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最終章
第702話
しおりを挟む彼が一緒のときはテントで過ごす。
私と契約した聖魔たち以外の妖精は入ってこれず、聖魔たちも私たちの邪魔をしない。いつもなら一緒に眠る寝室に彼が来ているときは絶対入ってこないのは、ピピンから「2人の邪魔をしたいなら店から追い出します」と宣言されたからだ。
「店⁉︎ テントからじゃなくて?」
「店ですよ、もちろん。御神体の恋路を邪魔するものは、エミリア教からも追放します」
そう言われては、イタズラ好きな妖精たちでも私たち2人が一緒のときは邪魔やイタズラをしようなどとは思わないらしい。その代わり、周囲の人間に八つ当たりがきたそうだけど……私たちの平穏のために犠牲になってもらおう。
屋台村で屋台を冷やかして、周りから冷やかされることもある。それは「過度で下世話な内容でなければ許します」と教祖様から許されている。しばらくすれば、周りも見慣れたのか揶揄われなくなった。
「ようやく認めてもらえたようですね」
「誰に?」
「ここの人たちからですよ。エミリアさんは大切にされているのですね」
「うーん? でも、ピピンが認めたのに不平不満を言ってたら」
そう言って立ち止まり、頭いっこ高い彼の顔を見上げる。手を繋いでいる彼もそのまま立ち止まって私を見下ろす。
「言ってたら?」
「ピピンの怒りを買ってエミリア教から追放されるよ。だってピピンは教祖様なんだから」
「そういうエミリアさんは大切な御神体でしょう?」
「…………それだけ?」
ちょっと拗ねてしまう。『みんなのもの』より私は……
「『エミリアさんは私だけのもの』と言いたいですが……『エミリアさんの人生に寄り添えるのは私だけ』で我慢しましょう」
彼は私を抱きしめると
「本当は独占したい気持ちがあります。ですがそんなエゴが強い私は見苦しいと自覚しています。ミリィ隊長やアゴールのようにエミリアさんを独占したいという優しい感情ではありません。どこかに閉じ込めて誰の目にも触れさせたくない。…………手放したくない。そんな狂気に似た利己主義者なんです、本当の私は」
と苦しそうに吐露した。
それは私のせいだ。突然、エイドニア王国からいなくなった私。その理由が分からず自身を責めていたそうだ。再会して、私の記憶がないことを知った。ふたたび自身を責めた彼だったけど、精神的な疲れからきたものだったと知った。さらにミリィさんと新しい関係が結ばれていたことから、私とも「はじめまして」から始まった。
私に告白をしてくれたのはそれから数年後のこと。ちゃんと縁が強まったと確信してからだった。
「一緒にいると安心する」
そう自覚したが、それが恋だとは分からなかった。
ゆっくりと互いを、というより私の思いが恋に昇華するまで彼は寄り添い、ダイバたちは見守ってくれた。
「エミリアに相応しくないと思えば、ピピンが真っ先に抹殺しているだろ」
ダイバがそう言って笑い、ピピンが「もちろんです」とすました表情で頷いた。
「エミリアを悲しませたら…………どうなっても知らないよ?」
リリンが妖しく微笑む。
そんな周りの様子に一頻り笑った彼は「エミリアさんは誰からも好かれていますね」と優しく微笑んだ。
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