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第十章
第471話
しおりを挟む手紙の内容は他愛のない日常から、別れた直後の抗争、ダイバの伯父たちとの合流とセウルたちの誕生など。まるで日記のように手紙が書かれていた。
「バレても問題がないようにしてたんじゃない?」
「ああ、日記のように綴じていれば違和感のない書き方だ」
ふとあることに気付いてダイバに便箋を渡す。
「ダイバ。この手紙を読んで」
「これか?」
ダイバは自分が手にしていた便箋をテーブルに置いて、私が渡した便箋に目を通す。途中まで読み進めて手を止めてまた一枚目に戻った。
「エミリア、これは」
「私たちも日本でよくやった言葉遊び」
横書きの手紙を縦に読むことで浮かび上がる文章。
『賢意まゴたちよこれを嫁たら音なた地煮もお知エ手暮れ』
「賢い孫たちよ、これを読めたら大人たちにも教えてくれ」
「何ということだ。こんな読み方があったのか」
「縦の文章を横に読む方法もあるよ。ここの頭を左から横に読んで、このまま一列目を縦に読む。次は二段目を左から横に読んで二列目を読む」
「あっ! その読み方なら意味が分からなかった手紙が読めるかも!」
そう言って手にした手紙を読み返す人たち。
「ほかにも、ふしぎな模様の絵が描かれていたら、手紙の文字をそのとおりに読むと文章が浮かび上がるよ」
「まったく……。わしらが読めないこと前提にだしたな」
「お茶目なおじいちゃんだね」
「エミリアに似てるよ」
ダイバの呆れた声にコルデさんたちは「実の家族以上にそっくりだ」と大笑いした。
それ以降は読み方を変えるなどすることで、隠された情報が多々溢れてきた。繰り返し出てくる単語は『アルミラージ』と『ガルム』。
「エミリア、何のことだかわかるか?」
「アルミラージは黒いネジネジの一角ツノを持つ黄色のウサギ。……悪龍を倒した感謝のしるしに贈られたんだけど獰猛で、ツノで人でも動物でも突き刺して殺して食べていた大食らい。ただ無力化できれば普通の人でも追い払える」
「退治したという話は?」
「大昔の話だけど……ない! そして、いつのまにか話にでなくなった」
「じゃあ、ガルムは?」
「ガルムは死の世界の番犬。使者が死の世界から逃げ出さないように見張ってる。一説には迷う魂を死の世界に導く役目ももってるって話」
どちらも死隊を見つけたら放っておかないだろう。ただ、神獣という点をみればガルムではないか。
「ただ、これを信じていいかは不明」
「エミリア? じいさんたちが嘘を吐いているというのか?」
「……そうじゃない。ただ、私の世界のことがこの世界に当てはまるのか、ということ。私の世界では神獣も神話も過去のもので書物に残された伝説。それに、ガルムは別の国では違う名をもち姿も違う。ガルムは『神の敵』だけど、違う名、ケルベロスは神に連なる者だし、サーラメーヤは四つ目の犬。死者を死の国の神の元へ連れていく案内人。黒色とまだら模様って名前なんだよ」
「あ、待てよ。シャバラて名前、ここにもあったぞ」
そう言って出された手紙には、まだら模様の二頭の犬の絵が描かれていた。そして模様のように、目の上に眉毛が描かれている。
「そうそう、こんな……」
二人で顔を見合わせる。たぶん、同じことを考えただろう。
「何でこの姿を知っている」と。
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