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第十章
第494話
しおりを挟む私とダイバだけでファウシスの城門まできたが、人と馬車がごった返していて危ないためダイバにしがみついていた。
「ピピンが『ダイバから離れるな』って言った理由がわかったね」
「ああ、中には入れず。でも出ては行くんだな」
背の高いダイバが周囲を見回していると、警戒をしているらしい城門兵が寄って来た。
「ようこそ、ファウシスへ。兄妹かい?」
いま、私たちは二人とも濃紺色の髪と薄茶色の目をしている。認識阻害のアクセサリーを身につけているため、見た目はそっくりだ。
「ああ、中に誰も入っていないようだな」
「どうしても入りたい理由でもあるのかい?」
「妹がな。……人に埋もれて潰されるんだ」
ダイバに向かいあって抱きついている私は異質だろう。しかし小声で話すにはちょうどいい。それに兄妹ならおかしくはないだろう。
「見たことがない顔だな。君たちはどこから来た?」
「ムルコルスタ大陸だよ」
「ほう、……遠くから来たもんだな」
探るようにジロジロ見てきている。……やっぱり、事前に話していたとおりだ。
「家族と生き別れた。町を見つけては立ち寄って、家族の手がかりを探している」
「……まあ、そういう事情なら入っても構わないだろう」
どうやら上手くいったようだ。操る側は外部からきた者を操るのに警戒する。下手に仲間がいて気付かれても困るだろう。そのため、二人で生き別れた家族を探していると思わせれば上手くいくと思ったのだ。
城門兵の後ろをダイバと二人でついて行く。ダイバに肩を支えられて歩きながら、離れたため周囲を見渡せるようになった私は列を並んでいる人たちの様子を確認する。
「妹の方はどうした。何か気になることでもあるか?」
「あんな中にいたんだなあって」
「押し潰されていたから見えなかった……」
「チビッコじゃないもん」
「分かってる。あとでジュースやるから、な」
ダイバが私の頭を撫でる。バラクルから届けてくれるのだろう。その姿を見て城門兵が「クククッ」と笑う。
「ほら、こっちだ。このまま入っていい」
どうやら、この城門兵は隊長か何かで権限をもつようだ。……身分証の確認をしないで入れられた。
「家族の手がかりが見つかるといいな」
「ありがとう」
ダイバが軽く礼を言ってそのまま私を連れて城門から離れる。
「じゃあ、まず先に宿に行こうな」
「ジュース」
「部屋をとってからな」
「まずは休憩?」
「ああ、少し休ませろ」
ダイバはここまでで得た情報を先に確認したいのだ。それからじゃないと危なくて外に出られない、と。
城門から離れた宿にダイバと入った。ひっそりとした宿に、ひと部屋だけ空き部屋があった。借主が少し前に町を出たらしい。
「そこを借りられるか」
「二人は夫婦か何かか?」
「いや、兄妹だ」
「じゃあいいだろう。……悪く思わないでくれよ。ここ最近、特に町の中は物騒になってきてな」
ここは食堂になってはいない。ただ、宿泊者が希望するなら食事が出せるというものだ。事前に予約をすれば大丈夫らしい。そのため客がいないのだ。
「ダイバ、お腹すいた」
「もう少し待ってろ」
「だって、お昼食べてないよ」
「……なんかあったのか?」
ここは城門から離れているから知らないのだろうか。ダイバが城門が閉鎖していて中に入れなかったことを話す。
「またか」
「また? こんなことはよくあるのか?」
「ああ。ここんところ、しょっちゅうだ。そこに座ってろ。簡単なメシを作ってやる」
「やったあ!」
私がカウンターの前にある椅子に座ると、ダイバが苦笑しながら寄ってきた。私の様子から、この宿が安全だと判断したのだろう。
ダイバが対応している間、御守りの鑑定が周囲をチェックしていた。……ここの宿では操り水が使われていない。やはり、水道には操り水が混じっていないようだ。
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