上 下
619 / 789
第十二章

第632話

しおりを挟む

「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん」
「俺たちに話ってなんだ?」

お祖父ちゃんたちから「大事な話がある」と言われた私は、店の2階の応接室で話をすることにした。ここにいるのはお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、ダイバと私、そしてピピンたちだ。

「まずは、エミリアちゃん。我々に何か聞きたいことがあるのではないか?」

そう聞かれて、隣に座るダイバを見る。ダイバにはなんでも話している。夢の中で聞いたことも、なんでも……

「あっ!」

ダイバに言ってないことがあった。私があげた声の意味に気付いたのだろう、ダイバがコツンと私の頭を小突こづく。

「お祖父ちゃん、最後に夢であったとき……私の本当の名前を言ったよね⁉︎」
「そうだったな」
「なんで⁉︎ なんでダイバ以外に知らない名前を知ってるの!」

ダイバは夢で私が呼ばれた名前を知っている。あとは私と行動を共にしていた魅了の女神だけだ。

「そうだな、何から話そうかね」
「この世界の成り立ちからの方がいいわね」

お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは小さく話し合うと頷いて私たちに顔を向ける。その真剣な表情で、私たちの背筋が伸びる。真面目な話だと気付いた妖精たち6人も、私の前のテーブルに正座して並ぶ。ピピンたちは私の後ろに椅子を並べて座った。もし私が聞き逃しても、ピピンが記憶してくれるだろう。

「この世界は……」

お祖父ちゃんが口を開く。その口からもたらされた情報は驚きの方が大きく、とても大事な内容だった。私とダイバも質問をしたが、一番多く質問していたのは暗の妖精クラちゃん地の妖精ちぃちゃんだった。内容が内容だけにピピンは黙ってメモをとり、魔導具で話を記録した。

「あとで書面に起こします。その方が共有しやすいでしょう?」
「また話をしよう。そのときにまた質問をすればいい」

……途中で休憩を挟んだものの何時間も続いたお祖父ちゃんの話は、それほど大変な内容だった。


「エミリアさん、大丈夫?」

ダイバに運ばれてバラクルに用意された自分の部屋に戻された私。食事の時間になると妖精たちに部屋から引っ張り出されて1階のバラクルへ。そして今もピピンに連れ出されてこの場にいる。

「放っておくと食事もしないで脳内処理を続けるんだろ? バラクルにいれば食事だけは時間どおりに食わせられる」

そう言って運ばれたものの、食事中でも聞いた話に意識が向かって手を止めてしまう。それにアゴールが心配そうに声を掛けてくる。その横に座るフィムは妖精たちに助けられながら自分で食べている……つもりである。妖精たちはスプーンや口からこぼれ落ちるご飯をスプーンに戻したりフォローをしている。

「エイイア……」
《 フィム、お口に食べ物が入っているときは喋ってはいけません 》

私に声をかけようとして妖精に叱られたフィムは頷くと、両手で口を押さえて一生懸命モゴモゴさせる。ごっくんとして口を大きく開いたのは、なくなったから喋っていいかアピールしたつもりだったのだろう。しかし妖精にご飯を入れられてしまい、両手で口を押さえてモグモグとはじめる。

「エミリア、お前も手を止めたらフィムみたいに妖精たちに食べさせられるぞ」

隣で食事しているダイバの言葉に妖精たちが私の周りに集まってくる。

「……自分で食べる」
《 手と口が止まったら食べさせるからね 》

妖精たちの脅しにコクコクコクと頷いた私の右の耳に風の妖精ふうちゃんが近付くと《 大丈夫だよ、考え事は部屋に戻ってから一緒にしようね 》と言って安心させてくれる。

「お祖父さんたちから何を言われたの?」

アゴールが心配そうに私を見てくる。

「大丈夫だよ、アゴール。心配してくれてありがとう。……まだ聞いた話が頭の中でまとまってないから言えないけど」
「言えなくてもいいの。ただエミリアさんに負担がかかっているのが心配で……」
「アゴール、こうなると分かっていたから連れてきたんだ。手が止まっていたら声をかけてやってくれ」

ダイバの言葉にアゴールが頷く。
一緒に聞いていたダイバ自身も驚きの内容だったはずだ。それを表に出さずに仕事をこなしている。仕事をしているから考えなくてもいいのかもしれない。妖精の幼稚園ができて、アゴールも復職している。

少し前までダンジョンに入っていたけど、いまはローテーションで事務管理。ダイバも隊長として、朝出勤すると机の上に山になった書類を昼には片付けている。事務管理の間は、書類が片付けばその日の勤務は終了。一番早いときは出勤1時間で勤務が終了した。

そんなに仕事ができるダイバでも、提出する書類を作成するのが苦手だ。いつもならアゴールに任せていたけど、妊娠と出産で同行できず。それでも遠征に行ったダイバや仲間たちから聞いて報告書を作成しようとする。そのためダイバは自分で作成するようになった。作成後にアゴールに見せてチェックを受けてから提出しているけど……。それも最近では手直しを受けなくても提出できるまでになっている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は聖女になる気はありません。

アーエル
ファンタジー
祖母は国を救った『元・聖女』。 そんな家に生まれたレリーナだったが、『救国の聖女の末裔』には特権が許されている。 『聖女候補を辞退出来る』という特権だ。 「今の生活に満足してる」 そんなレリーナと村の人たちのほのぼのスローライフ・・・になるはずです 小説家になろう さん カクヨム さん でも公開しています

異世界追放《完結》

アーエル
ファンタジー
召喚された少女は世界の役に立つ。 この世界に残すことで自分たちの役に立つ。 だったら元の世界に戻れないようにすればいい。 神が邪魔をしようと本人が望まなかろうと。 操ってしまえば良い。 ……そんな世界がありました。 他社でも公開

今日は許される日です《完結》

アーエル
ファンタジー
今日は特別な日 許される日なのです 3話完結

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愚かな貴族を飼う国なら滅びて当然《完結》

アーエル
恋愛
「滅ぼしていい?」 「滅ぼしちゃった方がいい」 そんな言葉で消える国。 自業自得ですよ。 ✰ 一万文字(ちょっと)作品 ‪☆他社でも公開

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。