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第十一章
第608話
しおりを挟むダイバが迎えに来てバラクルへ。妖精たちも含めて誰にも会わないという異常事態で私は不安になっていた。いつも開店以外は店の外階段に座っている私服守備隊すらいない。……不安で仕方がなかった。
「エミリア、大丈夫だから」
「……帰る」
「……ったく、強気なクセに臆病なんだからな」
ヒョイとダイバに持ち上げられる。
「ダイバ、女の心をわかってな~い」
「女? どこに?」
「うぅぅぅ……」
左腕で私を抱えて歩くダイバが立ち止まって周りを見回す。ムカついて、私の顔の横に……いい位置にあるダイバの肩にカプッ、カミカミ。
「おわっ! やめっ、くすぐって~!」
カミカミ、カミカミ。
「くすぐってぇって、いってるだろ」
「エミリア。ダイバなんか不味いから、食べたらお腹壊すよ」
「はい、浄化。口にしたいならこれをどうぞ」
リリンが止めるとダイバが小さく「おいっ」とツッコミを入れる。ピピンは私の口と手を水で浄化するとチョコチップクッキーの入った菓子鉢を渡してきた。
「お、エミリア。俺にも1枚」
「お運び代」
クッキーを1枚ダイバの口に近付けると器用に咥えて咀嚼する。遠くにバラクルが見えると緊張が爆発しそうになってきた。
「もう帰る」
「だーめだ」
「おうちへGO!」
「だ・め・だ」
「ダメじゃない」
「夢の中で約束しただろう?」
「忘れた」
「いーや、忘れてない」
「まったく記憶にございません」
「都合が悪くなったら忘れる記憶喪失は認めない」
「……おやすみ」
「夢の中への逃避行も認めない。っていうか、そんなことしてみろ。アゴールが喜んで監禁するぞ」
「……謹んでお断りさせていただきます」
そんなやりとりをしていたら、ピピンに菓子鉢を取り上げられた。と同時にバラクルの扉が開いてアゴールが飛び出してきた。そのままダイバの腕からもぎ取るようにアゴールの腕の中に……
「エミリアさん! 心配したんだから! 泣いてるのに、近くに行けなくて……なぐさめて……あげられなくて!」
そういえば、夢の中にダイバが現れたとき、アゴールが私の夢にはいられないって起きてから泣きじゃくっていたって言ってたっけ。
「エミリアを責めないでください。エミリアには、気持ちを整理するための時間が必要だったのです」
「だけど、ダイバが行ったら泣き止んだって……」
「だから違うと言っただろう? 俺とフィムが行ったらもう泣き止んでいたって」
アゴールがダイバの言葉を確認するように見てきて、私はコクコクと頷く。
「魅了の女神と泣いたから」
「……もう、大丈夫?」
心配そうなアゴールの目。見ていられなくてアゴールに抱きつく。
「もうしばらくは……泣く」
悲しみは簡単に癒えたりしない。限界まで泣いても、その後に浮上できても。また思い出して涙を流す。
みんなも同じだったのだろう。アゴールとダイバに連れられて入ったバラクルにはたくさんの人たちが集まっていた。その何十人もの人たちの目は憂いを帯びていた。
「エミリア、ひとりに全部任せてしまって悪かった」
シーズルがみんなを代表して謝罪を口にすると全員が一斉に頭を下げた。妖精たちからノーマンたちの死の真相を聞かされて、みんなも泣いて過ごしていたそうだ。
「それでダイバから聞いた。ノーマンたちの弔い合戦をするのだろう?」
「……すぐじゃない」
「ああ、それも聞いた。まずは女神の」
《 女神じゃない! 》
《 ナナシだ! 》
シーズルの女神発言に妖精たちが一斉に抗議を始める。中にはシーズルの耳や頬を引っ張って抗議をしている。名なしで共通することが決定していたようだ。
「……すまん。そのナナシの居場所を探しだす。そして可能ならその場所から逃げ出せないようにして」
《 みんなで叩く! 》
《 みんなで蹴りとばす! 》
《 みんなで踏みつける! 》
《 そしてー! 絶対に反省させるぞー!!! 》
「「「《 おおおおおおー!!! 》」」」
妖精たちだけでなく、男性たちも一緒になって握りこぶしを突き上げる。驚いたことに、靴を脱いでイスの上に立ったフィムも一緒になって「おおおー!」と小さな握りこぶしをあげていた。
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