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第十章

第526話

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火龍はほかの国の情報を集めてダイバに教えてくれる。せっせと雛にエサを与えるように情報エサを持ってくるのは、ダイバやアゴールたち竜人たちを同族と認めて庇護しているつもりだからだ。

「ダイバたち竜人は火龍にしてみればだもんね」
「ああ、ありがたいと思っている」

ダイバが感謝しているのは火龍のおかげでセレナが、可愛い娘が魅了の女神に守られて無事に誕生したからである。小さな生命を誕生まで守り続けてくれた魅了の女神はいま、妖精の庭にあるアッシュの寝床で休んでいる。世界樹でもあるセイヨウトネリコはこの世界でアッシュと名前を変えてもいやしの効果をもつ。妖精だけでなく女神にも効果を与えてくれるようだ。そのため妖精たちも眠りを邪魔しないように大人しくしている。

私たちがファウシスから戻って数日後、火龍から呼び出されたことを知ったアゴールは少し諦めたようにダイバを送り出した。

「仕方がないわ、いまは動けないもの。でもお礼は伝えてきてね」
「エミリアはどうする?」
「残ってもいい?」
「ああ、明日には帰る」

アゴールは出産後であり、産み月に入った初産のミリィさんを手助けしたいとも思っていた私は居残りを希望した。アゴールの出産にはフーリさんやシューメリさんたちバラクルのお母さんたちがテキパキ動いた。そしてリリンは気持ちの落ち着く香りを部屋にただよわせ、ピピンがアゴールにあわせて調合した麻酔をリリンが背中から触手のトゲで調節しながら流し込んで無痛分娩を可能にした。

……私は何もできない。アゴールのときも、私は汗をぬぐってあげることしかできなかった。でも、アゴールは「それでいいんです」といった。「そばに愛しい存在がいてくれるだけで頑張れます」と。

ミリィさんも「そばにいてね」といってくれる。そんなミリィさんはいま、バラクルの客室を借りていた。ルーバーの「何かあったときに女性が大勢いた方がいい」という気持ちをんでのこと。そのため、私も一緒に客室に過ごしている。

「次はミリィさんだね」

ときどき動くミリィさんのお腹に耳をあてていると不思議な気分になる。この中に新しい生命が宿っているのだと。そして、いまもなお戦火で消えていく生命もあるのだと。
そんな私の頭を撫でながらミリィさんは微笑む。

「エミリアちゃんは、この子たちのお姉ちゃんになるのよ」
「あら、四人よ」

ミリィさんのお腹には双子が眠っている。ルーバーがミリィさんをバラクルに預けたのもそれが理由だ。

「ぼくもー。ぼくもになるー」
「あら、フィム。男の子はお兄ちゃんよ」
「おにいちゃんになるー」

眠るセレナのバシネットから離れてベッドによじのぼってから私たちの会話に加わるフィム。

「セレナが眠っているときは横で話してはいけない。生まれたばかりで声に驚いて泣くと可哀想だろ?」

そう父親ダイバに言われたフィムはちゃんと言いつけを守って、この部屋ではベッドの上でしか話をしない。
ちなみに出産用の部屋は別に用意されている。あくまで出産用。生まれた子供が無意識に魔法を暴走させてしまうことがあり、それは悲劇にも繋がる。その悲劇を回避するためにこの部屋では魔法は封じられる。
ピピンとリリンのそれは魔法ではないため問題はなかったようだ。
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