Another World

第一章

挙措

立ち振る舞いには、気をつけなければならない。
自分の存在は、ちゃんと維持しつつ、目立ちすぎないように。
目立ちすぎると、疎ましく思われることもある。
それは、あまりよろしくない。
かといって、自分の存在を無いもののように扱われるのは、腹が立つ。
無視されることほど、嫌なことはない。
何もかもを否定された気持ちになる。
最近、俺は大人しくしすぎたようだ。
あいつは、俺の存在をわすれているようだ。
俺が、あいつの言いつけを守って部屋にこもっていたのが、いけなかったのだろう。
俺が優しくすると、あいつはすぐにつけあがる。
俺の存在を忘れると、どうなるか……。
思い知らせてやる。


「ギョホ！！」
太った男は、みっともない叫び声をあげた。
脂汗が一気に噴き出す。
トイレのドアを、妻がノックする。
「あんた、また痔がでたの？?」
男は、痛みのあまり答えることも出来ず、便座の上で悶えた。
「恥ずかしがってないで、病院いきなよ？」
妻のセリフに、男は心の中で何度も頷いた。