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第十二章
第651話
しおりを挟む「お待たせしました」
「うん、待った」
「…………」
「寝て待とうかと思うくらい待たされた」
メッシュの言葉に素直に同意すると表情が固まった。さらに「遅すぎる」と含めたセリフを追加したら動きが止まった。今回の情報はムルコルスタ大陸に近い火山島に関する調査の報告ではなく、メッシュがナナシに干渉されていたかどうかの調査だ。
……調査が始まってから時間がかかっているから指摘したんだけど。
「スーキィ、チェンジ」
私の言葉にフィーメとフォッシュが椅子ごとメッシュを運んで下がらせる。そしてグッセムが新しい椅子を持ってくるとそこにスーキィが座った。
「結論から申しますと、メッシュは操られておりました」
「あらら」
「そいつはナナシから?」
「いいえ、シルキーの一件からです」
「おや、懐かし~いお名前が出てきたこと」
シルキーは『魅了の女神信仰』の一件で母親に凍結された、情報部の見習い記者だった。あの一件以来、見習いとはいえ記者という立場だった彼女は自らの行いを恥じて日々魔導具の試用検査員として働いている。
「それにしても……魅了遮断の魔導具を使ってるのにいつ籠絡されたのやら」
「それなんですが……メッシュうるさい。そんなの自業自得でしょう」
私と話していたスーキィが急に口調を変えて、バラクルから追い出されたメッシュに向けて強く言い放つ。『シンクロニシティ』……妖精たちの持つ『脳内ネットワーク』の四つ子バージョンだ。
問題は、ついつい口頭で反応してしまうことだろうか。そのため、今のように説明と反論という同時進行が起きてしまう。それは脳に届くというより普通に耳から声として聞こえたような錯覚が起きるかららしい。
「メッシュに伝えて? 『やあ~い、ばーか』って」
「はい。メッシュ、エミリアさんからの伝言よ。『やあ~い、ばーか。効果切れ直前の魅了遮断の魔導具なんか着けてシルキーの母親に惑わされた管理不十分なバカの顔なんて当分は見たくもない』ですって」
一気に言い放ったねえ。それも私の伝言に、追加情報を聞いたら私が言いそうなセリフを織り込んで。面白いからスーキィの言葉に口を挟まずに黙って耳を傾ける。
「なに言ってるのよ。自分が身につけている魔導具の自己管理は情報部所属なら当然でしょ」
そうだ、そうだ~。
「忙しかった? そんなこと言い訳になるはずないでしょ」
そうだ、そうだ~。
「だいたいねえ、魔導具のチェックは『自分がどこで影響を受けたか』を知るための基本でしょ! いくらダンジョン都市だからって安全じゃないのよ」
そりゃあねぇ。鎖国で閉鎖された日本じゃなく、入るのに厳しいチェックがあるけど外部からの来訪者を受け入れているんだから。
「昨日は何事もなく、今日も問題がなかったとしても、明日が平穏無事ってわけではないもんね~」
「その通りです」
ありゃ、口に出していた……?
チラリとスーキィに視線を向けると、何か企んでいるような微笑みを浮かべていた。
「あーあ、メッシュの生命もこれまでか。……惑わず成仏してくれ。南無南無~」
メッシュに待ち受ける未来を憂いて、手を合わせて拝んでおいた。迷い出てきたら……腐葉土プールに埋めるか、南部にできた村の肥溜めに沈めておこう。
それにしても、どこでシルキーの母親にヤラレタのか。メッシュは一応『シーの一族』という妖精だ。
「ケット・シーだからねえ……餌付けでもされた?」
「いいえ、籠絡ですね」
「それこそ、いつの話よ」
「それがですねぇ……」
シンクロニシティによる小さな感覚の違和感が、スーキィには引っかかっていたらしい。メッシュはそのあとに必ず魅了遮断の魔導具を交換していた。
「シンクロニシティを伝ってメッシュから3人に侵食した?」
「未遂です。私たちも魅了遮断の魔導具を身につけているので」
スーキィたちは妖精たちのネットワークに関する調査もしてきた。自分たちとは違う種族だが、情報共有という点では同じなのだ。そこで、強い衝撃を受けるとほかの妖精たちにも伝達されることを知った。明太子のディップを試した妖精たちの衝撃が都市の妖精たちに伝わって、悶えたり気絶した妖精もいた。そのことから、自分たちも精神から影響する可能性があると判断して魔導具のチェックを厳しくしていたそうだ。
「ダンジョン都市にいるからって気が緩んでいたことをメッシュは恥じ入るべきです!」
実は恥じ入っているからこそ、調査が完了していても言い出せなかったらしい。今回のことをスーキィたちは簡単には許さないつもりだ。
《 いーよ、いーよ。ユーリカが役に立つ新人さんだから、こっちは大丈夫。しっかり叩きのめしておいて。エミリア教の教えどおり、一度目は許すけど二度目はないからねー 》
私が妖精たちに教えたことを教祖が『エミリア教の教え』として広めている。
「一度目は許すけど、注意されたことを繰り返したら許さないからね」
そう教えたことから、ピピンはそれを徹底している。そしてピピンのあたえる罰の恐怖は妖精たちに伝わっているため、《 教えは絶対守るもの 》と染みついている。
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