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第十章
第515話
しおりを挟む「そうか。操り水を使った事件だったのか」
ダイバからの報告を聞いた職員たちは、ファウシスで起きていた事件を知って大きく息を吐き出した。思っていた以上に大きな策略が働いていたのだ。ダイバはリマインたち竜族の件は話していない。操り水だけでも十分なのだ。
「それでエミリアのたてた情報操作の方はどうなっている?」
「…………鉄壁の防衛の中で『普通の商人にみえる人族』にサヴァーナ国に向かってもらった」
「国に噂が蔓延するまで時間がかかるな」
「仕方がない、国をまたぐ作戦だ。それも失敗すれば戦争が大規模になる」
「今でもコルスターナ国とパルクス国が中程度の小競り合いが起きている。そこにコルスターナから独立宣言したサフィール。裏で手をまわして戦争を引き起こしたサヴァーナ」
「そのサヴァーナがこのタグリシア国に手を出しはじめた。第二の都市であるファウシスが陥落すればタダでは済まない」
ほかの国もどうなっているかわからない。同じように手を出されているのか、すでに陥落したのか。その場合、操り水を使った作戦だったのか。ほかの実験で成功した薬剤が使われたのか。
「頼まれても助ける気はない」
シーズルの呟いた言葉は国王ルヴィアンカの言葉だ。シーズルの報告で事情を知ったルヴィアンカはそう宣言した。
「魔導具、完成したんだね」
「使用は王都とダンジョン都市間だけだ」
ドワーフ族に暗の妖精が協力して研究してきたその魔導具は国をあげた研究だ。ダンジョン都市の魔導具研究は最前線に立っている上、研究内容が盗まれにくい。
「国王陛下から『ダンジョン都市を、種族を超えた共存モデル都市として認める。これによって私たちの生活が格段にあがり、魔物との住み分けによる共存も可能になるだろう』と言葉を賜った。なお、数年前から鉄壁の防衛との関係で交流があったムルコルスタ大陸のエイドニア王国と一部業務提携を結んでいる」
その窓口はポンタくんが担っているが、それだけではなく若い国王同士ということで国交を開き始めている。距離が遠いものの、それを繋げる魔導具をダンジョン都市のドワーフたちが張り切っていた。
「A点とZ点。ここを繋げるには……」
「それは空間魔法の応用だ」
「A点とZ点で空間魔法を使えば繋がるのではないか?」
《 直接繋ぐのは止めた方がいいよ。空間にひずみが起きやすいんだ 》
彼らに協力しているのは私の暗の妖精クラちゃん。暗の妖精は数を大きく減らした。だから空間魔法を使える暗の妖精の協力はとても大きなものらしい。私の妖精たちは顧問として協力し、顧問料を受け取っている。
「クラちゃん、直接がダメならワンクッション置いたら?」
「エミリアさん。ワンクッション、ですか? それはいったい……」
《 そうだよ! 部屋をつくって、そこにはいるドアを取り付けるの 》
「ああ、それなら理解できます!」
「それでしたら世界会議で各国の王たちが集まる部屋を作ることで移動による予算の負担も減るでしょう!」
「大陸ごとに部屋をつくり、そこから世界会議用の部屋に続く扉を一つ作れば負荷が大きく軽減される」
ドワーフたちは絵を描いて話し合う。部屋の絵から空間魔法をどう使うか。そんな話をしていてふと疑問に思ってクラちゃんを手招きする。
《 どうしたの? 》
「私のテントが元々二つだったのを繋いだらドアが現れてひとつになったって知ってるよね」
《 うん。同じ物があって両方とも同じ人が所有者登録すると『結合』ってでるんだよね 》
「そうそう。実はそのテントなんだけど、パーティ用もあるの。それとは別に個人でテントを持ってる人もいるよね。でもパーティ用のテントと連携すると、遠く離れた場所で開いても中で繋がるんだよ」
「「「それだぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
ドワーフの職人たちが一斉に声をあげた。侃侃諤諤と意見が飛び交う中、瞬く間に青写真が完成した。
かまぼこ型の超巨大なテント、二千人は避難生活ができそうな世界会議室の図案が完成したのはひと月後。
「早くない?」
《 だってテントだもん 》
「危なくない?」
「ああ、それは大丈夫。個人のテントは許可された者しか入れないから」
ドワーフの職人さんの最終点検後に、私たちダンジョン都市の職人と商人を招いた見学会が行われた。各国のテントと繋ぐことで、扉ではなく25平方メートルの部屋と繋がる。
「まずは一年、王都とダンジョン都市で繋ぎましょう。実際に使うことで、不具合などを調査しましょう」
現在、大きな会議室だけではなく中小規模の会議室も用意されている。これからも様々な改善が行われるようだ。
「はいれるのは各国から最大八人。国王に大臣、そして側近や護衛を含んだ人数だ。商業の取引に商人とギルド長や職員が同行する可能性もあるからな」
《 各国のテントには入れないようになってるよ。戦争に使われては困るもん 》
クラちゃんは、その点は譲れないという。ルヴィアンカはそれを承諾した。
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