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05 ぎこちない生活
黒い手のひら
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ヘルゼルが戻ってきたので、俺達は掃除屋の仕事に復帰した。
成果だけ見れば、今までと何も変わらないか、それ以上の数をこなしていた。それほどまでにヘルゼルが与えられた全身義体のスペックは高かったのだ。
だが、心境は違う。
今までの、廃棄物を処理した時に感じる晴れやかさや達成感が、無いのだ。一切。
この成果は、ヨミがもたらしたもの。
ヨミが作らせたヘルゼルの全身義体、そのスペックが無ければ、為し得なかった仕事。
その事実が俺とヘルゼルの心に影を差し、頭から振り払おうとしても、定期的にしなければならないメンテナンスがそうさせてくれなかった。
二週間に一度、俺が寝ている間にヘルゼルはあの病院に出かけ、義体を診てもらう。本当は俺も付いて行って様子を見てやりたいのだが、ヘルは1人で行ってしまう。俺に心配をかけまいとしているのか、もしくは責任を覚えているのか。悔しいのは俺の方だ。
一度、義体に大きな損傷を負ったことがあった。
それは仕事に復帰したばかりの頃、ヘルは超再生する生身の肉体と同じ感覚で銃弾を肩に受けてしまった。ガキンと嫌な音がして、金属製のパーツがあたりに飛び散った。あっ、という心底驚いた顔をしていたのを、忘れることができない。多分この経験が、『もう自分の体は自分のものではない』という認識を刻みつけたのだろう。
廃棄物を処理して帰ってきても、ヘルは病院に行きたがらなかった。
「あいつが待ってるかもしれない」
そう言って2日間、壊れた肩のままで生活した。
そうしていると、事務所に電話が来た。俺が受ける。
『こんにちは。あの子の肩の具合はどうだい?』
「……馬鹿にしてるのか?」
ヨミだった。
「いやいや、心配しているんだよ、事実。伝達系に損傷があったら、時間の経過とともに状態は悪化するからね」
「どうしてヘルゼルの怪我のことを知っている」
「あの廃棄物は僕の部下だったからさ」
こいつは、どこまで、俺達の前に立ちふさがるのか。
「軽いウォーミングアップをしてもらうつもりで、弱いのを差し向けたんだけど、意外と悪あがきしたみたいだね。で、損傷の話に戻るんだけど、きちんとした施術の形になるからあの子に病院に来るよう言わなきゃ駄目だよ」
「もし、嫌だと言ったら」
「困るのは君達さ、一生ね。だんだんと腕、手、指が動かなくなって、義体の右腕分の重さを支えるのが辛くなる。ずうぅん、と、ぶら下がる重しのようにね。そうなる前に、素直に僕のところへ来た方がいいと思うけどなァ――」
無言で通話を切り、怒りにあかせて受話器を机に叩きつけた。
だが――悲しいかな、奴の言っている事に間違いは一つもなく、俺は涙ぐむヘルを説得して病院へ行かせざるを得なかった。
俺は、俺達は、もう憔悴しきっている。
しかし仕事はこなさなければならない。毎日朝日も同じ顔をして昇ってくる。
日々は、奴の庇護のもと、淡々と過ぎていく。
いつまで耐えることができるのだろうか。この屈辱に。
成果だけ見れば、今までと何も変わらないか、それ以上の数をこなしていた。それほどまでにヘルゼルが与えられた全身義体のスペックは高かったのだ。
だが、心境は違う。
今までの、廃棄物を処理した時に感じる晴れやかさや達成感が、無いのだ。一切。
この成果は、ヨミがもたらしたもの。
ヨミが作らせたヘルゼルの全身義体、そのスペックが無ければ、為し得なかった仕事。
その事実が俺とヘルゼルの心に影を差し、頭から振り払おうとしても、定期的にしなければならないメンテナンスがそうさせてくれなかった。
二週間に一度、俺が寝ている間にヘルゼルはあの病院に出かけ、義体を診てもらう。本当は俺も付いて行って様子を見てやりたいのだが、ヘルは1人で行ってしまう。俺に心配をかけまいとしているのか、もしくは責任を覚えているのか。悔しいのは俺の方だ。
一度、義体に大きな損傷を負ったことがあった。
それは仕事に復帰したばかりの頃、ヘルは超再生する生身の肉体と同じ感覚で銃弾を肩に受けてしまった。ガキンと嫌な音がして、金属製のパーツがあたりに飛び散った。あっ、という心底驚いた顔をしていたのを、忘れることができない。多分この経験が、『もう自分の体は自分のものではない』という認識を刻みつけたのだろう。
廃棄物を処理して帰ってきても、ヘルは病院に行きたがらなかった。
「あいつが待ってるかもしれない」
そう言って2日間、壊れた肩のままで生活した。
そうしていると、事務所に電話が来た。俺が受ける。
『こんにちは。あの子の肩の具合はどうだい?』
「……馬鹿にしてるのか?」
ヨミだった。
「いやいや、心配しているんだよ、事実。伝達系に損傷があったら、時間の経過とともに状態は悪化するからね」
「どうしてヘルゼルの怪我のことを知っている」
「あの廃棄物は僕の部下だったからさ」
こいつは、どこまで、俺達の前に立ちふさがるのか。
「軽いウォーミングアップをしてもらうつもりで、弱いのを差し向けたんだけど、意外と悪あがきしたみたいだね。で、損傷の話に戻るんだけど、きちんとした施術の形になるからあの子に病院に来るよう言わなきゃ駄目だよ」
「もし、嫌だと言ったら」
「困るのは君達さ、一生ね。だんだんと腕、手、指が動かなくなって、義体の右腕分の重さを支えるのが辛くなる。ずうぅん、と、ぶら下がる重しのようにね。そうなる前に、素直に僕のところへ来た方がいいと思うけどなァ――」
無言で通話を切り、怒りにあかせて受話器を机に叩きつけた。
だが――悲しいかな、奴の言っている事に間違いは一つもなく、俺は涙ぐむヘルを説得して病院へ行かせざるを得なかった。
俺は、俺達は、もう憔悴しきっている。
しかし仕事はこなさなければならない。毎日朝日も同じ顔をして昇ってくる。
日々は、奴の庇護のもと、淡々と過ぎていく。
いつまで耐えることができるのだろうか。この屈辱に。
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