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第十章
第476話
しおりを挟む「エミリア、ちょっといいか?」
ダイバに呼ばれて近寄る。どうせダイバのことだから『最後の思いを遂げさせよう』という魂胆が丸見えだ。
「持ってきてるよ」
そう言ったら驚いてから照れ臭そうに笑った。
「おい、ノーマン」
ダイバの声に家族に土下座で謝罪をしているノーマンが、涙でグチャグチャになった顔を向けた。
「私もふっとばしていい?」
「止めておけ、時間がもったいない。とりあえずその顔をキレイに整えろ。早くしないとエミリアが暴れるぞ」
ダイバの言葉に慌てて自身の顔を袖で拭うノーマン。魂の一部だから……ありゃ、シエラが『状態回復』の魔法をかけちゃった。
「魂が回復しちゃったわね」
アラクネの呆れた声にシエラが理解して青ざめるまで数秒かかった。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
泣きじゃくるシエラ。なだめるノーマンたち。
「ねえ、これで『あの世の番人』が追いかけてくるかな?」
「エミリア。少し面白がってるな?」
「思いっきり」
私に何か言いたそうにしているダイバ。この先の展開によっては、私はある事をしようとしている。ダイバはそれに気付いているのだろう。
「……で?」
「なに?」
「成功確率は?」
「100%確実。で、光魔法ってことでごまかせる?」
「ムリだな」
「聖魔師の新しい能力?」
「ああ、ピピンたちの進化で得た能力、とでも」
私たちの悪だくみが決まったところで、ダイバの手に小箱を渡す。それを手にダイバはノーマンに歩み寄る。
「ノーマン、エミリアからだ」
そう言って渡された小箱をみて驚いたように顔をあげて私を凝視する。
「うちにはエミリアって妹が増えたからな。妹がひとり、嫁に行っても行かずに子を産んでも特に問題にはならないさ」
ダイバの言葉を理解したのだろう。小箱を手に逡巡していたノーマンだったが、覚悟を決めてシエラに向き合う。
「シエラ、俺と結婚して俺をうんでくれ」
バコンッとダイバがゲンコツを落とすとノーマンは跪いて言い直した。
「シエラ、俺と結婚してください。そして俺をうんでください」
「はい」
「「おい、いいんか!!!」」
思わずダイバとノーマンが声を揃えて聞き返す。しかし、シエラは笑顔で「はい」と返事をした。そして言った張本人のノーマンはそのまま固まった。思わずちょうどいい高さにあるノーマンの後頭部を蹴る。すると無防備だったからか、地面に顔を突っ込んだ。自然が回復しているこの場所は地面も荒野と違って柔らかいから埋まりやすいのだろう。
「ノーマン、私が用意した指輪はどうした」
そう言ったら慌てて身体を起こして小箱を開いてシエラに見せる。
「なにをしている。指にはめてあげなさい」
私たちの様子を笑って見ていたスワットの言葉に、シエラが恥ずかしそうに左手を差し出す。ノーマンの慌てっぷりは極限まで達しており、ダイバにフォローされてなんとかシエラに指輪をはめる。
「それでは! 誓いの言葉とキスをどうぞ~!」
「ちょっ! エミリア!」
「ノーマンを揶揄えるのもこれが最後!」
そう言って周囲を見回す。すでに心のこりを解消したのだろう、消えていく女神の被害者たち。ノーマンは間違って魂を呼び寄せたが、いつまでもそのままではいられない。ノーマンたちも気付いたのだろう。しっかりと抱き合ってから顔を見合わす。
「シエラ、愛しています」
「ノーマン、あなたが大好きよ。今までも、そしてこれからも」
ノーマンの姿が金色の粒子に変わり始める中、二人は最後のキスを交わす。周囲にはノーマンが金色の粒子となって空中に消えたように見えただろう。しかし、実際にはシエラの身体に溶けていったのだった。
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