私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第587話

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「お疲れさま、エミリア。ひとまず調合は今日で終わりにしてくれていい」

調合窯がフル稼働している間のティータイム中に、シーズルから終了宣言を出された。あの悲劇からすでにひと月がとうとしている。外はすでに冬、雪景色だ。夏と冬で両極端な気温差でも、私がつくった『温度調整の腕輪』のレシピから魔導具が作られてダンジョン都市シティに設置された。おかげで城壁内ではアクセサリーを身につけなくてもまあまあ生活できるようにはなった。とはいえ、夏は暑く冬は寒い。快適に過ごしたい住人たちは個々でアクセサリーを購入して、身体の周囲まわりに膜を張って暑さ寒さを調節している。

「なに、シーズル。もう足りてるの?」
「普通の薬師やくしたちだけで十分だ。錬金師たちも調合に入っているからな。せっかくだから連中にも稼がせてやれ」
「エミリア。エイドニアの職人ギルド長から伝言だ。『ひとまず危機は脱しました。各国にも在庫はあります。あとは一般の職人や治療師たちで対応は可能です』とのことだ」

ヘインジルも私が調合するのに借りた部屋に入ってきてポンタくんからの言伝ことづてを教えてくれる。私はポンタくんのギルド所属なのに? そう思ったら、ちょうど取り引きがあって連絡をとったらそんな話になったそうだ。

「何か欲しいもんあったん?」
「ああ、『虹色の布』だ。南部で豊作だった野菜を各国の被災者に届けたくてな。ただ送るにしても、収穫した野菜を倉庫にそのまま積んでいたら腐るだろう?」

虹色の布はレシピ非公開の『清浄の糸』を使った布だ。錬金で作った糸をポンタくんに卸し、ポンタくんが信頼できる縫製部職人に機織りを依頼し、製品化まで任せている。

そういえば、この糸で起きた騒動。あのときの機織り職人は草木染めで生活しているらしい。草木染めは糸を染める工程で煮詰める際に匂いがきつい種類もある。虫よけの効果があるハーブは草木染めにしても効果は変わらない。ただし、煮詰めた濃さで効果が変わる。この糸で織られた布は貯蔵庫に使われるだけでなく、馬車の幌にも使われるようになった。それに防水の機能をつけたものが最高級品として扱われ、彼女と家族の生活を支えているらしい。

村から少し離れた場所に作業小屋を建てて、作業中はそこで寝起きしていた。その……ハーブの煮詰めた濃い匂いは、村を神獣か眷属か分からないものから守ったらしい。そら空が明るくなったと同時に、けたたましい鳴き声がしてが遠ざかっていったそうだ。のちに世界で何が起きたのか知った彼女と村人たちが青ざめ、腰を抜かし、中には気絶したらしい。

この草木染めのレシピは私たち、私と妖精たちの共同案だ。そのレシピが職人ギルドから追放された自分のために作られたとポンタくんに説明されて200ジルを払ってレシピを購入。完成品職人ギルドへ納入し、売り上げの3割をアイデア使用料として私へ支払っても十分に生活が成り立っている。その中から寄付金を送り、村の人たちも備蓄から食材などできる範囲で寄付をした。


ダンジョン都市シティは戦争中ということで、少しでも備蓄できる食糧を増やすため昨年までに開墾された田畑に今年初めて麦や芋などを植えていた。それが上手くいったらしい。

「それで、私は明日から何をすればいい? フィールドの魔物調査? 動かない男たちの尻叩き?」
「魔物の調査はほかの大陸だけで、尻叩きはカミさんかギルドの仕事だ。……リリンに任せたら別の趣味に走る奴も出てきそうだからな。エミリアたちはダンジョンで魔物の間引きをしてきてくれ。今年は戦争で討伐が圧倒的に少ないこともあり、王都やファウシスなどでは魔物の肉が不足気味だ」
「ダンジョンってユーグリア周辺の?」
「いや、都市ここのダンジョンでいい。あそこは騰蛇の加護がないため、すでに廃都の外はてついた氷の世界だ」

すでにダンジョンの入り口は雪の下、ほとんどの魔物は冬眠に入っている。魔物が元気に活動しているのは、季節感の一切ない都市ここのダンジョンだけだ。

「ダイバは?」
「すでにダンジョンに入ってもらっている。余れば肉も被災国に届けるつもりだ」
「じゃあ、関所ゲートで毎回買い取り?」
「ああ、できれば」
「うちの農園の野菜や果物は?」
「それは残してくれ。新年のパーティーで何も売るもんがなくなると困る」

屋台村の人たちの中には実家や知り合いへ食糧を送りたい人たちがいる。戦争の弊害で、国境を超えてきた避難民が野盗に転化して犯罪者になった破落戸ならずものに田畑を荒らされた村もある。町や村には商人ギルドがあり、食糧は売買されている。しかし、今まで屋台の食材を送ってくれていた恩を返したいというのだ。

それもまた支援という形で商人ギルドが購入支援で7割負担している。全額負担にしてしまうと「もっと」と欲がでる。支援は最低限で、甘えるのではなく自分たちで立て直さないと意味がない。そのため、支援される側にもできる限りの負担をさせるのだ。

「自分の守りたい場所や人がいるなら、自分で立ち上がれ!」

どこかの国の次期国王だか次期宰相がそう発破をかけ、それに鼓舞された人たちが立ち上がった。

「パパがんばってー」

小さな声援者に後押しされたのも、彼らの機動力になっている。このまま何もしなければ、この子たちの未来は貧しいものになるのだから。
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