534 / 789
第十章
第547話
しおりを挟む「変だな」
シーズルは廃都で討伐の任務についている隊をみてそう呟いた。
「今から言うとおりに分かれてくれ」
そういって一人ずつ指で右だ左だと分けていく。ほぼ半分に分けると、「フム……」と呟き、さらに左に振った人たちを二班に分けた。
「……ダイバ、どう思う?」
「ここにあと三人加わるぞ」
「そいつらは?」
「深い眠りに落ちている」
「エミリア、そいつら三人と左の一班を彼らに預けてくれ。残ったお前たちは俺と一緒についてきてくれ」
シーズルが右に分けた班を、ダイバが左に分けられた一班を連れてダンジョン管理部の仮宿舎を出て行く。残された八人はなぜ残されたのか分からないようだ。
「えっと……俺たちは何をすれば」
「何もしないよ」
「……どういうことですか?」
「お迎え待ち」
パチンッと魔導具を起動させて結界を張る。魔導具のため床から出入りが可能。……そう、騰蛇かアラクネのお迎えが来るのを待っているのだ。
《 三人、連れてきたよー 》
「ありがとう」
妖精が見えていない八人には、隊長たち三人が浮かんできたと思い驚いている。
この時点で『ダンジョン都市に入ったことがない』という証明ができた。討伐隊は交代制。見えなくても妖精たちと接点はあり、けっして驚くことではない。
シーズルが左に分けたのは現時点でダンジョン管理部とは無関係であり、ダイバが連れているのは、退職してノーマンたちと出て行った者だ。そしてここに残されたのがダンジョン都市に入ったことすらない者たち。だから、妖精たちのことを知らないのだ。
「なんだ、いまのは」
「お前らこそ、なんだ」
《 あっ! ナイフ隠し持ってる! 》
《 悪いヤツだ! 》
《 悪いヤツらはやっつけちゃえ! 》
「「「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」」」
見えないということは恐ろしいものだ。私にみえないように隠し持ったナイフは、彼らが見ることのできない妖精たちに目撃されて個々で襲われる結果になった。
燃え移らない炎で全身を焼かれる者。逃れることのできない水の中でもがき苦しむ者。彼らは現実ではなく夢の中で罰を受けて悲鳴をあげている。
現実では、ブンブンとピピンとリリンの触手に振り回され……リリンは男たちを床に叩きつけている。そこにはマットレスが置かれているため、死ぬことはないだろう。
《 よくもエミリアをナイフで狙ったなああああ! 》
「ヒエエエエエエ!!!」
暗の妖精の姿が見えなくても声が届かなくても、怒りのオーラはわかるようだ。恐怖から逃げ出したが、後ろからナイフが何本も空中に浮かんで飛んでくる。顔の横をナイフがかすめると悲鳴をあげて方向を変える。そして壁に追い詰められると、シュパパパパーッという音と共に隊服がナイフに貫かれて、壁のレリーフとなりました。
「どうなってるんだー!」
「どうもこうも。隊員でもないのに隊員のフリをしているのが問題でしょ」
「俺はダンジョン管理部の隊員だ」
「んなわけないじゃん」
ジョリジョリ
シャキシャキ
スッパーン!
さらりと空に浮いたナイフが回転して、レリーフになっている男の前髪から後頭部に向かって剃り上げられた。一瞬で青ざめて周囲を見回す。浮いているナイフが上下左右に揺れているのをみて恐怖で顔が引き攣り、目の前を行き来するナイフがたまに顔の横を飛ぶと小さな悲鳴をあげた。さらにナイフ二本がハサミのようにクロスして開いたり閉じたり。
うん……妖精たちがみえていないからホラーだよね。
浮いているナイフのうち、何本かは風の妖精のしわざだ。暗の妖精が重力で浮かせているのと違い、風の妖精は風で浮かせている。風のせいだろうか、ナイフがスクリュー回転しているため恐怖倍増体感中だ。
「私たちの正体を知らない時点でダンジョン管理部ではない。それに、ダンジョン都市は警備が厳しいの。正規の隊員が戻るときに馬車に乗ったまま一緒に入れると思ったら大間違い。馬車から降りて厳しくチェックされるから。まあ、『管理部は人々のお手本でなければいけない』ってことで規律が厳しいんだよ。人を守って魔物と対峙することも多いから。信用がなければ連携できないし、信頼できなければ背中を預けられない」
ダイバとアゴール、シーズルとミュレイ。互いを信頼し合っているから背中を預けて前をみて戦える。ミュレイは翼人族と呼ばれる種族で、上空からの視点で魔物の位置を判断できる。ただ、数十秒という短時間でも意識を飛ばすため戦闘が疎かになる。それをシーズルや同じ隊の仲間が補っているのだ。
翼人族は背中の翼さえなければ見た目は人と変わらない。普通に人々の生活に混じっている。私が最初に住んでいたエイドニア王国、この王都で最初に会った宿屋の家族。彼らも翼人族の一族だ。だから、風と水の魔法が得意で火の魔法が苦手だった。翼を広げた状態で火魔法を使えば自身を焼いてしまう可能性があるからだ。火魔法を使えば、術者の周囲に火の魔法を使うための熱気が集まる。翼が触れなくても簡単に燃えてしまうのだ。水系のダンジョンに入ったときは湿気が多く、火系のダンジョン内の空気が熱気を帯びている。それを知っていれば、得手不得手でわかるだろう。
46
お気に入りに追加
8,048
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?
なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」
かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。
『お飾りの王妃』
彼に振り向いてもらうため、
政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。
アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。
そして二十五の歳。
病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。
苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。
しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。
何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。
だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。
もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。
自由に、好き勝手に……私は生きていきます。
戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。
秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」
私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。
「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」
愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。
「――あなたは、この家に要らないのよ」
扇子で私の頬を叩くお母様。
……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。
消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。