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第十二章

第647話

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情報収集管理課ウラチョウに私が足を運んだのはナナシに関する情報を……ではない。いやその先にいるかも知れないナナシに結びつく情報を探すためだ。

《 エミリアに見せられる情報はこれだけ 》

すでに私が何のために来たのか気付いている妖精たちが、応接セットの机の上に書類を用意してくれていた。そこにあるのは魔物の目撃情報および各国に関する調査報告書。農作物をはじめとした自然界自体にも動きがあるかも知れないからだ。

《 それ以外に確認したいことがあったら聞いて? 見せられる情報なら渡すし、ほかの情報と一緒だったら口頭で教えるから 》
「りょーかい」

ソファーに座っていくつもの小山に分けられた報告書に手を伸ばす。小山は大陸ごとに分けられているのだ。その横にはレポート用紙とペン。これは私が所有して日本と繋がっている宝箱から購入している日本製だ。こんな配慮ができるようになったのも、妖精たちが精神的に繋がっている情報共有ネットワークのおかげだろう。

『図解 ものづくりの本』を日本から購入して、ポンタくんを通じて各国の魔導具職人に情報を拡散してもらっている。ポンタくんが情報を選び、それを本として売り出すのだ。その売り上げはポンタくんが7割で私が3割。私はいらないと言ったのに「この本がなければ技術は向上しなかった」と押し切られる形となった。最初は逆だったのだから、まだマシだと考えることに。

「ん? んんん? ん~?」
「エミリアさん、どうしました?」

うなっている私に声をかけてきたメッシュに返事をせずに唸り続ける。私の前にいる妖精たちも、直前まで開いていた書類を覗くと私と同じように腕を組んで一緒に考えだす。

「んんんん~?」

考えすぎて思考の糸がこんがらがって……ソファーにと転がる私。そんな私にクッションを渡してくれる妖精たち。そして書類を覗いてまた悩むような表情になる。

《 考えやめてー。ドアを開けるよー 》

ドアの前に向かった妖精がそう声をかける。カギを開ければ妖精たちの思考がほかの妖精たちに伝達してしまう可能性がある。そのため声を掛け合って一旦考えを止める必要があるのだ。

全員が両手をあげる、妖精たちもメッシュとユーリカも。メッシュとユーリカはそのまま椅子から立ち上がって机の前まででている。盗聴や盗撮の魔導具を使用していないという証明だ。その隙に妖精が机の周りに魔導具がないことを確認する。

《 ほら、エミリアも 》
「はーい」
《 ほら、クッションは離して 》
「はーい」

横になったまま抱きしめていたクッションごと手をあげる。妖精たちがクッションを手にかけたのを確認して、持っていた手をゆるめる。その手を掴んだ妖精たちに促されて、身体を起こしてソファーから立ち上がるとそのままソファーから離される。ソファーをひと通りチェックした妖精が両手をあげた。

《 ゴメンね、エミリア。 私たちのエミリアのことを疑ってるわけじゃないの 》
「わかってるよ~。これは私が不正していない証明のためでもあるんだから」

ドアの前で申し訳なさそうに謝罪する妖精に私は首を左右に振る。妖精たちにしてみれば、『自分たちが信仰しているエミリア教の御神体に失礼なことをしている』と思っているのだ。しかし崇拝している私にも同等に扱い公私混同をしない彼らだからこそ管理が必要な部署を任されるのだ。

《 ありがとう、エミリア。……では開けまーす! 》

そう言って開けられたドアの前にはダイバが立っていた。


「そうか、ここが」

トントントンッとダイバの指が地図の一点を叩く。

「うん……なんだろう。何かあったんだよ、何か思い出しそうなのに……」
「無理して思い出そうとしなくていい。ユーリカ、ここの情報に何か覚えがあるか?」

頭を抱える私を隣に腰かけたダイバが抱きしめてくれる。すべて思い出せたわけではない。だから、何かをキッカケにして思い出せない何かに怯えてしまう。メッシュは妖精たちと書架からムルコルスタ大陸に関する調査書を引っ張り出している。私はともかくダイバにも見せられないため自分の机に調査書を広げているが……

「エミリアさんを抱きしめて頭を撫でて……見せつけないでください」
「お前は早く情報を探せ」

メッシュは妖精たちがおこした『エミリア教』の信徒第7号。ちなみに0号がミリィさんで1号はアゴール。ダイバが3号で、コルデさんとアルマンさんが5号と6号。……4号は永久欠番。そしてメッシュが7号。

《 メッシュはダイバに嫉妬しているヒマはなーい! 》

ぱこぱこぱっこーん!
ドンッ

妖精たちに頭を叩かれたメッシュは分厚いファイルを頭に落とされた。書架にまだ残っていたのだろう。
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