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最終章
第754話
しおりを挟むそして今、私はみんなと一緒にレイモンドの近くにいる。彼もまた『この世界を救った英雄』なのだ。
「久しぶりに身体を動かして、さすがに疲れた……」
「怠けすぎ」
「ハハハ……。相変わらず手厳しいな」
「甘やかされて育ってきたバカのくせに」
「ああ……バカだな。……あの日、俺の公開処刑を見にきていたんだろ」
コクンと黙って頷く。あの日、私は遠くから見ていた……
「自分の気持ちを切り替えて、ゆっくりでも小さくても。前へ一歩ずつ進むために」
「そのときの俺に向けた目、あれのおかげで俺は自分の中に蟠っていた気持ちと向き合えるようになった。国内外を彷徨っていた時、遺跡に手向けられた『枯れない花』を見た。……アレはキミが手向けたんだな」
「正確には妖精たちが。テントに作った温室で育てた『私のいた世界の花』だ。妖精の妖力が加わっているから、どんなところでも枯れない」
遺跡……旧シメオン国の『失われた女神の神殿』のことか。あれがジャミーラの神殿だという仮説は間違っていなかった。
「ああ、そうだ。バカでもクズでも頓珍漢でも『王都治療院と審神者が引き起こした様々な事件』を知っているよね」
私の『バカでもクズでも』という言葉にレイモンドは「オイ……」と苦笑したが反論はない。そして頓珍漢と言われて表情が引き攣った。
……初めて会ったときに今の彼だったら、きっと良い友情関係が作れたのではないだろうか。しかし、そうなると、私がこの世界で会った沢山の人たちと出会えなかっただろう。城を抜け出して冒険者になっていた可能性は大いに残されているけどね。
「俺が処刑されるまでに起きた事件なら、地下牢にいたが聞いていた。だが不死人となって追放されてからはあまり……。ただ、連中が王都で何をしたかったかはわからん」
「王都、というより国を滅ぼせば聖女の召喚術が失われる、という考えだったようだよ」
「なんだと……?」
私の言葉に驚きの声が上がったのはレイモンドだけではない。……このことを知っているのは聖魔たちのほかにはダイバだけだ。
「元々旧シメオン国は『失われた女神』の信仰国だった。……今は違うけどね。国は一度滅び、今の国民は旧シメオン国建国からいた一族とは違う人たちだから。旧シメオン国の国民は『神の怒り』を買って流民となった」
……それが、ジャミーラが女神から悪神に落ちる最大の原因であり、旧シメオン国の国民たちの信ずる世界の転換だった。
王都治療院で事件を起こしていた主犯格の連中は、旧シメオン国の出身者だけど商売などで国を離れていたため流民にならなかった、失われた女神の信者たちの末裔。流民にはならなかったことで、細々と信仰は残されていた。
それでも、周囲から差別や迫害を受けてきたのだろう。この世界には、村とはよべない集落がいくつか存在している。そのうちのいくつかが、住まいを追われて肩を寄せ合って生きてきた……ジャミーラ教の信徒たちの末裔。
まるで日本で行われたキリシタンへの迫害のようだ。
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