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第十二章

第696話

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「お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

ピピンが俺の代わりに口を開く。前にいる俺がレイモンドの様子を注視するためだ。

「何でしょう? 私で分かることでしたらお答えします」
「あなた以外には答えられません」

ピピンの言葉にレイモンドは不思議そうな表情を見せた。オヤジとアルマンの2人も引っかかっていたのだろう、ちらりと俺に視線を向ける。

「まず、前回召喚したのはいつでしょう?」
「私が聖女様の召喚をする300年前……です」
「そのときは成功しましたか?」
「はい、成功しました。そのときの聖女様はまだ7歳か8歳だったはずです」
「ちょっとまて。前回はエミリアちゃんが召喚される10年前で失敗しているはずだ」
「…………し……失敗、して……?」

淡々と答えるレイモンドに「待った」を掛けたのはアルマン。彼の指摘にレイモンドの目が泳ぐ。

「…………そう、でした。あれは兄が立太子の儀式が行われた年です。召喚しようとしたのは当時23歳だった従兄いとこでした」

王弟にあたる彼の父が王位継承権を放棄したことで、その従兄はレイモンドの兄が誕生するまでは王位継承権第一位だった。しかし、レイモンドの兄が王位継承権第一位に。そしてレイモンドが誕生したことで王位継承権は第三位となる。

「12年間ずっと周りに認められるような王太子になるために頑張ってきた。それが、王妃である私の母が懐妊。ですが生まれるのが王女なら王位継承権はそのまま」
「……辛かっただろうな、其奴ソイツも」

アルマンが遠い目をしてそう呟く。彼が滅びた国の王子だったと俺は知っている。自分の過去ことと思いを重ねたのだろう。

「いま思い返すとそうなのでしょう。ですが当時はそこまで考えられませんでした」

聖女様の召喚をまだ教えられていなかったレイモンドは理由を知らなかった。
ただ『叔父とがいつの間にかお城にこなくなった』と認識していたくらいだ。それも従兄の年齢から、結婚して遊びに来られなくなったんだろうと自己完結していた。

「私が聖女様の召喚について教えられたのは、父に地下牢に入れられたあと。兄が私に会いに来てくれたときでした」

国王ちちおやがレイモンドに教えなかったのは次期国王ではないから。それでも王族であるなら知らなければならなかった。

「私たち王族には女神から与えられた聖女様召喚の能力が血の中にあります」
「それはその身体に流れる血をいうのか? それとも血脈を指すのか?」
「嫡流、といいますか。国王になった者にのみ引き継がれていくようです」

俺の質問にレイモンドは言い方をかえる。それは国王の血を持つ者に、ではなく継がれるのだろうか。俺はそこに引っ掛かりを覚えた。
俺が黙ったからだろうか、背後から「それでは確認させていただきます」とピピンが前置きする。

「あなたの言葉をお借りするなら、『召喚が成功する最低条件は、女神が与えた召喚能力を持つ者のみ』と言えますね」
「ええ、そうです」
「召喚条件が国王と次期国王だけという理由も、そこにあるのでしょうか」
「はい、そうだと思います」
「それでは、第二王子であったあなたがなぜ召喚を成功出来たのです? それも2人も」

ピピンに返される言葉はない。驚きの表情を見せたレイモンドが言葉を失っているからだ。
ピピンの指摘に俺もようやく引っかかっていたことに気付いた。

「なあ。『聖女の召喚が王家の2人にしか許されない』ということを、君の従兄やひい祖父さんの姉貴らがなぜ知らないんだ?」
「えっ?」

そうだ。以前に聖女の召喚の話を聞いたときにエリーが言っていた、「聖女様の召喚は罪深いもの」だと。「だから国王陛下と王太子以外に聖女様の召喚は許されない」とも。

国民が知っていることを、レイモンドだけでなく従兄たちがなぜ知らないのか。
レイモンドの視線が俺からオヤジたちに向けられる。数年前まで国民だったと知って、確認するためだろう。

「国民なら誰もが知っている。だから、聖女様の召喚は事前に公表されて、その日その時間には誰もが手を止めて神に祈る。聖女様の世界に起こるであろう被害が最小限で済むように。そして、お預かりした聖女様をうやまい大切にすると誓うんだ」

アルマンの言葉に驚愕の表情を見せたレイモンド……

「少し休憩にしましょう。あなたも色々と記憶を整理させたいでしょう?」
「ああ、そうしてもらえるとありがたい」

疲れた表情のレイモンドはそう呟くと、目の前に置かれていたコップ一杯の水を一気に飲み干した。
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