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第十章

第491話

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ファウシスに息子夫婦と生まれたばかりの赤ん坊、そして会いに行った妻を文字どおり人質状態にされている職員はいま大人しく座っている。ピピンから「操り水を飲むか最後まで大人しく座っているか」とすごまれて、彼は後者を選んだ。

「それでは医局部からの報告です」

女性職員が立ち上がる。操り水で操られた人たちの回復後のアフターフォローが必要で、操り水を飲んでいた期間によってその期間は変わるらしい。

「失礼ですが、皆さんのパーティーでは何かされたのでしょうか?」
「あー、悪い。俺は最初から怪しんでいたから、連中が差し出す物をすべて断っていた。おかげで操り水の被害はない」

アルマンさんの言葉に誰もが驚きの目でみる。怪しいと判断して拒否する。そんなことができる強さがアルマンさんにはあるのだ。

「身近で見てきてどう思われたのです?」
「まず最初は、パーティメンバーではない者がメンバーだといって入り込んでいた。俺たちのパーティは午前と午後に鍛錬場で訓練を義務化している。しかし何年も前からメンバーだというそいつらは一度も鍛錬に顔をだしたことはない」

そこから訝しんだアルマンさんは、一切の飲食を断って自分で用意した食事を口にしてきた。

「俺が飲んだ水の効果は翌日には薄まり、数日で完全に影響下から脱した。しかし周囲は完全に連中を仲間だと思いこんでいた。何が目的か分からないままさらに数日たった頃、出ていたエミリアちゃんが帰ってきた。そこから連中が動き出した。エミリアちゃんに水を朝昼晩と飲ませていた」
「おい、エミリア。大丈夫だったのか⁉︎」

ダイバが焦って隣に座る私に確認するが「覚えてな~い」と答えると「そういえばそうだった」と脱力した。

「ダイバ。当時のエミリアちゃんの話では、怪しいと思っていやしの水を飲んでいたらしい。以降はコップの中身を入れ換えて、清らかな水といやしの水を飲んでいたそうだ」
「そうか、えらいえらい」

そういって頭を撫で回すダイバ。ただ妖精たちに《 話が進まないでしょ! 》と頭を叩かれた。

「まあ、そこからは特に問題はない。……いや、あるか。調理の補助を担当した奴が食中毒事件を引き起こした。昼食でエミリアちゃんに水を飲ませて操って連れ出そうとした。食中毒は自分たちの存在を隠し、追っ手がかからないように。死者が出るような事件を起こせば逃げ切れると思っていたようだ。しかし、その直前のトラブルでエミリアちゃんは食事をせず。ただ食中毒事件が起きた。数人は手当てが遅れていれば死んでいた。これも、エミリアちゃんが解毒剤を提供してくれたおかげだ」
「魔法で治療をしようとは?」
「俺たちのいるムルコルスタ大陸は魔法が廃れていた。これもエミリアちゃんのおかげだが、魔法を使って魔物と戦うなぞ誰も思いつかなかったくらいだ」
《 エミリアは魔法の重ねがけに組み合わせも得意よ。それで農園も街路樹も複数の違う種族の妖精同士で協力しあうようになったの。エミリアの同調術ってそういうものよ 》
《 街路樹だって、地と水と光の妖精がいて種から芽吹かせるの。今まで地面の下だから地だけがやってたけど、本当はほかの栄養もなければ元気に芽吹かないって 》
《 最初の頃に植えた街路樹より今の街路樹の方が元気で逞しいのは、そうして育てたからよ 》

初期に植えた街路樹も、妖精たちが一生懸命世話をして大きくしている。しかし、種から強く成長させた街路樹より弱い。

「ああ、俺たちの大陸では魔法は口伝によるものが多い。そのため、いまは魔法の本で勉強することが主流になり、こうして各国で魔法に慣れたことで扱えるようになった」
「たとえば、俺たちはお湯を沸かすのに水と火の魔法を使ってきた。しかしエミリアが宿屋の子供たちに教えたのは『水魔法で出した水の温度を上げる』というもの。それなら火魔法を使わず安全にお湯が作れる。宿屋の子供たちは火魔法が苦手で、それを補うために水魔法だけでできる方法を教えていた。あとは冷めた料理を風魔法で振動させることで温める方法など、食堂や喫茶店でも使える魔法を教えていたがそれらは本に載っていなくてな。今までとは違う魔法の使い方を応用編として本で出したよ。後世でも使える方法だったからね」

ムルコルスタ大陸では、アルマンさんとコルデさんの国はいま先進国としてみられているらしい。大陸を渡る許可が出ているのも、こうして魔法を持ち帰っているからだろう。

《 ボクらが周りとは違う魔法の使い方をしているのと一緒だね 》
《 うんっ。私たちって自分一人でできることを最初に教わったもんね 》
「それでイタズラの幅が広がったんだよなあ」
《 ひっどーい! 》
《 ちゃんと魔導具開発にも協力しているのにー! 》

ペチペチと叩かれるダイバの様子に笑いが漏れる。その様子の裏で、医局部の職員はステータスを触って微笑んでいた。
……待ち望んでいた連絡がきたのだろう。
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