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02 烈火と黒犬
羨望の存在
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仕事料を払うからヘルゼルと仕事をさせてくれ、と言われることがよくある。無論、秒で断るのだが、奴らがそんなことを頼むのは単にヘルゼルが強いからだけではない。
こいつは、世間が誇るサイバネも、俺が操るパイロキネシスも凌駕する、驚くべき異能を持っているのだ。奴らの目当てはそれであり、その先に何を考えているかが透けて見えるので実に実に実に腹立たしい。
「デシレー?」
「……あ、ああ。なんだ?」
「電話?」
部屋に入ってきていたのか。仕事終わりで疲れてぼんやりしていたのか、気が付かなかった。
「まあ、そうだな」
「なんの話だったの?」
ダブルベッドに横たわっていると、清潔で柔らかい白のシーツがふんわりと全身を包んでくれる。
雲の上にいるような。世俗のことを忘れたいならあんたも今すぐシーツを洗濯しろ。
「また、お前を貸せってさ」
俺は隠さない。正直に、ヘルゼルがモノのように考えられている不愉快な事実を本人に伝える。
「えへー。人気者だなー」
そしてこいつは実感というか危機感というものを持ってもらいたい。
ぼふっ、といい音を立てベッドに突っ伏すヘルゼル。仕事以外の時間は殺気も無く本当に可愛らしい。思わず頭をくしゃくしゃ撫でてしまう。
「くすぐったー」
「誰にも貸したりやったりしねえよ」
「あ、でもさ」
俺の手をはねのける勢いでガバッと起き上がり、にこやかにヘルゼルはこう言った。
「俺、一度だけでいいからカンナくんと仕事してみたいな」
その言葉は俺を最高に苛つかせた。
「カンナ……? あの犬使いがなんなんだよ」
「え……だって、ほら、あの犬、ムクだっけ?」
「犬の名前なんて覚えてねえよ」
自分の大人気なさをはっきりと自覚しながら、俺はカンナという同業の男に嫉妬した。
「俺、動物好きなんだもん。ムクと一緒に廃棄物追いかけるの、考えたら楽しそうで」
「じゃあ二度と考えるな」
「でも……」
「犬をダシに釣られて、盾扱いされたらどうするつもりだ?」
「カンナくんはそんなことしないよ!」
「掃除屋にモラルがあるわけねえだろ!」
しばしの沈黙。お互いにふさわしい言葉を持っていない。
「……それに、ビスはどうするんだよ」
ふと思いついて俺は面倒なヒステリー女の名前を出した。ビスは、カンナの秘書なのだ。
「あいつはお前のこと嫌ってるんだぞ。そもそもそんな奴が隣に居て、仲良く仕事なんて出来る訳ないだろ」
「じゃあ、なんでそんなに怒るの……」
「もういい。寝る」
今度はふてくされている。まったく、お子様はどっちなんだ。俺の方こそ、世間が気に食わないからと言って未成年のくせにタバコを吸い始めた17歳の頃と、何も変わっていない。
壁の方を向いてイライラ寝転んでいると、背中をトントン叩かれる感触があった。
「……なんだよ」
「ごめんね」
俺は返事をしない。ヘルゼルは構わず続ける。
「もう変なこと言わないから……怒んないで」
俺のような勝手な男に対して、ヘルゼルはなんて健気なんだろう。
「……今夜まで」
俺はようやく、ボソリと吐き出した。
「今夜まで、何?」
「今夜まで怒らせてくれ。明日の朝には……治ってるだろ……」
自分の嫉妬心を飼いならせる日は、いつになったら来るのだろう。
そうしてこの日、俺達は別々の部屋で寝た。
こいつは、世間が誇るサイバネも、俺が操るパイロキネシスも凌駕する、驚くべき異能を持っているのだ。奴らの目当てはそれであり、その先に何を考えているかが透けて見えるので実に実に実に腹立たしい。
「デシレー?」
「……あ、ああ。なんだ?」
「電話?」
部屋に入ってきていたのか。仕事終わりで疲れてぼんやりしていたのか、気が付かなかった。
「まあ、そうだな」
「なんの話だったの?」
ダブルベッドに横たわっていると、清潔で柔らかい白のシーツがふんわりと全身を包んでくれる。
雲の上にいるような。世俗のことを忘れたいならあんたも今すぐシーツを洗濯しろ。
「また、お前を貸せってさ」
俺は隠さない。正直に、ヘルゼルがモノのように考えられている不愉快な事実を本人に伝える。
「えへー。人気者だなー」
そしてこいつは実感というか危機感というものを持ってもらいたい。
ぼふっ、といい音を立てベッドに突っ伏すヘルゼル。仕事以外の時間は殺気も無く本当に可愛らしい。思わず頭をくしゃくしゃ撫でてしまう。
「くすぐったー」
「誰にも貸したりやったりしねえよ」
「あ、でもさ」
俺の手をはねのける勢いでガバッと起き上がり、にこやかにヘルゼルはこう言った。
「俺、一度だけでいいからカンナくんと仕事してみたいな」
その言葉は俺を最高に苛つかせた。
「カンナ……? あの犬使いがなんなんだよ」
「え……だって、ほら、あの犬、ムクだっけ?」
「犬の名前なんて覚えてねえよ」
自分の大人気なさをはっきりと自覚しながら、俺はカンナという同業の男に嫉妬した。
「俺、動物好きなんだもん。ムクと一緒に廃棄物追いかけるの、考えたら楽しそうで」
「じゃあ二度と考えるな」
「でも……」
「犬をダシに釣られて、盾扱いされたらどうするつもりだ?」
「カンナくんはそんなことしないよ!」
「掃除屋にモラルがあるわけねえだろ!」
しばしの沈黙。お互いにふさわしい言葉を持っていない。
「……それに、ビスはどうするんだよ」
ふと思いついて俺は面倒なヒステリー女の名前を出した。ビスは、カンナの秘書なのだ。
「あいつはお前のこと嫌ってるんだぞ。そもそもそんな奴が隣に居て、仲良く仕事なんて出来る訳ないだろ」
「じゃあ、なんでそんなに怒るの……」
「もういい。寝る」
今度はふてくされている。まったく、お子様はどっちなんだ。俺の方こそ、世間が気に食わないからと言って未成年のくせにタバコを吸い始めた17歳の頃と、何も変わっていない。
壁の方を向いてイライラ寝転んでいると、背中をトントン叩かれる感触があった。
「……なんだよ」
「ごめんね」
俺は返事をしない。ヘルゼルは構わず続ける。
「もう変なこと言わないから……怒んないで」
俺のような勝手な男に対して、ヘルゼルはなんて健気なんだろう。
「……今夜まで」
俺はようやく、ボソリと吐き出した。
「今夜まで、何?」
「今夜まで怒らせてくれ。明日の朝には……治ってるだろ……」
自分の嫉妬心を飼いならせる日は、いつになったら来るのだろう。
そうしてこの日、俺達は別々の部屋で寝た。
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