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第十章

第474話

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地中のことはいくらか知られている。だからアラクネの存在にも驚きはあったが混乱はなかった。
今もなお金糸に包まれているため気付かないだろう。この金糸でできた繭が騰蛇によって運ばれていることを。その時間を使って現状を説明する。その役目をアラクネが引き受けてくれた。

「皆さんに大切なお話があります」

アラクネの言葉にざわめきが消える。金色の女アラクネの存在は報告会などに参加している職員から噂は広がっている。

「いま皆さんに向かっていただいているのは『封印された国』です」

アラクネの言葉にざわめきが起きるかと思ったが、思ったより静かだった。

「そこに……ノーマンたちがいるのね?」

全員を代表するようにノーマンの母親がそう言った。シエラは仕事で立ち会えなかったが、ここにいるのはヘインジルが息子たちの死を告げたときに集まった家族たちだ。あれから数ヶ月がたち、全員が少しずついない事実を受け入れ始めていた。事実を現実として受け入れたとしても感情までは追いつかない。たとえ遺品が渡されても、亡くしたなんて思えない。ある日、急にいなくなったのだから。
そんな自分たちの心を見透かされたように呼び出された。その心当たりがあるとしたら、彼らのことしかない。

「ごめんなさい。最初にお伝えします。彼らは死んだときの状態で時間が止まっています。そのため、大切な皆さんを忘れたままでいることでしょう。皆さんもお会いしたらさらに悲しい思いをされるかもしれません。ですが……せめて最後のお別れを。心に区切りをつけて、前を向けるように」
「お心遣い痛み入ります」

代表してお礼を言って頭を下げたのはスワット。ノーマンの祖父にあたる彼を通してノーマンとシエラは出会い、付き合うようになった。彼はノーマンを本当に可愛がっていて、シエラと結ばれる日を楽しみにしていた。だから彼が何も言わずにいなくなってからガックリと気落ちしてしまっていた。そして申し訳なさから、シエラともギクシャクしている。
シエラも手伝いでおこなっていた関所ゲートの手伝いにも行けず。家業バラクルの手伝いをするものの、やはりノーマンを思い出すのか。守備隊の人たちが来るランチタイムは店内に出ることも、声が聞こえてくる厨房にも入れないでいた。

「会える時間は短いです。ですから、最後の時間を大切に心置きなくお過ごし下さい」

アラクネの言葉とともに金糸がほどかれた。そこは事前にアラクネから聞いていたが、自然豊かな大地に生まれ変わっていた。そんな中に、すでに存在が朧げになった愛しい人たちがぼんやりと立っていた。
死霊スピリットと呼ばれる魂の一部だ。
みんな、各々の愛しい家族のもとへと歩いていく。ダイバは一歩を踏み出せないシエラを残してノーマンに近付いていった。
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