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第十一章
第559話
しおりを挟む《 けっこう……メチャクチャだね 》
分かってはいたし、何百年もの間ずっと放置されてきた。だからこの地方で入ったいままでのダンジョンでも魔物が混在していた。しかし…………
「菜食主義と雑食主義に肉食主義……ここは放し飼いか⁉︎」
《 冗談抜きで……階段で渋滞? 》
「渋滞情報出てたっけ?」
《 いま発生したんじゃない? 》
呑気に感想を言っているのには理由がある。ダンジョンに乱入者がいた。そう、過去形。仲間を残して逃げてきた冒険者の成れの果て。半数以上が魔物の胃袋に入ったあと。残りの冒険者も手足を食いちぎられて、五体満足の冒険者は1割にも満たない。
「いつ入り込んだんだ?」
《 私たちが入ったあとでしょ。私たちは迷宮になっている道に入ったけど、連中は洞窟側に向かった、ってところよねー 》
《 絶対、洞窟の方には魔物が溢れているのに…… 》
《 迷宮にいる魔物を倒さないと、血の臭いで洞窟にきちゃうって分からなかったのかなー 》
「長い間管理されていなかったから、休憩場所とか避難場所はないのに」
古いダンジョンに安全な広場は用意されていない。用意されたのは魔物よけの魔導具が作られてからだ。
『広場に逃げ込めばなんとかなる』
そんな冒険者に優しいダンジョンは、冒険者ギルドやダンジョン管理部が安全管理しているダンジョンのみだ。
「エミリア」
「ダイバ。……あそこにいる連中が乱入者だよ。止血はした」
「連中を襲った魔物は?」
「…………さあ? ただ、回収箱を持ってピピンとリリンが白虎の背に乗って奥に向かったよ」
《 向こうに死体が残ってるんだってー 》
「遺体、な」
《 向こうに遺体が残ってるんだってー》
《 下の階へ逃げた魔物の中に冒険者を食べた魔物もいると思う 》
ダイバに注意された妖精が素直に言い直す。そばにいた妖精が《 死体じゃなくて遺体だってー 》と新しい知識を上書きすると、ほかの妖精にも広がっていく。これが妖精のネットワークだ。
ダイバは管理部の部下たちを連れてきていた。調査で呼んだ彼らは昨日到着したところだ。操り水の解毒がすんだ隊員たちは、ただ操られていたのではない。体力は著しく低下し、記憶をいじられていたのだ。シーズルとダイバが商業施設に連れて行ったのは、閉鎖された施設内を使った鍛錬のためだ。
二人の隊長が出した判断は『実地不向き。治療院いき』だった。
シーズルが預かった隊員たちは、ダンジョン都市へと送られた。ダイバが連れていたのは元隊員ということで、ダンジョン都市に向かわせず。地下牢の個室を改造して治療院の個室にした。協力したのは地の妖精たちのため、見た目はそれほど大きく変わらないがかなり頑丈なつくりになった。
シーズルとミュレイが廃都に立ち寄ったとき、捕虜が入った移動檻も一緒だった。ただし、不可視の幕に覆われて、中にいるのが誰かを廃都に住む人たちは知らない。警戒をする必要がなく、見張りをたてずにぐっすり休めることで三日間休んで王都へと向かった。シーズルとミュレイは問題が起きているため、処理のために残った。
「都長がいいのか? 戻らなくても」
「ああ、遅れるくらいは大丈夫だ。移動檻の方は何もしなかった王都の連中に任せればいい」
ミュレイは一度ダンジョン都市に戻ったものの、「トラブルメーカーがユーグリアにそろっているんだ。アゴールがいない以上、お目付役を頼む」といわれて戻ってきた。
「翼があるから、簡単に行き来できるの」
「空を飛ぶ魔物だっているでしょう? 危なくない?」
「翼竜などのこと? 大丈夫、大丈夫。エミリアから買った結界の指輪があるから」
指輪に鎖を通して首からかけているミュレイ。服の中にしまっているため、落とすことはないそうだ。そして連絡員としてシーズルと都市の間を何度も行き来する。庁舎で書類を片付けて、シーズルのサインが必要なものは廃都まで持ってきてシーズルにサインを書いてもらい、また都市へと戻る。
「送ればいいのに」
「送っても『気付かなかった』のひと言で終わりますので」
「都長、サイテー」
何も反論せず外方を向くシーズル。
《 あれ? ダイバにも心当たりが? 》
同じく顔を背けたダイバ。その様子を妖精たちに目撃されたようだ。
「ダイバは結局アゴールに丸投げするようになったのよ」
ミュレイの言葉に二人は一斉に妖精たちに白い目を向けられて居心地が悪いのか用事を思い出したように逃げ出した。
…………もちろん、それで諦めない妖精たちに追い回されたのは記憶に新しい。
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