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後日談
第3話
しおりを挟むすでに、エミリアのシステムは【死者の世界】で問題なく稼働している。唯一違うのは、ダンジョン都市でエミリアと関わった連中だけだろう。
ダンジョン都市でエミリアと出会った頃と同じ若さに戻ったけど、けっして思考回路が若返ったとは言わないだろう。……アゴールの執着は酷くなったようだが。
フィムたち子ども世代も、成人した姿で【夢の郷】で生きている。九十九神だったポンタも、人神として変わらない生活をしている。【夢の郷】に不便はない。妖精もいれば植物もある。まったく、ダンジョン都市と変わらないのだ。
「絡まれない分、こっちの方が前のダンジョン都市みたいに平和だよね」
エミリアの言うとおり、【夢の郷】に戻った直後のエミリアは『英雄の帰還』を知って絡まれたものの、水の妖精たちによる記憶の書き換えによって混乱は落ち着いた。
今では特別視されることもなく、平和な日々に戻っている。
エミリアの一度目の家族ともいえるマーレンとユーシス兄弟やその両親は、互いに感謝を告げて生まれかわった。4人はすでに違う人生を送っている。マーレンの生まれかわりの青年はアクアやマリンとは仕事で友好関係を築いている。
「アクアとマリンはマーレンという人物を看取った。そこですでに完結している。いまの出会いは偶然、だろうね。世界を旅する冒険者たちと、国で冒険者を管轄する役人なんだから」
マーレン、今生ではグレイという名の青年は、地元にある冒険者学校を卒業後したものの冒険者にはならなかった。王都にあるギルド職員育成学校に進学し、優秀な成績で卒業した。
いまの時代では、パーティやクラン、さらにその上を管轄する冒険者ギルドというピラミッドが成立している。卒業試験で成績優秀者のひとりに選ばれたグレイは、ギルドを管理する組織【コミューン】に所属している。
コミューンとは、冒険者個人からギルドまで。冒険者に関するすべてを管轄する組織で、各国・各大陸に存在する。
グレイは国の代表として大陸会議に参加しているものの、その立場は各国から選出される7人の補佐のうちの末席。情報収集に長けているために抜擢されたようだ。
ちなみに、【パーティ】がエミリアのように気心の知れたものたちやダンジョンの攻略や依頼を受ける仲間を指す。そしていくつものパーティが集まった組織が【クラン】。キッカやユージンたちは2人から10人以下の少人数でパーティを組んでダンジョンや依頼を達成するものの、彼らの所属は変わらず【鉄壁の防衛】であり、クランのひとつとして登録されている。
もちろん、エミリアのように単独でクランに属さない冒険者もいる。
冒険者ギルドからみれば、エミリアはソロの冒険者だ。妖精だけでなくピピンたち魔人や獣人はエミリアの従魔(聖魔)であり、冒険者登録をしているのがエミリアのみ。
「魔人や獣人でも登録は可能なんだけどね」
個人として登録すれば、ピピンたちは冒険者扱いとなる。しかし、ピピンたちに『エミリアの聖魔』という立場を辞める気はないらしい。
「私たちはエミリアの聖魔としてエミリアの補佐につきます」
「ねえ…………私たちが冒険者と認められたら、獣化して出歩いてもいいの?」
「襲ってきたら、遠慮なく息の根を止めるわよ。そっちが私たちを殺そうとするのに、こっちが手加減してあげる理由はないわよね?」
ピピンの宣言を聞いて渋っていた冒険者ギルドやクランの職員たちは、白虎の言葉に目を見開き、リリンの微笑みに青ざめた。当然だろう。場合によっては重労働を科せられる重罪のひとつに『冒険者が罪なき人を襲う』というものがある。討伐依頼には、数少ないものの盗賊も対象になっている。主に討伐隊が組まれるのは守備隊や警備隊、国の兵士たちが中心となる。しかし、戦闘のプロである傭兵や腕に覚えのある冒険者にも依頼が届く。
討伐に加わっても昔のように『人を襲うな』という冒険者のルールがあっては、参加もできない。武装している討伐対象者を無傷で押さえることはできない。魔法で痺れさせても、それは攻撃として罰の対象となる。それと同様に、獣化している獣人であっても襲い掛かれば罪に問われるし、襲われた相手が反撃しても軽い罪に問われる。
「神が減るんだから、ちょっと規制を緩めても良くない?」
エミリアの言葉で冒険者のルールが改変されたのは、生前に起きたあの死闘から世界が落ち着いた頃。各職業ギルドがルールを見直して少し緩くなったものの、懲罰自体が緩くなったわけではない。
騰蛇のように、罪深い犯罪者の行く末がダンジョンのボスになるのは変わらず。騰蛇に飲み込まれた者の首や腕には、騰蛇による印がつけられて……ダンジョンのボスが討伐されたら
「人間生活ゴキゲンヨウ。魔物生活コンニチワ。討伐されたらハイ、オワリ。それでは皆さんオタッシャデ」
エミリア曰く、ダンジョンのボスにされるほど重い罪を犯した者は二度と真面な生き方は許されない。魔物の中でも心の醜いオークやゴブリンに生まれかわる。
「誰に聞いたんだ?」
「あの世でダラけてた無能神」
死者の世界を統轄している神が聞いたら全否定するであろう言葉を発したエミリア。それに同意するように頷くピピン。そして……
ワン!
キャン!
【夢の郷】では小犬の姿で現れる2頭が尻尾を振って同意した。
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