上 下
705 / 789
最終章

第718話

しおりを挟む

わるい子に属する竜人たちの未来には暗雲が立ち込めていた。仕方がないだろう。劣化版の竜たちが生まれ育った『竜人の里』はムルコルスタ大陸周辺の島にあり、いま彼らがいる島に近い。

待っているのだろうか? 「帰ってこい」という声を。「近くにいるなら、顔を見せにこい」なんていう優しい言葉を。

〈無理に決まっているだろう〉

火龍はそう言い捨てた。火龍は私が助けた暗竜の子の一件で、彼らの里とつながりができていた。それで分かったのは、竜の里では正しい歴史を教えていたらしい。

「竜から竜人に戻れなくなったからって、正しい歴史を自分に都合よくねじ曲げて思い込むなんて………バカなの? アホなの? 底なしのどアホなの? 救いようのない超弩級どきゅうのバカなの?」

それで「自分はだ」と…………

〈無礼だ〉
「無礼だよね」
《 底なしだよね 》
「救いようがないな」
《 救う必要はないよね 》
銀龍おかあさんをいじめて子どもたちまで殺して悪龍にして、死んだ黒龍お父さんの背を借りて住んでいたのに。龍と竜の大きさの違いもわかんないなんて。…………愚かだよね」
《 愚か者は救う価値なし! 》
《 異議なし! 》

ということで、火龍が竜人たちの里に住む一族に、愚か者たちが犯してきたこれまでの罪をことこまかく話してきた。

どこの一族も、自身の仲間たちが多くの国の繁栄と衰亡に関わり、数多あまたの生命を弄んできたことを聞いていきどおった。そして、ダイバたちの一族のように人との婚姻で血を薄くし、共存に成功していると聞いて

〈自分たちが、ほかの種族からは『劣化版』と呼ばれていることを知ってショックを受けておったわ〉
「それを言っているのはエミリアと妖精たちだけだ」

ガハハと笑う火龍に呆れた声でツッコむダイバ。ただ、これがきっかけとなって異種族間交流が始まるのもそう遠くはない。

〈ダンジョン都市シティなら差別も少ない〉

そう考えた火龍が、劣化版の竜人たち代表をプリクエン大陸に連れて来るのは数年後のこと。

その中で聖女わたしの存在を知って無理矢理襲おうとした若者たちが、激昂げっこうしたアゴールの鉄拳いちげきによって瀕死の重傷を負った。彼らは竜の姿でアゴールに向かったことで、火龍との再戦が出来ない鬱憤の溜まっていたアゴールの良き標的になった。
スッキリした表情のアゴールは心の広さをみせた。ストレス解消の立役者ほこさきになったことで生きて里へ帰ることが許された彼らが「彼女の強さは異種族の能力を引き継いだからだ」と伝えたことが、さらなる異種族との交流を進める結果となる。

…………そこにはピピンの思惑も含まれている。

「アゴールに倒された連中が目覚めて口にした水は普通の水じゃないだろう?」
「もちろん、私がつくった水ですよ。竜人でも効くことはシーズルで実証済みです」
「お前なあ……」
「エミリア教による世界征服へいわのため、ムダな争いを回避したまでです」

ダイバが頭を抱えてこの秘密を隠蔽するように、ピピンに言い聞かせた。

「ピピン、黙ってろよ。それが知られたら、利権目当てでエミリアが狙われるぞ」
「仕方がありませんね。それは得策ではありませんから。エミリアのために秘密裏に動きましょう」

ピピンが竜人(劣化版)一族を平和裏へいわりに手中に収めた……

「エミリア。私の、ではなくエミリア教の信者が増えただけです」

……だそうです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

みにくい王子様《完結》

アーエル
ファンタジー
むかしむかし、双子の王子様がいました。 見目麗しい兄王子と、みにくい姿の弟王子。 人々は言います 「兄王子の美貌には絢爛豪華な衣裳がよく似合う」と。 人々は言います 「弟王子の美貌には麻でできた衣服がよく似合う」と。 ☆他社でも公開

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。