私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

第十一章

第５７３話

バラクルの女性陣……よりも厳しく妖精たちに悪阻つわりをはじめとした妊娠や出産に関することを文字どおり叩き込まれたシーズル。女性のことをあまりにも知らなすぎることが露見して、シーズルの両親や兄２人からは袋叩きにあった。

「だから、私たちが『シエラのところへ戻れ』と言っても『自分がそばにいても何の役にも立たない』とか『母たちがいるから大丈夫』って言ってたんだ」
「ユーグリアでも言ってたな」

私とダイバは事実だけを口にする。妖精たちも知っていることだから……

「シーズル！　仕事だなんだと言って帰ってこないと思ったら、アンタ、そんなこと言ってたの⁉︎」
「はじめての出産でシエラが怖くなかったと思っているの！！！」
「夫としてサイテー！」

バラクルの人たちは知らないんだった。そう思ってダイバと顔を見合わせると「そういえばお袋たちは知らなかったな」と呟く。シーズルは追加で袋叩きにあっていたが、シーズルの背に乗って楽しそうに踊っていたのは獣化した白虎だった。

「シーズルが相手だったら、白虎が背中に乗って飛び跳ねても骨が折れたりしないもんねぇ」
「白虎ちゃん、シーズルの頭で遊んでもいいわよ」
ガウッ♪　ガウガウ♫　ク～アアア♬

白虎が楽しそうに歌いながら、シーズルの頭をポンポン叩く。それに合わせてシーズルの顔が床にゴンゴン。そして妖精たちが手を繋いで幾重にも輪になって歌い踊る。

《 カチカチとなる時計　お花がねむるよ　小さなタネになって　生まれる前にもどって　お母さんのゆりかごにゆられて　しあわせな夢をみるよ 》

妖精たちの好きなこの歌は、多くの妖精たちの心の中に残っている。ただ、花の妖精であるアンジーさんとシシィさんは知らないらしい。精霊ニンフのフィシスさんは「とおい昔に聞いたような……？　誰が歌ってたのかしら？」と首をひねっていた。
歌っている妖精たちも覚えてはいないらしい。

《 妖精のたまごの中で眠っている間もずっとこの歌が聞こえるの。なんでかな……？　優しい声なのに聞いてると悲しくなるの 》

心の中に残ったその歌が妖精たちの支えになって癒されているらしい。そして楽器シーズルに合わせて歌う妖精たちの歌声に、バラクルにいるみんなも癒されていく。

「今度、妖精たちに歌ってもらうか？」

ダイバのいう今度とは１月１日の新年のパーティーを指している。
ダンジョン都市シティは騰蛇の空間魔法のおかげで広大で、半分以上が空いた土地だ。さらに農場などを区切れば、その中でさらに空間魔法を使って広げることができる。バラクルの農園も、私の農園や農場に果樹園、妖精たちの家は並んでいる。しかし一歩、足を踏み入れれば広大な土地が広がっている。

「移動に車をください。運ぶのにトラックください」

思わずそう言ってしまうくらい、どこまでも広く……開拓前に地平線が見えていたくらいだ。そんな空間魔法の中は例えるならビニールハウスのように温度管理がなされている。

そんなダンジョン都市シティでは、数年前に騰蛇の存在が公開されて以降、お祭りが好きな騰蛇のためにパーティーが開かれるようになった（外部には知られていない）。一千人は騒いで踊れる広場では、ワインなどの酒造業者は大盤振る舞いで樽を提供したり、飲食店は屋台で料理を出したり。自分の家から作った料理を持ち寄ったりして賑やかに過ごす。

私たちは農作物を販売している。その売り上げから必要経費を差し引いた純利益が、奴隷たちの借金返済にあてられる。アゴールのいとこのクーパーが、すでにルーバーと同郷のゼオンから借金完済後の希望を聞いている。

「今度のパーティーで、ゼオンは借金を完済できる。その後はどうする？」
「許されるならこのまま働いて南部にいるヤンシスの借金も僕が返します。故郷に帰るにしても、ここに一緒に残るにしても、ゼロに戻ってから決めたいんです」
「わかった。エミリア、農夫として労働者を雇ってもらえるか？」
「それより、クーパー。警備部でゼオンを住人として登録変更できる？」
「ああ、それはできるが……」
「じゃあ、ゼオンをヤンシスの主人に変更して。ゼオンはヤンシスの借金を肩代わりして、私から借金を重ねたことにする。奴隷を奴隷商に売ったときに借金分は売った人に渡される。それと同じことだよ」
「僕がエミリア様からヤンシスの身柄を買った。しかし、その購入額が僕の借金となる」
「そのとおり。クーパー、１月のパーティー後に奴隷商と契約変更の手続きとってね」

コアルクは奴隷ではない。南部に開いた治療院で治療師として働いている。ヤンシスが奴隷から解放されれば、コアルクと共にダンジョン都市シティの住人となることも可能だ。

「ヤンシスの借金を一緒に返していくのはいい。しかし、借金を完全に肩代わりしてヤンシスを奴隷から解放するのは禁じられている。その点は忘れないように」
「はい。僕のわがままを聞いてくださりありがとうございます」

そして奴隷から解放される予定なのはアゴールの甥と姪たちも同様だ。ただしセウルはまだ借金が残っている。こちらも弟妹が兄の借金を協力して返していく。肩代わりが３人のため、売り上げ如何いかんによっては来年には完済できるかもしれない。

フリンクとベイルも予定では来年いっぱいで奴隷から卒業だ。借金奴隷は働けば働くほど借金が返済されていく。犯罪奴隷のように罰が期間で決められていない分、解放は早まるのだ。

「ということで、残るは『ハイルと彼の愉快な肩代わりたち』だけだね」

ハイルの借金も着実に減っている。植物が隣にある当たり前の世界ではなく、一から作り出す世界に、彼らはようやく自然の尊さを学んだらしい。