる存在とは、気軽に接したくはないんだ。」

「・・・そうなの・・・」
アキルは、にやにやと笑った。
彼女がなにを考えているのか、ぼくにはよくわかる。
「踊る道化師だってそうじゃん?」
そう言いたいのだろう。

「滅ぼしたいならば、方法はあるよ?
神の死後、その神がこの世に行っていた制御機構の運用を司る存在をあらかじめ用意する。」

「例えば?」

「魔王神リウとか、」

「は?」

「竜神リアモンド。」

「はい?」

「破壊神フィオリナ」

「なぜそうなる?」

ぼくは、頭を抱えた。

アキルは、軽くぼくの額に手を当てて、顔を覗きこんだ。

「神界を覗いたら、『アビス』と『ヌビア』、『クォーク』の居場所を知らないかと、むこうから聞かれたよ。
おそらく、探すべき相手はあと、二柱。
まずは、カザリームのリウからの報告を待とう。」

よく煌めく黒瞳に、ぼくが映っていた。

「大丈夫。ドロシーもきっと無事だよ。」
「・・・ああ、そうだね。」
ぼくは、うなずいた。

あれは賢い子だ。
ただ無茶をする。例えば。
ドゥルノ・アゴンを自分が倒してしまおうとか。



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