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第十一章

第567話

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流民るみんにとって安寧の地は神のゆるしである……らしい。

「そこに『生き女神様』が御降臨された。あの方は今まである国の王族を見守ってこられたそうだ。そんな女神様が私たち流民の迫害を聞いてお嘆きになられ『流民の聖地をつくる』と仰られた。女神様が望まれたことに私たちは従う」

旧シメオン国の流民はそう言い切る。彼は事実が見えていない……これもまた操り水の影響か。

「いま、パルクスに旧シメオン国の流民は何人いる? そして旧シメオン国以外の流民は?」
「…………え?」
「各国から追放された流民もいるはずだよ。数年前には流民の半数がそうだった。で? いまはどうなの?」

誰もが黙りダンマリ……じゃないな。指摘されるまで忘れていたのだろう。私が生け捕りにした将校たちは思い至ったのかのか。ガタガタと震え、中には自身の身体を強く抱きしめて震えを止めようとしている。
ダイバたちは将兵関係なく立ち向かう者を斬って捨てた。そのため、生き残った将校は少ない。だからこそ回答をもらわなくても見て取るようにわかった。

将校たちは立ち会わされた上で無言の圧力をかけたのだろう。「死ねばお前たちも死兵こうなるぞ」と。しかし、死兵を生み出せる能力は精霊ニンフのみで、彼らはすでにピピンに『死んだ方がマシ』と心が折れる以上の死と再生を繰り返し受けている。

「助けて」「許して」と懇願していた彼らのいまの願いは「死なせて」に変わっている。彼らはあと500万回は繰り返されるのだろう。その数は彼らの戯れで殺されて死兵にされた被害者の数だ。精霊ニンフたちを鑑定してわかった。彼らにはカウンターが付けられていて、死兵を生み出した総数が表示されていたのだ。ピピンの与えている罰はその死者数だけ死んで詫びるというもの。

いまピピンが与えている罰は人間たちが許された罰。このあとは妖精たちが罰を与えて、そして精霊ニンフによって罰が与えられる。

精霊ニンフは理由なき殺人は認められない。立場が神に近い分、人間の生を左右してはならないの。フィシスたちも殺したことはないわよ、必ず生かして捕まえる。その代わり、処罰は人の手に委ねているわね」

前に精霊ニンフの水晶事件が起きたときにミリィさんがそう教えてくれた。種族が違うということは、罪と罰の天秤バランスも違うということ。
精霊ニンフは死なない。しかし、例外がある。それが『精霊王に還る』というもの。精霊王の魔力で生まれる精霊たちは、精霊王に吸収されることでに戻る。精霊ニンフにとっての死だ。

「人に委ねたとしても罰は厳しいわよ。幼くても貴族が罪を犯した場合、本来なら縁座えんざで一族が滅ぼされることもあるわ。それを逃れるには鉱山での労働奴隷で罪を償う、そして罪を犯した張本人には坑夫相手の娼婦や男娼の罰が与えられる。それは主に性犯罪に加担した一族の場合がほとんどだけどね。被害者の人数だけ罰を受けるけど……『組み伏せられる側の苦痛を身を持って知るがいい』って理由からよ」

それは私が関わった貴族の少年とその一族も同様だったらしい。
特に子供は親のマネをしているだけで、される側の苦痛を知らない。更生が早い分、娼婦や男娼の罰は早くに許されるらしい。そして鉱山で働かせる理由には、罪と向き合うためだけではない。罪が比較的軽い子供たちは、最長でも10年の懲役後に親のいない世界で生きていくことになる。

懲役が終わってもひと月は一般常識を叩き込まれて国外追放もしくは開拓地に送られて、自分で稼いだお金で生きていくことになる。農村の開墾などの重労働でも鉱山で働いた経験から苦にはならないだろう。

あのときの少年は半年間懲役として男娼と少年坑夫を続け、その後は5年の重労働坑夫のして働いて懲役を終えた。重労働は貴族の中でも特に殺人などの重い罪を犯した犯罪者に科せられる罰にもかかわらず、男娼を許されたときに自ら志願したらしい。

「これで許されるとは思わない。でも自分には重労働坑夫として生きることしか罪を償えない」

家業として人身売買で犯罪ギルドに関わってきた一族である彼は、懲役が終わっても鉱山に残って一般の坑夫として労働に従事している。彼が稼いだお金は、一族が加担した犯罪被害者の支援のために、と王都に送られている。それは彼の意志を汲んだ国王によって財団が作られ、有効利用されることになった。

保護施設が建てられ、多数の被害者やその家族に補助金として与えられている。ちなみにその財団の管理をしているのは、少年……いまは立派な青年になった彼が冒険者として引き連れていた少年少女たちだった。守備隊を通して保護された彼らは冒険者にならず、家族と共に生きる道を選んだ。奴隷として貴族に売られた姉が戻ったものの、王都での生活は悲しみを思い出すだけとして家族と共に王都を離れた少女もいた。しかし、それ以外の少年少女たちは3年間の保護期間を過ぎて、王都で家族を支えて働いていた。そんな彼らに新事業の管理が任されることになった。

「被害者だったからこそ、救いを求める者に寄り添えるだろう」

国王ルナンバルトは理由があって彼らを指名したのだ。それを知り、彼らは受諾した。
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