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第十二章
第628話
しおりを挟むフィムの熱発は疲れからくるものだ。原因を取り除いてゆっくり休ませればすぐに回復する。夢の中は精神が休まらない、起きた状態が続くのだ。いまは幼稚園でリリンが香りで眠らせたため、夢を渡る能力をもつフィムでも夢をみないで休めているだろう。ダイバたち一家の部屋にいないのは、その部屋ではゆっくり寝られないからだ。
「フィムに何をさせていたのよ!」
カーンッと脳内でゴングが鳴って、本日何度目かの夫婦ゲンカが始まった。ここはバラクルの1階、すでに店の名物となった客寄せをダイバとアゴールの夫婦ゲンカを止めることは誰もしない。『夫婦喧嘩は犬も食わない』という諺がある。下手に仲裁すれば巻き込まれる…………ノーマンやオボロさんのように。
「エミリアちゃん」
一瞬落ち込みかけた私の頭をアルマンさんがポンポンと軽く叩く。その隣で苦笑するコルデさん。向かいに座るシエラとシーズルも苦笑しつつ目の端に涙がにじんでいる。
「今日の理由は?」
「ダイバに言われたとおりフィムが私につきっきりになってて……昼も夜も私のそばにいるため夢の中へ来てて……」
「全然休んでいないのか?」
「身体は休めてるけど精神は夢の中でも起きているから」
「エミリアさんは大丈夫なのですか?」
シエラが心配そうに私を見てくる。……私は平気なのだ、夢を見る前にノンレム睡眠で脳が休んでいるから。フィムは深く眠るノンレム睡眠までいかず、浅い眠りのレム睡眠にいる。そして私が夢を見るレム睡眠に入るとやって来る。
「それって……じゃあフィムはエミリアさんが夢を見るまで待ってるの?」
シエラの言葉に頷くと4人から大きく息が吐き出された。
私もそれを知って驚いたがそれはダイバも同じだった。
「おじいちゃんがね、それを教えてくれたの」
そう、ダイバに伝えるように言われたのがそのことだった。夢を見ていても、ノンレム睡眠に入れば夢の中でも眠っているらしい……私は。それがフィムは一度も寝ていないらしい。おじいちゃんたちがつきっきりで起きていた。しかし、横になって眠る私がフィムを抱きしめて寝ていても、フィムは優しい笑顔で私の頭を撫でながらずっと起きている。
「おじいちゃんがいうにはシェシェだって深く眠っている時間があるんだって。それなのにフィムは一度もないの。ずっと私が夢をみるのを待ってて、私が夢に入るとずっとそばにいるの」
「夢の中で何をしているんだ?」
「フィムのこと?」
そう尋ねると頷かれた。
「私が夢をみるまでおじいちゃんたちがフィムの話を聞いているんだって。そして私が夢をみたら、私の夢にきて一緒におじいちゃんたちから色んな話を聞いてる。神の時代の話だったり、おじいちゃんたちの話だったり。コルデさんがフーリさんにプロポーズする練習を家で何度もしてたから、おじいちゃんは一言一句間違えずに言えるとか……」
「なっっっ⁉︎ なにを……」
「えーっとね~。『フーリ。君の微笑みは周りを暖かく包み、俺の心を明るく照らす……』」
「エミリアちゃん!!! しぃー!!!」
慌てたコルデさんではなく、顔を真っ赤にしたフーリさんに口を塞がれた。
「んんん~」
「オフクロッ! エミリアの鼻まで塞いでるから」
「ダメッ。エミリアちゃん、それ以上言ったらダメー!」
「分かった。エミリア、それ以上はいうな。いいな?」
コクコクコクと何度も頷くとフーリさんの手が離れた。……コルデさんを揶揄うだけだったのに、フーリさんの反応が早かったな。
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