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第十一章

第566話

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ドンッという音が響き吹き飛ぶ魔物たち。共に巻き上がる砂が目に入り目潰しを喰らう人間たち。人間たちは同じく目潰しを喰らって暴れ出した大型の魔物たちに踏み潰されていく。ステータスの中身が周囲に飛び散り、所有者の死を周りに伝えるが、それに気を向けられる者もいない。秒の差で同じ運命を辿っているからだ。

「いやよ……こんな死に方、したくない……」
「この死に方を選んだのはお前たちだ」
「わっ、私は関係ないわ!」
「王族に生まれた。それは罪にならない。しかし、間違った道をただそうとしなかった。その結果が戦争コレだ。戦場に足を踏み入れた時点で生命を喪う覚悟はしてきただろう?」
「ま、まって! 声からあなた女でしょう? だったらいくらでも宝石を差し上げるわ。エミリアという職人のアクセサリーだって、戦争に勝てば買い放題」
「私が作ったアクセサリーを私が欲しがるはずがないでしょ。それも貴族や王族に一切売らないから。あなたは生まれ変わらない限り購入できない」
「そんな…………お願い、助けて」
「…………goodnightグンナイ

ザシュッという鈍い音と共に音を立てて落ちた王女の首。火属性をまとわせた剣で傷口を焼き斬ったため出血は少ない。首は渡された収納袋に入れてその場を瞬間移動アポーツで離れる。私を狙ったのか、王女の遺された遺体に四方八方からとんできた槍が突き刺さっていた。

「きれいなまま帰らせてあげようとしたのに」

死兵を生み出せる能力は捕らえた精霊ニンフたちにのみできる。彼らの話では「頭部がなければ死兵にはできない」とのこと。そのため、首を斬り落とし御首級みしるしとして掲げる。最近はこれが勝敗の決定打となる。

「際限がないから捕虜は将のみとしましょう」
「若干とは言わずたっぷりの余裕があります」
「首は斬り落として首から下は国に返しましょう」
「物も言わぬし、食事もいらない。なんとも楽な捕虜だ。…………いま騒いでる連中もする?」

移動檻の中で騒ぐ連中に目を向けると、全員が青ざめて口や首に手を当てて顔を左右に振る。

「食事代を支払います。いままでの倍!」

ひとりの言葉に全員が必死に首を上下に振る。

「早く国に帰れるよ?」
「い、いえ……! 生きて帰らせてください!」
「でも……敗戦国になれば消滅するんじゃない? あなたたちの母国」

ぴたりと声も身体も動きを止める檻の中。通常ならそんなことにならない。しかし、彼らの母国パルクスは死隊のために死兵を……などという悪事を繰り返してきた。敗戦国になれば、見せしめとして母国の罪を問われた将校の捕虜がその首にロープをかけてズラリと並んでぶら下がるだろう。
将校という立場は戦時下にこそ重宝される称号だ。戦勝国となれば褒章が得られ、敗戦国になれば一転、母国の責任を問われて処刑される。

捕虜となっても生かされるのは戦時下のみ。終戦になればいつ罪を問われて処刑されるかわからない。無傷で母国に戻れるのは少尉以下の兵たちだけだ。戻れたところで、重罪で母国が滅びていた場合、国民全員は労働奴隷にされる可能性が高い。

娼館や男娼館などで働かせられるのは貴族のみ。王族は国が滅ぶときには禍根を残さないために老若男女全員が処刑されるからだ。そして旧国民は農民などとなり戦勝国の賎民として働く。最低の生活水準は守られて、働けばその分賃金がもらえて暮らしも良くなる。
ただし、働きもせず不満を訴えるようでは賎民からも外される。そして流民るみんという階級が与えられて、各国から定住が許されなくなる。

「パルクスには各国から追放された流民るみんも多くいるよね。……彼らはどうなると思う?」

プリクエン大陸は神が見捨てた地。だからこそ、パルクス国が『流民るみんを受け入れる』と宣言しても神は手を出さなかった。……神の慈悲だろう。それを裏切る形となった今回の戦争。

「これで流民るみんの安息地は消えるんだよ。……何がしたかったの?」

兵士の中に流民るみんがいたのだろう、真っ青になって気絶した者もいる。彼らにとって、流民るみんの安息地、安住の地、迫害のない日々。それを手放して戦争に加担するほど……戦争に意味はあったのだろうか。
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