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最終章
第758話
しおりを挟むいままでは妖精たちや神獣たちに聞いたり教えてもらった話を伝えただけ。
「じゃあ、ここからは私が知ったことを教えるわ」
そう前置きして口を開く。
初めの違和感は、私のいた世界とそれほど変わらない点。生活や食事、タッチパネル方式のステータス画面。そして、身分証とその機能。
「魔法があって科学がないけど、元の世界と似すぎていたの」
だから、私は一時期混乱した。「視聴者参加型のドッキリ番組に強制参加させられているじゃないのか?」って。
「そして、私はここムルコルスタ大陸から離れた。あのとき、預けられた聖女のチカラを限界まで使っちゃって、私の精神が限界だったこともあって眠りたかったし。その前から神経も精神もすり減らしていたし。まさか記憶まで手放さないと自己が保てないなんて思いもしなかったけど」
「……え? じゃあ、記憶は?」
「この世界に来る前までの記憶だけ完全に戻った。ここにきてからのことは、ある程度は知っている。あと足りないのは感情かな? だから当時のことを覚えていない」
それで……と言って、話を続ける。私の記憶のことは、本人が気にしていないんだから神妙になる必要はない。
「ダンジョン都市で色々な情報を集めていた。だいたい、ムルコルスタ大陸以外では聖女を召喚してるなんて知られていない。聖女は神に仕える女性の称号なんだよ。だから、神殿に行けば聖女なんてゴロゴロいる。『下町の聖女』もいる。そこで聖女のことを調べ始めた。と言っても、一番はルーフォートの町で譲られた蔵書の数々。あの中には聖女に関する記載も結構あった。そして『失われた女神』の存在が引っ掛かった」
そして、私たちはムルコルスタ大陸を調べ始めた。それを知った妖精の仲間たちが調査にも行ってくれたのだ。
「じゃあ、危険を承知で私たちにくっついて渡ってきていた妖精たちって」
「アラクネが作った服で簡単に消えないようになって、行動範囲が広がったから調査に向かったんだって」
そして……様々なものを持ち帰ってきた。そのほとんどが『失われた女神の神殿』に関するものだ。禁忌として近寄ることもできない場所。そんなのは妖精たちに通用しない。その結果、彼らは遺跡にまで辿り着き、残されていた書物などすべてを持ち帰ってきた。その代わりに次に向かう妖精たちに鎮魂の花を供えるよう頼んだ。
レイモンドが見たというのはそのときの花だ。
「それで、あのジャミーラ……女神様のことに気付いた?」
「正確には『失われた女神の真実の存在』をね。でも、ジャミーラを実際に見て『美しさの女神』だと確信した。『ジャミーラ』と言う単語を知っていたこともあるけど。憎しみで変わり果ててしまっていたけど、雰囲気は『失われた女神の神殿』から妖精たちが持ち帰った絵姿と似てたし」
そう言って、私は絵姿の一つを収納カバンから取り出す。慈しみの眼差しをした美しい女神の姿に誰もが目を奪われ、女神の最期を思い出し涙する。
「そして、きっとこの世界は『私のいた世界の神々が元の世界から分離させて創ったもう一つの世界』だと思った。だからこそ、私の世界にあまりにも似すぎていた。……私のいた世界はこの世界と違い、神を身近に感じない。信心が廃れたわけではないわ。ただ、神が混在しすぎただけ。ひとりの神の呼び名が各地域で変わり、その神を偶像化させたときに各地の特徴が混じっていった。……ここの『なんとかの神』という呼び名は、同じ轍を踏まないため。古代の神に名の概念はなく『我を好きに呼べ』と言った。そのため、各地に神の名が口伝で広がるときに聞き間違い、言い間違いで広がっていった」
「神に名前があるの?」
シシィさんの言葉に頷く。
「全能神、創造神。そんな位置に立つ最高神でも、信仰によって呼び名が違う。国によって男神だったり女神だったり変わるし。まあ、信仰の数だけ神がいて、信仰の数だけ神の名があり、信仰の数だけ神にまつわる物語があるの。私のいた国だって、主だった神々以外に『八百万の神』っていわれる神も存在する。八百万って書くけど無限に近い神がいるって意味。かまどの神でも、同じ国だけど地域によっては『おくどさん』って親しみを込めて呼んでる地域もある。他国ではヘスティア、ウェスタなどね。そして神話もその数だけある」
それにポンタくんも八百万の神の一人だよ。
そういったら硬い表情で聞いていた人たちから「あ、身近すぎて忘れてた」と笑顔が返ってきた。
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