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第十一章

第572話

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「シエラ、お疲れさま」

出産室から育児室……客室にシエラが移されたのは出産から5日後。シエラの身体ではあまりにも負担が大きく、出産後にリリンが負担を軽減させるために眠らせていたのだ。

そして妖精たちに運ばれて、いまはバラクルの1階でスワットたちノーマンの元家族や鉄壁の防衛ディフェンスの冒険者たちにリドを紹介している。
ここにエリーさんはいない。まだ時々身体から抜け出すクセが治らず、このままエリーさんがご対面してしまうと吸収されかねない。

「無垢だからなんでも吸収してしまうわ。エリーの精神が4人に分割されて吸収されたら大変よ」
《 赤ちゃんたちの性格がゆがんじゃうー!!! 》
「ちょっと!」
《 エリー、接近禁止! 》
「ちょーっとぉぉぉ!!!」
「冗談は置いといて。赤ちゃんに吸収されても助けようがないからね」
《 抜け殻は十分に腐らせて肥料にしてあげるから 》
《 肥溜めに入れてあげてもいいよ 》
「わかった! 近付かないから!」

妖精たちが脅しているが、これはエリーさんのためだ。私たちがいないときに、エリーさんの精神はまた身体から抜け出してバラクルの農園にいたのだ。真っ先に反応したのは3人の赤ちゃんとフィムだったらしい。赤ちゃんが泣き出し、フィムは夢の中で魅了の女神からエリーさんが外にいると教えられたらしい。

「そとに、いるよ」
「誰が?」
「…………?」

フィムは首を傾げて分からなかったらしい。それで妖精たちが見に行ったら、フラフラと《 エリーが懲りずにほっつき歩いてたー! 》……らしい。即捕まえて、バラクルに部屋をもらっているコルデさんとアルマンさんを叩き起こして引き渡したらしい。

冒険者学校を卒業したため、どこに行くにも鉄壁の防衛ディフェンスの誰かが一緒だ。キッカさんがすでに都市まちに戻ってきているため、ほとんどはキッカさんが目を光らせている。夜寝るときはパーティーのテントに私室と化した客室で……

「この鎖、外してー!」
《 却下 》

ベッドに鎖でぐるぐる巻きにされるか、妖精たちにボールや泡に入れられて鍛錬場の空中に上げられて見張られている。

《 騒いでいても、そのうち寝てるんだよー 》

…………どうやら助ける必要はないらしい。


シエラの身体に負担がかかったのには理由がある。

「仕方がないよね、なんの前兆もない子宮に急に胎児が入り込んだんだから」

体外受精のように受精卵を入れたのではなく、ある程度育った胎児が入り込んだのだ。臍の緒などの胎内で育つための下準備もないのだ。シエラの悪阻つわりが重かったのもそれが理由。

「皆さんにはご心配をおかけしました。それにピピン、リリン。出産の手助けをしてくれてありがとう」
「エミリアが望んだからです」
「出てこないならぁ、切り刻んで引き摺り出してやろうと思ったのにぃ。そう脅したらあっさり出てきたのよぉ。男のクセに気が弱いわねぇぇ」

リリンの言葉にダイバが苦笑する。私がバラクル店内で言っていた言葉を妖精からリリンに伝えられたのだろう。そして代わりにノーマンに伝えてくれていたようだ。
私は散々泣いた、大声をあげて。ダイバも声を出さなかったが涙を流し続けた。そして新生ノーマン改めリドと対面したとき、私たちは狼狽うろたえることがなかった。赤茶色だった髪がシーズルと同じ焦げ茶色だったからだ。

「なんでシーズルの髪の色なんだ?」
「安定するまで、シエラの腹に魔力を流していたからだろ」
「そんなことしてたんだ」
「……知らなかった」

シーズルの話に驚いたのは私たちだけではなかった。

「シエラも知らなかったの?」
「全然まったく。ただ、朝になるとお腹が軽くなってたわ。そのあとの悪阻つわりが酷かったから忘れてたけど」
「それって、悪阻つわりのときにやっていたら軽かったんじゃない?」
「止めたから悪化したのかも」

ミリィさんの指摘にアゴールが呟く。それに慌てたのはシーズルだ。

「しかし悪阻つわりは寝てれば治る……の、では……」
「「「はああああああああ?」」」
《 はああああああああ? 》

女性陣だけでなく妖精からも非難の声が同時にあがった。

《 ちょーっとそこに座りな 》
《 床にだよ、ゆ・か・に! 》

シーズルが振り向いてダイバたちに救いを求めるが、『触らぬ妖精に祟りなし』という言葉を身をもって叩き込まれた人たちは視線をそらす。知っている人たちは一様に両手を合わせて「「「ご愁傷様」」」と激励(?)した。
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