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最終章
第730話
しおりを挟むピピンがナナシとのニアミスを含めて、廃国のことをダイバたちに説明する。暗の妖精と水の妖精は、自分たちが一族ごと捕まったときの話をする。……あまりにも酷い内容に全員が言葉を失う。
2人の一族を生け捕りにしていたのはナナシだった。元女神なら、妖精たちを見ることができるのも当然だ。見ることができれば生け捕りも可能。
《 しびれる効果が含まれた毒草が風上から撒かれたんだ 》
《 私たちは意識を刈り取る薬草が植えられて……。風の強い日、その草が花粉を撒き散らして…… 》
「それが、運良く見つからなかった子たちから仲間たちに情報が広がった」
そして火の妖精との偶然の出会い。
「巡り巡って、屋台で売られていた『瓶詰めの妖精』を見つけた。眉唾物だと言われていたんだ。店主も、『水に油でも混ぜているんだろうな』と疑っていた。それでも購入者がいなくて商人たちの手を渡り歩いたことで金額が高くなっていったの」
白大金貨三枚(日本円三千万円)。それが、ビン詰め火の妖精の価値。
《 エミリア、ひどい! もっと高いもん! 》
「当時は」
《 前からだもん! 》
「白大金貨三枚、でしたね」
ピピンに当時の金額を正確に告げられると、火の妖精もさすがに黙ってしまう。少し涙を浮かべているけど、以前のように発火することはない。
時間はかかったけど、火の妖精も妖力の制御ができるようになった。暗の妖精や水の妖精、ピピンに協力してもらってきたのだ。発火するたびに消火してもらい、ピピンからは触手をももらい。今では興奮しても発火することも周囲の気温が上がることもない。
「火の妖精。あれはビン詰めの金額だよ」
《 私……もっと、価値、あるもん 》
「今は、ね。当時は『揺らすとオレンジ色にきらきら光る液体の入ったガラスビン』の価値だけだったんだよ」
必死に涙をこらえる火の妖精に、『火の妖精は値段に含まれていない』と説明する。前からビン詰めの値段を自分の値段だと誤解しているのだ。
「そうね。いまはこのダンジョン都市では、欠かすことのできない大切な仲間だわ」
それに気付いたミリィさんが別の方向からフォローを入れてくれる。それに火の妖精が顔を上げる。そこにコルデさんが追随する。
「アゴールの護衛隊長も受け持ってるだろう?」
《 ……しってるの? 》
「ああ。アゴールのそばにいつもいるだろう?」
コルデさんはちゃんと火の妖精を見ていてくれた。
それが嬉しいのだろう。ふらふらふら~とコルデさんに近寄ると、目の前の机の上にちょこんと正座して見上げる。一瞬驚いたコルデさんだったけど、すぐに優しく頭を撫でてあげると嬉しそうに目を閉じた。
妖精たちは自分から触るけど、心を開いた人にしか触れさせることはしない。いままでは文句を言いつつ遊んでくれるダイバしか妖精たちに触ったことがなかった。
妖精たちは、少しずつ心を開いているのだろう。
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