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第十一章
第600話
しおりを挟む「みいつけた」
「……!!!」
そんなに驚くことじゃないよね。たとえ『飛翔』の魔法で「お空からこんにちは」だとしてもさ。
「アウミ。あんた、いつまで逃げ回るわけ?」
「エミリア……」
「ノーマンたちを殺して。パルクスで『生き女神様』と崇められてさ。アウミ、あんた何がしたかったの」
「殺してない……私、殺してなんか」
「その手を血に染めていなくても。……その先に死が待ち構えていること、わかってたよね」
カタカタカタ……死者は暑さ寒さを感じない。それでも震えているのは恐怖からだろうか。
この場にいるのは私だけではない。黒色とまだら模様の四つ目のわんこがアウミの背後で待機している。この子たちは私に時間をくれているのだ。
「ノーマンは……みんなは孤独で寂しい人だった。だから……」
「ノーマンはアウミ、あんたが連れ出した翌日に恋人へプロポーズをする予定だったんだ」
アウミの目が驚きで見開かれる。
「ルレインも結婚間近だった」
「……知らない。そんなこと、私、知らない」
「知らないで許されないんだよ。生まれや育ちがどうであれ、幸せをつかもうとしていた人たちを不幸にしてさ。アウミ、あんたは無邪気な子供の姿で人を誑かす悪魔だよ」
「ちがう、ちがう! 私は悪くない! 何にも悪くない!」
手を伸ばして私に襲いかかってくるアウミ。しかしその伸ばした右腕はアウミの前を横切ったシュヤーマが噛み千切った。シュヤーマが咥えた腕は黒く炭化して消えていく
「ああああああああああああああああああ!!!」
ヒジから先を失いその場で膝をついて、シンと静まり凍てつくこの空間をつんざくような悲鳴で切り裂くアウミ。千切られた腕も黒ずみ、端の方からパラパラと風にのって崩れていく。
「痛くないでしょ、したいなんだから」
アウミは死体であり死隊でもある。手足を失おうと痛みは感じないのだ。現に私が指摘すると黙った。
「この子たち、サーラメーヤは現世に彷徨う魂を神のもとへと誘う使者。お前たちが死隊なんぞ作り出して戦場に送り続けたせいで、この子たちの仕事がここ数年多くなってねえ。いい加減、元凶をお片付けしたいんだってさ」
「い、や……死にたくない……死にたくない」
涙を浮かべて顔を左右に振る。その姿は痛ましく、普通なら庇護欲を駆り立てるだろう。しかし相手は大量殺人犯であり……私にそのような態度は逆効果だ。
「そんな言葉が通用すると? たくさんの人たちを死なせたアンタが?」
「私は、殺して、いない」
「戦争は大量殺人。それを命じたのは国王だろうけど……戦争を仕向けたのはアウミ、あんただよ」
「ちがう! 私は女神様の御意志に従っただけ!」
「その女神とやらの名前は?」
「…………え?」
「神には各々役目がある。権利に商売に冒険者。その自称女神の役目は?」
アウミの目が泳ぐ。
「家族を目の前で失い、自分も死にかけた。前にそう言ったよね」
あれはまだダンジョン都市にいた頃だ。フィムが誕生して触れ合っていた頃、家族の思い出を話していた。
「そのときに女神が現れて自分だけを助けた。その女神はなんでアウミだけを助けた?」
「それは……私が選ばれたから」
「じゃあ、アウミはなぜ家族を見捨てたの?」
「…………え?」
「選ばれたんだったら『家族を助けて』と言ったら助けてくれるんじゃないの? まだ2歳の弟を可愛がっていたんじゃないの?」
思い至らなかったのだろう。驚きの表情で思考が停止したようだ。
「アウミ……家族が亡くなった理由は? 魔物ならアウミ自身も捕食されている。人間による襲撃? それだって目撃者を生かすはずがない」
目が揺れている。思い出そうとしているのだろう。都合の悪い記憶を消されているかもしれない。しかし……家族を殺したのは名もなき女神だろう。旧シメオン国の流民はすべて自分の信者。
「信仰の犠牲になるのだから誉れであろう」
そう考えていてもおかしくはない。
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