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後日談
第12話
しおりを挟む目の前に広がるのは、ピピンを前にして跪いたり頭を垂れる魔物の軍団。軍団で間違っていないだろう。膝をついているのはリザードマンなどの人形で、白虎のような四足の魔物たちは膝を曲げて伏せて頭を地面につけている。イタチやオコジョのように膝がないか足の短い魔物は後ろ足で立ち、頭を下げて敬意を表する。
そんな多種多様、大小様々な魔物がピピンの軍門に降ると言うのだ。
「私は軍を率いておりません」
ピピンの言葉にショックを受けた表情を見せる魔物たち。ざっと見でも500は超える魔物たちがピピンに忠誠を示すのは、僅か5分前の出来事があったからだ。
「我が主人の往く道を塞ぐものよ。行く手を阻むのであれば容赦せぬ」
一見、何もないように見えるダンジョンの通路。その先に広場があることは分かっていたものの、その前でピピンがみんなを止めて前に進み出た。
獣化した白虎の背にスライムになったリリンと一緒にエミリアの警護をしていたピピン。白虎に指示を出したのか「ガウガウッ」という返事を聞くと白虎の背を蹴り、着地前に人形になった。
リリンがスライムのまま触手を伸ばして膜を張る。
《 安心して。ここはピピンが片付けるから 》
「心配はしていない。エミリアとリリンの前で無茶も残虐な行為もしないだろうからな」
ピピンはエミリアとリリンに対して過保護だ。それを知っているからこそ、ダイバは心配していない。ただ、ピピンに何かあればエミリアが悲しむ。もちろん、ピピンもそのことを知っている。
それを避けるための『操り水』だったのだ。
「先ほど、ナイフ1本で斃れたのはそちらでは強いものだとお見受けします。そして、そこで姿を隠しているのはリーダーでしょうかね」
〈人語を話す……貴様はなにものだ〉
「なあに、ただの元魔人ですよ。今は神魔ですがね」
このピピンの言葉に無血開城ならぬ無血で信者と配下獲得となった。
「騰蛇とキマイラたちに預けようか」
「廃国に送りましょう。エミリアの望んだ『魔物との共存』の第一歩ですよ」
ピピンの言葉にエミリアが賛成したのは言うまでもない。
迎えにきた機織り女によって廃国に送られた魔物は、まず最初にエミリア教の信魔となるべく妖精たちの教育を受けることとなった。
「小型の魔物の方が素直ですね」
「強~いピピンに従うって決めたからね」
「私の主人に従うと決めましたから」
彼ら魔物はピピンではなくエミリアに従うようするらしい。そのために、エミリアがピピンの主人と理解するよう、エミリア教の教えを叩き込むようだ。
「さあ、この先には魔物はいません。安全に進めますが気は抜かないように」
《 はーい 》
ピピンの指示に妖精たちが声を合わせて返事した。
「と言ってるそばから、薬草を見落としてるよ」
エミリアが指をさした場所へ駆けて行ったアゴールは、獣化していた白虎に襟首を咥えられて後ろへとひっくり返る。獣化しているのはエミリアを背に乗せているためだ。
《 湿地帯ダンジョンじゃなくても、水が多い場所は胞子に注意しなさい! 》
「…………ごめんなさい」
水の妖精に強めに注意されて、アゴールはシュンと落ち込む。テントの中で注意を受けたばかりだ。振動によって胞子を飛ばす種類もいて、エミリアがさした場所にはその種類が生えていた。
「アゴールって菌の温床になる気だったの?」
「全身に苔の生えたアゴールか……。温室で培養するんだったか」
《 腐葉土に沈めようか 》
「ごめんなさぁぁぁい!」
エミリア、ダイバ、地の妖精の会話に、白虎の足の下に踏みつけられているアゴールが泣いて謝罪した。
水草と薬草はスレイとオボロが妖精たちの指導で採取した。
「悪い、ちょっと失敗した」
スレイが水草にナイフを突き刺したとき、草の陰に胞子を抱えていた水苔があることに気付かず揺らしてしまったらしい。
《 大丈夫、大丈夫。特殊な採取方法は慣れるまで時間がかかるから 》
《 慣れるまでは私たちが一緒にいるから 》
胞子を撒き散らす前に、地の妖精が眠り粉をかけて眠らせたらしい。
「気をつけてね。眠り粉を感じたと同時に、胞子や花粉を撒き散らす種類もあるから」
ほら~、と言いながら見上げた天井に凍った部分。一部は氷柱となっていた。キラキラと輝いている氷柱を見に近づいた地の妖精が慌ててエミリアの前まで戻ってくる。
「どうした?」
「大したことはないよ。天井にいた水苔が胞子を撒き散らしたってだけ。凍ってるから回収しても大丈夫」
凍らせたことで塗り薬としての効果はなくなったものの、薬草としての効果は残っているらしい。
《 ごめんなさい! 胞子を飛ばしていたんだから、天井で育っていてもおかしくないのにっ! 》
「大丈夫、大丈夫。今回知れたんだから。今度から天井も気をつけようね」
地の妖精は自分のミスだと謝罪する。その横で同じく自分のせいだと謝罪するスレイ。アゴールもまた、自分のせいだと落ち込む。
「仕方がないな~」
エミリアの声にみんなの視線が向けられる。
「今日はここまでで終わり。テントに戻ろう」
エミリアは謝罪や後悔を口にする仲間がいるとそれ以上先には進まない。落ち込んだ状態では新たなミスやケガをしかねないと知っているからだ。
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