上 下
579 / 789
第十一章

第592話

しおりを挟む

「「「さんっ!」」」
「「「にいっ‼︎」」」
「「「いーち!!!」」」
「お待たせいたしました! 新年のパーティー、開始します!」

カウントダウンのあと、舞台に立った新都長が高々にパーティーの開始を宣言する。

毎年正午から始まる新年のパーティーは今年も無事に正午にあわせて開始された。午前は都長の引き継ぎ式など公式行事が行われ、宣言が新都長のお披露目も兼ねている。

「さ、みんなも頑張って売っちゃって」
「「「はい!!!」」」
「みんなもフォローよろしく」
《 はーい 》

農園で収穫した物を売っている私の屋台。昨年の新年パーティーから、売り子はセウルたち生産者本人に任せている。自分たちで作った物を売る。屋台には魔石が設置されていて、魔石がレジスターの代わりだ。これで売り上げがひと目でわかる。
これが何百年前もから使われている魔導具だというから驚きだ。
しかし、この魔導具があるおかげで安心して屋台を任せられる。これで屋台の売買に慣れれば、屋台村で屋台を開くことも可能になる。店舗みせを構えることができなくても屋台を持つことは可能なのだ。それを考えて、屋台を用意した。

ひとつはセウルたち兄妹の屋台。幼くても礼儀正しい子供たちの屋台は、昨年の売り上げナンバー1だった。野菜が足りなくなりそうになって、セウルが農園の貯蔵庫まで戻って野菜を追加して切らさないようにしたのだ。貯蔵庫は空になったが、屋台に出した野菜は完売した。
パーティーの終了直前に4人揃って舞台上にあがり表彰された。そのときに屋台村の営業権を与えられたのだ。営業権は私が預かっている。

ゼオンはひとりでふかし芋や焼き芋を作って配っている。色んな芋を販売しているが、試食という形で味見をしてもらうことで客が味を気に入って結構並んでいる。

フリンクとベイルは穀類用の屋台だ。米粉や小麦粉でクレープを作って販売している。果樹園でできた果物だけでなく小さなアリシアが一生懸命作った果実のジャムも使っていることで、女性や子供たちに大人気だ。

「このジャム、販売していないの?」
「すみません。そのジャムはここにいるアリシアがエミリア様に作り方を教わってはじめて作った物です。販売できるほど作ってはおりません」
「え……? あなたが作ったの?」
「……はい。ごめんなさい」

踏み台に乗ったアリシアに頭を下げられて、誰が文句を言えるだろうか。それも「ジャムが美味しいから買いたい」と訴えたのであって、「不味いもんを作るな」と言いたいわけではない。

アリシアが完熟した果実をみて半泣きしたのだ、「ごめんなさい」と。「はやくつまなかったから」と。完熟する前に摘むことで屋台に出せると思っていたのだ。

農園担当の妖精たちに聞いて、ここの農園では完熟した物を売るんだと教えた。そして完熟しすぎたものはジャムにできるとも教えた。そしてジャムの作り方を教えて一緒に作った。完熟した果物は砂糖がいらないのだ。今年はそれで作ったシロップをお湯で割り、ゆず茶も提供している。希望者には甘さにハチミツを加えているが、全員がハチミツを入れる。砂糖もそうだがハチミツも高級品なのだ。
今年はテンサイを育てたため、テンサイから作られた砂糖を使ったジャムがクレープに使われている。

ゼオンのふかし芋はじゃがバターに、焼き芋は揚げ芋大学いもにランクアップした。バターを作るのに牛乳を提供して作り方を教えたら、男の子たちは「誰がいちばん先にバターを作れるか」という競争を始めて、屋台で振る舞ってもまだまだ余っている。バラクルから「余ったら買い取らせて」と言われているため、連日容器にいれて「「「ウオォォォォォ!!!」」」と叫びながら振りまくっている。


一昨年までの屋台では妖精たちが農園で作った日本の野菜を売っていたが、私が販売していると時々バカがホイホイと寄ってくるのだ。

「アクセサリーは何時から販売しますかぁ」
バッコーンッ
「アクセサリーの注文をしたいのですが」
スパコーンッ
「お店の商品は売ってないんですかー?」
ドッコーンッ

購入客ではない人は妖精たちがプラスチック製この世界にはない素材のバットで城門まで吹っ飛ばす。……パーティー会場から城門まで約5キロあるが、そんなこと関係なくよく飛んでいく。そして飛んでいった先ではダンジョン都市シティ管理部が「お帰りはあちら~」と城門の外へ蹴りだしている。
城門の外、それは別名外周部という。そこでは宿が冬季休業中にも関わらず、新年は臨時で開業する。彼らはに気絶したまま追い出された人たちを「行き倒れおいでませ~」と回収していく。放置していてはそのまま「ってらっしゃ~い」となるからだ。至れり尽くせりのお世話をして、出ていくときに高額な宿泊料を請求する。

「「「なんだと!」」」
「「「なんですって!」」」
「当然でございましょう? 当方は冬季休業中です。ですが行き倒れたあなた様を放っておくことは人道上できません。そのため介抱させていただきました。お目覚めになられたときに申し上げたはずです、当方は休業中だと。外周部では宿泊施設はどこも開いておらず、娼館や男娼館で冬を越されるほかはありません。と」

それを聞いた上で、彼らは権力を振るう。「冬が終わるまで泊めろ」と。
それは間違いなく宿泊料の発生を認めるという契約。

料金は休業中の宿に泊まるため割り増し。外周部の宿泊施設を管理している組合は3割で提言している。それでも冬の期間は何ヶ月もあり、宿の提示金額は素泊まり。食事や暖房代は別途請求となれば、小さな宿でも十分な料金かせぎとなる。 

「当方はサービス業ではありますが、無償ではございません。当方はお申し出の通りサービスを提供させていただきました。受けたサービスの代金をお支払いいただくのは当然でございましょう? それもご家族までお呼びになられてのご宿泊、当然のように個室をご利用。もちろん個室の宿泊料も請求させていただいております」

提示された代金に不正はない。すべて正式な契約によって成された上での請求額だ。よって支払い義務が生じる。
なぜここまで私が知っているか。それは冬季休業にも関わらず営業している宿泊施設には管理部から魔導具で監視される。といっても、監視されるのは宿泊者。犯罪に関わっている可能性があるからだ。そして冬のおわりから徐々に出ていこうとして正規の宿泊料を請求されて逆ギレをする。それを未然に防ぐために管理部が警備隊を動かす。
……ただ、映像を確認する人材マンパワーが圧倒的に足りない。

《 こっちも動き出したよ 》
「おい、ルート8の客が出ていく」
『了解した』

足りないから私と妖精たちが臨時でチェックに入る。そのときに会話も聞いているのだ。請求されて素直に支払う人もいるからだ。

《 こっち、怪我してた人も乗合馬車が動くから帰るって 》
「んー、素直に支払ってるな」
「でもそこってルート54でしょ。停留場まで遠くない?」
「ああ、そうだな。ルート54、足を骨折している商人が乗合馬車に乗って帰るらしい。サポートしてくれ」
『わかった』

ルートは宿にあてがわれた番号だ。最初はルーチンだったのが短くなったらしい。『同じことの繰り返し』との意味でつけられていたそうだ。

……この世界にきたときから不思議なんだよ、この英語が当然のように使われているこの世界が。このルーチンもルートも、何百年も前から普通に使われているんだから。元の世界の知識や常識がこの世界にぎゅうっと押し込まれたようで。
漢字の衰退とか中途半端な英語の使用。単語だけかと思ったら『くたばっちまえGo to hell』という言葉もある。ただしアルファベットがあるのに表記がカタカナ。『Goゴー toトゥ hellヘル』だ。

「エミリア、疲れたか? 休憩に入っていいぞ」
《 エミリア、私たちが代わるよー 》
「ありがとう」

魔石ごとに空中に映し出される映像。動きがあるまですることはない。そのため、私たち人間は複数の魔石を監視している。ちなみに妖精たちは1人1つずつ。

「お疲れ様です」
「う~、集中力が切れた~」
「はい、エミリア。糖分よ」

そう言ってリリンがチョコを口に入れてくる。私の好物のヘーゼルナッツだ。

「んんん~、おいし」
「わあい。ピピン、聞いた⁉︎ 私が作ったチョコ、エミリアが美味しいって♪」
「よかったですね」
「うん!」

あれ? 珍しい。いつもはピピンが作っているのを横でお手伝いするだけだったのに。ピピンに頭を撫でられて喜んでいたリリンは「今度はこれ!」とアイスボックスクッキーを差し出してきた。サクッとしてピピンが作ったクッキーと遜色ない。

「これもリリンが?」
「うんっ!」
「今日のお菓子はすべてリリンがひとりで作りました」
「ふえ? ピピンが作ったのと同じ美味しさだよ」

いつの間にこんなに上手になったの?

「エミリア、美味しい?」
「うん、美味しい」
「ホントに?」
「うん、すっごく美味しい」

このとき気付いた。毎日変わらないようで、確実に変わりつつあることを。
それは良いことであり…………悪いことでもあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」  かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。   『お飾りの王妃』    彼に振り向いてもらうため、  政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。  アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。  そして二十五の歳。  病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。  苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。  しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。  何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。  だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。  もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。  自由に、好き勝手に……私は生きていきます。  戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。