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第三章 バルトフェル奪還戦

第47話 貰っていちばんヤな手紙

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少年は、見たところ、16かそこいら。
西域ではまだ「成人した」とはみなされない年齢である。
周りを威圧するような圧倒的な存在感もなく、一目で全員を魅了するようなオーラもない。

顔立ちは整ってはいるが、華奢で、弱々しさえ感じられた。

「アイザック・ブァウブル局長からは、ワル伯爵閣下に直接、お手紙をお渡しし、お読みいただいたうえで、お返事をきいてこいとの任務を、仰せつかっております。」

そのなんの変哲もない少年が、居並ぶ騎士たちを、その殺気立った目付きを、いまにも抜かれるであろう得物にかかった手を。
無視しして、歩き出した。

白い封筒にはいった手紙らしきものは、たしかに鉄道公社の封印がしてある。
これを宛先人、この場合はワルド伯爵夫人以外のものが開ければ、それだけで、公社に対する背信を問われる。

ワルド伯爵は、怒りを押し殺して、あゆみ出た。
「書状は確かに目をとおそう。」
彼は、炯々と光る眼で、ルウエンを睨んだ。
「回答もこの場で与えてやる。おまえたちの命を奪うこともしない、と約束してやろう。
だが、」
ワルドの無骨な腕が、少年から手紙をひったくった。
「おまえたちの無礼に対しては相応の罰をあたえる。公衆の面前でのむち打ち50回だ。
それで、まだ歩けるのなら、アイザックめに答えを持ち帰るがいい。」

無礼かどうかよりも、アデルは、衛兵を20名はしばらく、足腰立たないくらいに、ぶちのめしているのだ。
罰としたら、物凄く軽かったが、ルウエンは素直にそんなものをうけるつもりは毛頭なかった。

けっして、無能な領主では無いワルド伯爵には、手紙の内容などはわかっていた。
バルトフェルへの援軍を出さなかったこのを糾弾し、それによって、バルトフェルの管理を鉄道公社に任せるよう行ってくるのだろう。
拒否だ。
断固、拒否する。
鉄道公社などという得体のしれないものに、1片の土地も渡さない。

「ご返答については、ご心配なく。」

ルウエンは、小さなリュックから、白く濁った珠をふたつ、取りだした。

「連絡用の竜珠だ。」
ワルド伯爵の護衛のひとりがつぶやいた。
彼らはすべて、魔法のエキスパートとして、ワルド伯爵の護衛や通信、情報収集を行っている。
ルウエンが取り出したのは、紛れもない竜珠。
正真正銘の竜珠だ。

通信用の魔法球は、かなり普及はしている。
それは竜珠であって、竜珠にあらず。
あまりにも膨大な魔力を、要求する竜たまをスベックダウンさせ、人間にも使えるようにしたものだ。
だが、少年が取り出したのは、本物の、オリジナルの竜珠だった。人間が作動させるなら、魔法陣で連携した複数の魔道士が必要となる。

ルウエンは、そのひとつをアデルに手渡した。

「そっちは、ルールス先生に頼む。ぼくは、アイザック・ファウブル局長につなぐから。」

怒鳴りだそうとする伯爵を、護衛官は慌てて止めた。もし。
もし、そんなことができるのら、この少年少女は、ひとの姿はしていてもそれを越える化け物なのだ。やたらに刺激していい相手ではありえない。

「閣下。まずは書簡の内容を。」
止めて止まる伯爵ではなかったので、そんなふうに護衛の魔道士は言った。
言っていることはまともだったので、気を取り直して、伯爵は手紙の封をきった。
どんな文章であれ、内容であれ。
難癖をつけてでも、罵倒してやる。
そう思い込んでいた気持ちが、一瞬で冷えた。

最低限の儀礼の言葉も、挨拶も。
何一つなかった。

手紙の最上部には、はっきりと大きな文字で、「請求書」と記されていた。
宛名はワルド伯爵であり、請求者は、鉄道公社だった。

その下に書かれて文字をみて、伯爵は気を失いそうになった。
ほとんど伯爵領の年間予算に匹敵する金額であって、そんな金額を目にしたことなど、かれの生涯を通じてもなかったのである。

その下に細々とした明細が、書かれていた。
もともと、伯爵領であるバルトフェルの街がククルセウに襲われ、それを奪還するために、鉄道公社が払った費用。動員した兵の数。その日当。日々発生する兵糧代。
鉄道設備への保守義務がある伯爵への破損した鉄道設備の修繕費。

「な、なにを! なんだ、いったい、この金は!」
ワルド伯爵は顔を真っ赤にして叫んだ。
「ふ、ふざけるな。こんなものが支払えるか!」

「そこらは、アイザック・ファウブル局長と直接的お話ください。」
ルウエンは、竜珠に手を置いた。
珠の曇りが一瞬で晴れ、そこには、アイザック・ファウブルの顔が浮かんでいた。

あまりにも。
護衛の魔法士は、背すじが寒くなるのを感じた。
あまりにも画像は鮮やかだった。
まるでら古竜が竜珠を使っているときのように。

もう1つ。 アデルの操作する竜珠も負けず劣らず、鮮やかな映像を映し出していた。
こちらはまだ、若い女性だった。

部屋着で、ゆったりとくつろいでいるところに、通信をつながれ、慌てると共にちょっと機嫌を悪くしている。

「やあ、ワルド伯爵。お目にかかるのは久しぶりだ。」
珠の中の、アイザック・ファウブルは、にこやかに挨拶した。音声も明瞭テでまるきり、同じ部屋で話しているかのよつだった。
「今日はうれしい知らせをお持ちしたのだ。ああ、手紙は読んでくれたかね?」

「は、拝見している。」
ワルドは、答えた。鉄道公社の保安局長は感情にまかせて、怒鳴りつけていい相手では無い。そこらの自制はきく男であった。

「それは、誠にけっこう!
ご覧いただければわかる通り、鉄道保安局は、ワルド伯爵領最北端の街バルトフェルの奪還に成功したのだ。いやはや! わたしはもともと軍事的な解決を好む人間では無いが、勝利の美酒は格別なものがあるね。
もちろん、きみたちも喜んでくれているのだろう?
なにしろ、一兵も動かすことなく、街がひとつ戻ってきたのだからね。」

「そ、それは、たしかに感謝する。」
ワルド伯爵は言った。
「だか、この請求は・・・・・・」

「我々の保安局員の到着が早かったため、街が焼かれたのは、駅周りのごく一部、組織だった掠奪も行われていなかった。もう数日遅ければ街はもっと悲惨なことになっていたはずだ。
いや、間に合ってよかった!
バルトフェルの支配者としては、喜んで貰えると思う。」

ワルドは、呆然と珠のなかの鉄道公社幹部の顔を見つめた。

まったく、その通りだったのだ。

「我々は、本当に必要な経費を一部、負担してもらいたいのだ。ああ、そこには、記載してないが。」
アイザック・ファウブルは、手元の書類にチラリと目を落とした。
「退却するククルセウ軍に我々は追撃を試み、これに痛打を与えることに成功した。さらに、ククルセウの手に落ちた山中の砦も破壊した。」

彼はにこやかに笑った。

「これらの武勲については、なんらかの褒賞があると期待しているがいかがかな? 伯爵閣下。」

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