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人形始末

エピローグ2

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「ところで、だ。」
ボルテックは。椅子に座り直すと、懐から、鏡の小片のようなものを差し出した。
見覚えがあった。

「これはと六層のウィルの世界で、やつの部屋にあった鏡!」

「そう。魔道院と冒険者学校の対抗戦のときは、映像を中継するのに使っていた。
で、だな。こいつを以前魔道院がつくった連絡機や水晶玉と組み合わせると、映像が送れる。」
「大したもんだ。」

ぼくは本気で感心した。

「さすがはウィルニアの鏡、といいたいところだけど、この短期間にそれをいじくり回して、使える機能をプラスしたんでしょ?
大したもんだ。」
「褒めるなら、ウィルニアを褒めてやれ。古の賢者は伊達ではない。」

ボルテックは、満足げに、手にした長方形のガラス片をなぜた。

「それより、リウたちはどうなったの?
無事にカザリームについたの? アシットとはどうなっているの?」

「フィオリナとしては、リウが一番、気になるんだろ。具体的には、あのやたら顔のいい魔王サマが、他の女に目移りしてないか、とか。」
「は、はっきり言うね。そういうのは、心の中の独り言で済ませるもんだけど。」
フィオリナは、ついでのように尋ねた。
「それで、わたしの人形はどこでどうしているの?
アシットは、十歳のわたしを連れ回しているということ?」

ボルテックは、ガラス片に指をすべたせた。
そこに現れたのは、フィオリナ、だった。
いや、こんなふうになったかもしれない、フィオリナだった。

どう見ても十歳の子供ではない。16か、17。今のフィオリナと同じくらいの年齡に見える。
顔立ちなど、フィオリナに違いないのだが。
柔和に微笑むその表情は、ぼくの隣にいる彼女よりも、帰って大人びてみえた。体も女性としての成熟を思わせるような、丸みを帯びている。

「アシットは、見事に人形を育てた。」
ボルテック自身の声が、誇らしげなのは、アシットを彼の弟子として認識しているからなのだろう。
「細部を作り替え続けることで、『成長』という概念を実現している。人間として『生きる』ことをもう6年は続けているのだから、これはもう人間でいいのではないだろうか。」

フィオリナは、黙った。
鏡の中の自分と、いまの自分を見比べるように。なにかそこに相違点が見つからないかと、でもいうように食い入るように、その姿を睨めつけた。

鏡の中のフィオリナは、笑っている。
肖像画を描いてもらうときのような、意識したポーズではない。
たぶん、それがいまの彼女の日常着なのだろう。上下繋ぎになった、作業服のようなものを着ていた。もとはクリーム色だったであろうそのツナギは、汚れ、ところどころに焼けこげたあともある。
全体にたっぷりしているが、前のジッパーを大きく開けているせいで、黒いタンクトップと、それを隆起されている豊かな胸の形がわかる。

手には、工具のようなものを握っていて、いま、まさに作業の途中に声を掛けられたのだろう。少し驚いた表情だ。

「これは・・・前にアキルから聞いた『写真』ってものに近い。転送云々以前に記録装置として、画期的なものになるぞ。」
「どうかな。」
ボルテックはそれには、懐疑的な様子だった。
「魔法の構築、維持、使用する魔力量。誰にでも扱えるもなではない。
これをやったのが、お主らの仲間のリウだと言ったら、納得がいくか?」
「いや、ぼくにも出来そうだけど。」
「おまえが参考になるかっ!」

まあまあ。
と、フィオリナが仲裁に入った。
「無駄な議論はさておき」

「おまえがそれを言う!?」

「魔道人形は、アシットの手によって人間として育てられ、安定して稼働しているわけ?」
「そうだ。
ドロシーの話だと、アシットは、彼女と結婚するつもりだったらしい。」
「どいつもこいつも非常識な!」
フィオリナは、鼻を鳴らした。
「わたしの替りに、お人形さんを?
そんなものになんで愛情を注げるのか。ホントに理解に苦しむわ。」

「まったくだな。」
ボルテックは、再びガラス片に指を滑らした。次の映像が現れる。

映像のなかのフィオリナは、あまりぼくには向けたことのない笑顔で、傍らの人物を眺めていた。
言いたくはないが。
それは、男女の間で、相手に媚びるときの笑顔だ。
フィオリナが、リウにそんな表情を浮かべていたのをぼくは、見たことがあった。
それ自体は、不快なものでも、なんだもない。
ただ、自分以外のものには、向けてもらいたくない表情ではあった。

同じ表情を、同じ顔で、映像の中の魔道人形が浮かべている。

相手は、やはり
リウ、
だった。

「おぬしらの仲間が、どうも俺の魔道人形を、巡ってアシットと一悶着あったようで、な。」
ボルテックは、憤懣やる形ないといった顔で、コツコツとガラス片を指で叩いた。
「結果、リウはこの・・・フィオリナ(β)と付き合うことになったらしい。
どうだ? 素晴らしく非常識だろう?」

映像のなかのリウは、フィオリナ(β)の肩を抱くようにしている。
たがいの視線が絡んでいる。
あれだ。マジでキスする五秒前、というヤツだ。

「いやあ」
こっち側のフィオリナに、凄まじい気がふくれあがるのを感じて、ぼくは慌てて言い訳した。

「ほっんと、すごいねえ、リウは。
フィオリナ以外の女には目もくれないんだね。」

逆効果、だったかもしれない。


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