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第十章

第488話

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「ではこれより自由発言を。エミリア、ピピン、ダイバ。前回に引き続き、鉄壁の防衛ディフェンスからコルデとアルマンの両名にも同席をお願いした。まずはそのファウシスから議論を始める」

シーズルの言葉と共に、まず職員同士の議論が始まった。誰かが質問をする一問一答方式ではない。聞いた人たちで意見しあって、行き詰まると質問をこちらに投げかける。そして自分たちが正しく理解したのかをまとめあげる。この方式になったのは、妖精たちの指導が一因だ。

《 たったいま言われたことを聞いていなかったんかアアアアアア! 》
「すいません、すいません」
《 なんでお互いで相談しあわないんだ! だから理解した部署と無能な部署ができるんだぞ! 》
《 いいって、いいって。その程度で許してあげなよー 》

いかれる総務部の妖精を財務部の妖精が止める。職員たちには財務部の妖精が神のように思えただろう。……しかし彼は財務部所属の妖精だ。ソロバン片手にしているこの妖精は、何やら書き込んだりソロバンを使って計算をしている。そして時々、赤色のペンで小さく書き込んでいた。
そんな彼が真面目な表情で左手で持ったソロバンを右親指と人差し指で忙しくはじきながら爆弾を投下する。

《 無能な部署の来月の予算をカットするだけだから 》
「「「ひえええええええええええ!!!」」」
《 だって、仕事のできない部署に予算は必要ないでしょ? 予算を出しても仕事をしないなら使わないよね。それとも停職ひと月、給与全カットの方がいい? 》

この妖精、本当にサクッと予算をカットしてしまった。有言実行、自業自得、身から出たサビ。
このときにカットされた予算は、必要経費を差し引かれたとはいえ結構な額になった。シーズルの許可を得て、南部のようやく農村っぽい建物ができてきた地区の建築資材や機材購入の資金に回された。
妖精たちは約束どおり南部に手を出さない。ただ南部の状態は分かる。そのため、いま何が必要かを把握していた。たったひと月分の予算カットでも、その予算で毎月を上回る建築資材や機材をてがわれた奴隷たちには深く感謝された。

《 地質が変われば使う道具も変わる。硬い岩盤に今の道具であたってみろ、道具が壊れるぞ。連中は修復できないんだから、そういう配慮くらいしろ 》
「ハイ、ゴモットモデス……」

南部の管理をしている職員は妖精たちの前で正座して説教を受けていた。それが報告会の前に行われたのは、予算を不正に使っていないことを示すため。

「そのためにわざわざ記録を残したの?」
「いや、あれは後で書記部が各部の議事録を書面にして残すため」
「……こうして妖精たちに説教された場面も?」
「もちろん」

これのきっかけが、数年前に私が受けたギルド騒動の話し合いだった。私が御守りアミュレットを使って残した記録が、多数で全員がギルド長か副ギルド長という圧倒的な立場から、私の正当性が認められたことが大きかった。

「記録を残せばあとから見直せる」
「それは会議でも同じではないか?」

そんな声が日に日に増していき、大小さまざまな会議や会合では魔石に記録するようになった。そして初めの頃は立会人という第三者が魔石に魔力を流すことで起動させていたが、今では記録することが当然となったことで第三者の立ち会いはなくなった。
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