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第十章

第547話

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「変だな」

シーズルは廃都で討伐の任務についている隊をみてそう呟いた。

「今から言うとおりに分かれてくれ」

そういって一人ずつ指で右だ左だと分けていく。ほぼ半分に分けると、「フム……」と呟き、さらに左に振った人たちを二班に分けた。

「……ダイバ、どう思う?」
「ここにあと三人加わるぞ」
「そいつらは?」
「深い眠りに落ちている」
「エミリア、そいつら三人と左の一班をに預けてくれ。残ったお前たちは俺と一緒についてきてくれ」

シーズルが右に分けた班を、ダイバが左に分けられた一班を連れてダンジョン管理部の仮宿舎を出て行く。残された八人はなぜ残されたのか分からないようだ。

「えっと……俺たちは何をすれば」
「何もしないよ」
「……どういうことですか?」
「お迎え待ち」

パチンッと魔導具を起動させて結界を張る。魔導具のため床から出入りが可能。……そう、騰蛇かアラクネのお迎えが来るのを待っているのだ。

《 三人、連れてきたよー 》
「ありがとう」

妖精が見えていない八人には、隊長たち三人が浮かんできたと思い驚いている。
この時点で『ダンジョン都市シティに入ったことがない』という証明ができた。討伐隊は交代制。見えなくても妖精たちと接点はあり、けっして驚くことではない。

シーズルが左に分けたのは現時点でダンジョン管理部とは無関係であり、ダイバが連れているのは、退職してノーマンたちと出て行った者だ。そしてここに残されたのがダンジョン都市シティに入ったことすらない者たち。だから、妖精たちのことを知らないのだ。

「なんだ、いまのは」
「お前らこそ、なんだ」
《 あっ! ナイフ隠し持ってる! 》
《 悪いヤツだ! 》
《 悪いヤツらはやっつけちゃえ! 》
「「「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」」」

見えないということは恐ろしいものだ。私にみえないように隠し持ったナイフは、彼らが見ることのできない妖精たちに目撃されて個々で襲われる結果になった。
燃え移らない炎で全身を焼かれる者。逃れることのできない水の中でもがき苦しむ者。彼らは現実ではなく夢の中で精神的な罰を受けて悲鳴をあげている。

現実では、ブンブンとピピンとリリンの触手に振り回され……リリンは男たちを床に叩きつけている。そこにはマットレスが置かれているため、死ぬことはないだろう。

《 よくもエミリアをナイフで狙ったなああああ! 》
「ヒエエエエエエ!!!」

暗の妖精クラちゃんの姿が見えなくても声が届かなくても、いかりのオーラはわかるようだ。恐怖から逃げ出したが、後ろからナイフが何本も空中に浮かんで飛んでくる。顔の横をナイフがかすめると悲鳴をあげて方向を変える。そして壁に追い詰められると、シュパパパパーッという音と共に隊服がナイフに貫かれて、壁のレリーフとなりました。

「どうなってるんだー!」
「どうもこうも。隊員でもないのに隊員のフリをしているのが問題でしょ」
「俺はダンジョン管理部の隊員だ」
「んなわけないじゃん」

ジョリジョリ
シャキシャキ
スッパーン!

さらりとくうに浮いたナイフが回転して、レリーフになっている男の前髪から後頭部に向かって剃り上げられた。一瞬で青ざめて周囲を見回す。浮いているナイフが上下左右に揺れているのをみて恐怖で顔が引き攣り、目の前を行き来するナイフがたまに顔の横を飛ぶと小さな悲鳴をあげた。さらにナイフ二本がハサミのようにクロスして開いたり閉じたり。

うん……妖精たちがみえていないからホラーだよね。

浮いているナイフのうち、何本かは風の妖精ふうちゃんのしわざだ。暗の妖精クラちゃんが重力で浮かせているのと違い、風の妖精ふうちゃんは風で浮かせている。風のせいだろうか、ナイフがスクリュー回転しているため恐怖倍増体感中だ。

「私たちの正体を知らない時点でダンジョン管理部ではない。それに、ダンジョン都市シティは警備が厳しいの。正規の隊員が戻るときに馬車に乗ったまま一緒に入れると思ったら大間違い。馬車から降りて厳しくチェックされるから。まあ、『管理部は人々のお手本でなければいけない』ってことで規律が厳しいんだよ。人を守って魔物と対峙することも多いから。信用がなければ連携できないし、信頼できなければ背中を預けられない」

ダイバとアゴール、シーズルとミュレイ。互いを信頼し合っているから背中を預けて前をみて戦える。ミュレイは翼人族テンシと呼ばれる種族で、上空からの視点で魔物の位置を判断できる。ただ、数十秒という短時間でも意識を飛ばすため戦闘がおろそかになる。それをシーズルや同じ隊の仲間がおぎなっているのだ。

翼人族テンシは背中の翼さえなければ見た目は人と変わらない。普通に人々の生活に混じっている。私が最初に住んでいたエイドニア王国、この王都で最初に会った宿屋の家族。彼らも翼人族テンシの一族だ。だから、風と水の魔法が得意で火の魔法が苦手だった。翼を広げた状態で火魔法を使えば自身を焼いてしまう可能性があるからだ。火魔法を使えば、術者の周囲に火の魔法を使うための熱気が集まる。翼が触れなくても簡単に燃えてしまうのだ。水系のダンジョンに入ったときは湿気が多く、火系のダンジョン内の空気が熱気を帯びている。それを知っていれば、得手えて不得手ふえてでわかるだろう。
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