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第十章
第532話
しおりを挟む敗残兵となった彼らは騰蛇によって廃国の結界の中に閉じ込められている。通話など規制はかかっていて使えないが、出入り口のない巨大な地下迷宮(魔物在住)に放置されている。最大収容人数は二十万人。中央広場が安全地帯になっていて、通路との間に魔物よけの膜が張られている。
そこにはダンジョン都市にある数多あるダンジョンに入れる魔物が種族ごとに勝手に育っているらしい。何かあったら私たちを丸ごとその地下へ移すことも考えているようだ。騰蛇はダンジョン都市の真の管理者として、私たちの安全を第一に考えてくれている。
「魔物がいるから倒せば食肉が手に入るし、負けたら食肉になって食われるだけ。地底湖もあるから飲み水もオッケー。初級魔法も使えるしテントも使える。収納カバンもステータスも使える」
「デメリットは?」
「テントの中に引きこもっていたら終戦が分からない。とはいえ、騰蛇がテントごと放り出すけどね。あとは魔物より弱ければ、生きたまま頭からガブリンチョ」
「魔物の強さは?」
「ここのダンジョンより雑魚種。ネズミにヘビに鳥にトカゲに牛にニワトリ……」
ただし、大きさはダンジョンのボス並みに大きいらしい。地下迷宮に入ったことはないから実物を見たことはない。不確定な情報は出さないに限る。
「地底湖には魚もいるから」
「至れり尽くせりだな」
「だけど外周部は無視。王都もいれてくれるかな? まあ、魔導具で『犯罪者ではない』と認められた人だけね」
地上にしなかったのは戦火をさけてのこと。さらに暑さ寒さから遮れることも理由になっている。
「エミリア、ピピンたちはどうしていますか?」
シーズルの補佐をしているミュレイから確認がはいる。戦火が大陸全土に拡大化した。しかし私はピピンたちも妖精も参戦させないと宣言している。
「これは愚かな人間たちによる醜い争いだ。そんな戦争に、なぜ妖精たちや聖魔たちを戦場に駆り出す必要がある?」
これには身内からも反対された。ピピンたちだ。
「エミリア、私たちは戦場にでて人間たちと戦ってもかまいません」
「いいや、絶対に許さない。私は契約時にみんなと約束したよね、『人間を傷付けるな』と。みんなを闇堕ちさせるくらいなら、私が魔法剣士として前線に立つ」
それには会議に参加していた職人も冒険者も反対した。ただ、私の実力を知っているダイバとシーズルは私の肩をもってくれた。
「エミリアの実力は俺が知っている。エミリアはこの中で上位の強さだ」
私の強さを知っても賛成は得られなかった。しかし、私はある作戦を提案した。それが『狙うは大将!』だ。
「大将が討ち取られれば配下は戦意を喪失する。逆上した者がいたらそいつらも見せしめに倒す。血気盛んな連中が集団で襲いかかっても勝てない相手に、残った兵たちは立ち向かうか? 生き延びたいなら大人しくするしかないだろ?」
最初の侵攻で私は実践した。隊の数は五、私はその中でも中央の本隊を受け持った。向かって左の隊にダイバと右の隊はシーズルとミュレイ。左右の外翼に王都の国軍。私は単騎、ただし涙石のペンダントの中にはピピンたちがいる。
数が少ない魔法剣士は、戦えば周囲に魔法の被害がでる。これが対魔物だからこそ問題にならないのであって、戦場で混戦していれば……
「あ、ごっめ~ん。間違って斬っちゃった~。許してちょ」
「あ、火力が強すぎて真っ黒にしちゃった~。メンゴメンゴ」
なんて冗談みたいなことが起こり得るのだ。
「無理はするなよ」
「分かってるよ~」
そして最前線の兵士に風属性を纏わせた剣を一閃して、右往左往して逃げ惑う兵士たちが開いた人の壁の中へと突入した。
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