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第十章

第507話

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「ただいま戻りました。お時間よろしいでしょうか」

ピピンが涙石を通って帰ってきた。前々から思ってるんだけどね、その涙石の空間を一体どこに繋いでいるのやら。

「妖精の庭ですよ」
「……顔にでてた?」
「表情を見れば。いまも涙石を見ていたでしょう? そういえば説明してませんでしたね」

妖精の庭は聖魔師テイマーと契約している聖魔ならどこからでも入れる。

「妖精の庭はエミリアもはいれるでしょう?」
「そうだね。私と一緒ならダイバも入れるから、何かあったら一緒に入ればいいよ」

妖精の庭はどこにでも繋がる。私は騰蛇の支配下にあたる地下の空間か、キマイラや神獣たちがいるダンジョン都市シティにある岩山に繋ぐことにしている。もちろん自分の家に繋ぐこともできるが、そうなるとダンジョン都市シティを守る魔導具に影響がでそうで怖い。

「まず、操り水の被害者たちの報告」

十七人のうち九人は前町長一家で間違いはなかった。そして二人、これはレンドラを引き取りを拒否した叔父夫婦。そして本屋の店主と鍛冶屋の師匠と弟子。そしてやはり雑貨屋の店主夫妻。

「十六人?」
「一人は行方不明になっていた情報部。メッシュに情報が届いて、一度破棄されたことが以前あったでしょう?」

ピピンがそう言って下を指差す。私とダイバ、そして妖精たちも一緒になって、その指につられて床をみる。

「……ああ、戦争が始まったと同時に起きた決起から避難したときか」
「そうです。あのときにメッシュは報告した情報をその場で打ち消した。その情報を流したのが、今回救助された情報部部員です。メッシュが王都の調査に入っているため、部長に本人確認を頼みました。……間違いないそうです」

いまはまだ全員眠らせているそうだ。いやしの水をのんですぐに回復させることは可能。ただ、どこまで精神が犯されているかわからない。それを一気に回復させた場合、精神が壊れるか病むか。

「今回は回復を目的にしているので、いやしの効果を弱く、時間をかけて回復させます」

その加減はピピンに任せていいだろう。一律にしか作れない私と違い、ピピンは自分で作り出せるために効果を変えられる。それで落ち込んだけど……

「エミリアは最高品質を一律で作れるのです。私は一定に作れますが効果が弱く、副作用なしで作ることはできませんよ。だから薄めて使うのです」
「……原液での使用は禁止?」
「そうです」
《 だいたい、ピピンはエミリアが作ったものの成分を調べないと同じものがつくれないのよ 》
「当然です。エミリアがつくったものを似せてつくっても、それはただのニセモノです。私は同じものをつくり出せるようになるため成分から作るのです。ですが、副作用がでない最高品質はつくれません。それにお忘れですか? 私では新しいものをつくり出せないのですよ。エミリアがつくったものだからつくれるのです」

頭を撫でるピピンは優しい。私が気にしてることを真っ先に気付いて声をかけてくれる。それはけっして嘘を並べた言葉ではなく、華美した言葉でもない。事実に控えめな誤魔化しを加えるだけだ。


「おかえりなさい、エミリア。脳内散歩に出かけてて聞き逃したことは、あとで教えますから話を進めますよ」

しっかりバレてた。ダイバも何も言わないから、代わりにちゃんと聞いてくれていたのだろう。
ピピンが私に注意を戻すように声をかけたのはレンドラたちの方。そして連れてきた女性……

「女性?」
「女装?」
両性具有おねいさん?」

お姉さんとお兄さんをあわせて作った造語だが、この言葉がもしかして当たっているかもしれない。つまり、この人は『男であり女でもある』というもの。両性具有だ。

「竜人?」
「いいえ、ハーフエルフです」

エルフ族は両性具有はいないと聞いていた。……それなのに

「いるねえ」
「いるな」
《 いるよねー 》
《 お胸もあるねえ 》
《 アゴールよりおっきいねえ 》
《 こっちもあるよ 》
《 フィムよりちっこいねえ 》
「そこ、スカートをめくって確認するな」
「下着もめくったでしょ」
《 違うよ、はいてないもん 》

どうやら『寝るときは下着をつけない派』のようだ。

「それでお前ら、なにうつ伏せにしているんだ?」
《 うつ伏せで寝るとお胸の形が崩れるんだよ 》
《 アゴールよりおっきいから潰してあげるの 》
《 ちっちゃくなーれ。ちっちゃくなーれ 》

この子たち、アゴールより小さい胸にしてどうする気だろう?

《 アゴールのお胸はおっきいよ、って自信を持ってもらうの 》
「……コイツらなりにアゴールを気にしているんだな」
「別にお胸がちっこくてもダイバは気にしないのにね」
「アゴールはアゴールだからな」

美醜を気にするのは人間だけだけど、胸の大きさを気にするのは種族関係なく女性の悩みのようだ。
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