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第十章
第553話
しおりを挟む《 ただいまー 》
《 魔物、いっぱい倒してきたよー 》
《 冒険者も、いっぱい倒してきたよー 》
「なにをしたぁぁ!!!」
妖精たちが帰って笑顔で報告をしてくれた。その中に物騒なセリフが混じっていて、シーズルが声を荒げる。
「まあまあ。シーズル、落ち着いて~」
「落ち着けるかあ!」
《 まあまあ。シーズル、餅焼いてー 》
《 まあまあ、シーズル。お茶挽いてー 》
《 一杯いきましょー 》
《 休憩しましょー 》
《 そーしましょ 》
妖精たちの言葉遊びが始まって、一気に脱力して机に突っ伏すシーズル。妖精たちに揶揄われたのではなく、私の言葉が気になったのだ。
《 なぜシーズルは怒ってるの? 》
《 なんでシーズルは興奮してるの? 》
そのため、お餅を焼いてお茶を淹れて休憩しよう。そうしたら落ち着いて話ができるだろう。
これはアルマンさんのリラックス方法だ。そのときはテーブルの上で正座をした妖精たちも一緒に小さな湯呑みで緑茶を飲む。
「休憩の準備をしてくれ。それで、冒険者がどうしたって?」
すでにピピンとリリンが休憩の準備を進めている。妖精たちのうち火と水の妖精たちがピピンと交代した白虎とリリンの手伝いに離れた。
「あれです。一番に白虎の毛皮、二番に魔物の死骸の横取り。魔物同士の乱闘だと思ったようですね」
「それで無用心に近寄って乱闘に巻き込まれた、ってことか」
「ええ、そうです。魔物の乱闘に巻き込まれた者と、寄ってきた肉食の魔物に襲われた者。そして逃げそびれた者。一応森の中で襲われたままの死体は運んできました。『死者の回収箱』です。そして死んでいない者はミュレイに預けてきました。治療してから収容所に入れるそうです」
ピピンの報告と共に差し出された魔導具をシーズルが受け取った。これはダイバが「死兵をこれ以上増やさないため」と言って、私とピピンに預けたものだ。
「それには現時点で三百体近くの遺体が入っています」
「今回、そんなに死んだのか」
「いえ……ここ数ヶ月、だと思われます。ここ数日では半数でしょうか」
ちらりと私を見たピピン。きっと私には聞かせたくない惨たらしい状態もあったのだろう。肉食の魔物に負ければ食される。五体満足など……ありえ、ない?
「ピピン。遺体は半数がここ最近の?」
「はい、腐敗しておりません」
「人数が数えられるということは……損壊していない?」
「戦闘によるものはありましたが、エミリアの考えているとおりです」
ダイバが大きく息を吐く。遺体の損壊など聞かせたくなかったのだろう。しかし、問題はそこではない。
「最近の遺体は?」
「キレイでしたね」
バタンッと立ち上がったのはダイバとシーズル。なぜピピンがミュレイに遺体の入った魔導具を渡さなかったのか、それに気付いたのだろう。
「遺体は一ヶ所にでもまとめられてた?」
「はい、廃村のひとつを占拠して。見張りがいましたが、騰蛇に預けてきました。キマイラたちが根性を踏み潰してくれます」
「「潰すなー!」」
二人が声を揃えるとピピンが「おや?」と不思議そうに首を傾げる。
「中途半端に腐った根性を叩き直すより、徹底的に潰してから再構築した方がいいと思いませんか?」
ピピンのいうこともわかる。だからこそ、二人から反論はでてこなかった。
「叩いて、叩いて、叩いて、潰して……」
「エミリア、料理ではないから」
実際に物はないが手をコネコネさせていたら、ダイバにツッコミを入れられた。生地をテーブルに叩きつけるマネをしていたのだ。
「パン作り」
「違う」
「クッキー」
「でもない」
テントに戻れば材料はあるから作れるだろう。……なんの予定もなければ。
「自由時間」
「すでにしっかり休憩しただろう?」
「妖精たちを休ませてやれ」
ダイバとシーズルに言われて頬を膨らませると、お茶を運んでくれたリリンがツンッと頬に触れて「エミリア、かわいい♪」と微笑んだ。
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