上 下
707 / 789
最終章

第720話

しおりを挟む

「まず最初に疑問に思ったのは、アルマンさんの立ち位置」

鉄壁の防衛ディフェンス内で、何の役職にもついていない。それでいて、特別に権限を持っている。

「隊員というより顧問に近い。私はそう思っていました。全員が交代でダンジョンに潜って魔物の討伐に行ってるけど、アルマンさんはいつも王都で待機組だったから。それなのに、ルーフォートやジャロームの一件。セイマールにヤスカ村も向かいました」

その違いは大きくひとつ。

「冒険者ギルドによる緊急クエスト。その場合、城門で行われている出入りチェックはスルーです」
「罰せられるような罪は犯していない」
「ええ、賞罰欄には。もちろん鑑定にも残らない内情でもありません」
「じゃあ、何が問題だったと思うのかな?」
「……失われし女神。旧シメオン国の出身で、移民後の棄教や衰退により流民るみんを免れた人々の子孫。……違いますか?」

アルマンさんはちょっと目を開いたものの、すぐに目を細めた。

「やっぱり。エミリアちゃんは正しい答えにたどり着いたのだな」

やはり正解だったようです。

「冒険者になったのには大した理由はない。武器が使えて魔物に対峙しても怯えない。それだけでなれる職業だった。王太子という立場は、国を追われた身では一切役に立たないものだと知ったんだよ」

アルマンさんは昔を懐かしむようにポツポツと話をはじめました。

王太子というのは自国でのみ許された立場であり、知識も自国以外では通用しない。剣と一般常識、それ以外に世界に通用するものなどなかった。それでも、異腹とはいえ弟妹たちのために自分ができることは、不自由なく幸せな人生を送ってもらうこと。

弟妹たちがひとり、またひとりと巣立っていく。そして側妃たちもまた、我が子の旅立ちを見送ると、自身の新たな道を歩んでいく。最後は自身の妹。そして迎えた母の再婚。

「もうあなたの人生を歩んでいいのよ」

母にそう言われて気付いたら…………目標を見失っていた。

「冒険者も弟妹や母のために始めたこと。それ以外に、移民の自分にできる稼ぎ方はなかったからだ」

移民は身軽なため、就職しても長くいつかないこともある。災害や戦争、小さなトラブルがあったら、ほかの町や国に真っ先に避難してしまう。業績が悪化すれば商会や店から真っ先に首を切られ、逆に従業員もサッサと見捨てて退職を選択する。

だから、信用されない。重要な仕事は与えられない。その国でまだ信頼関係が築けていないから。
美味い話に飛び乗り、職場を裏切ることすら悪いことだと思わない。

「ルーフォートの冒険者ギルドにいたメルリみたいに、でしょう?」

メルリは周囲から向けられた親愛の情に気付かず。目算が含まれたあからさまな偽りの愛情と温もりを追い求めた結果……家族を巻き込んで、大きな犯罪の一端を担ってしまった。
それに気付いたときはすでに手遅れになっていた。

「懐かしいですね。メルリは冒険者ギルドの受付嬢をしていたときに犯した情報漏洩の借金を間もなく返し終わるようだよ」

メルリの家族だけでなくルーフォートの冒険者ギルドの仲間たちも、メルリやその家族が負った借金を少しずつ返済していったそうだ。

「二度目の罪を止めることが出来なかった自分たちにも責任がある」

自宅謹慎は罰ではないことを知っていた。そして当の本人メルリが情報漏洩に対しての罰は慰謝料だけだと勘違いしていても、間違いを指摘することも訂正もしなかった。

「メルリは家族とは別の場所にいるんだっけ?」
「家族とは二度と会うことはできない。信用を落とし、信頼を裏切った罪は重いからだ」

仕方がない。ギルドの受付嬢の職にありながら、私の個人情報を人身売買を取り扱っている貴族に渡してしまった。それも、二度も。
二度目は自宅謹慎を破ったことで、監視役だった家族まで罪を負わせてしまったのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」  かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。   『お飾りの王妃』    彼に振り向いてもらうため、  政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。  アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。  そして二十五の歳。  病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。  苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。  しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。  何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。  だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。  もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。  自由に、好き勝手に……私は生きていきます。  戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。