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第九章
第466話
しおりを挟む《 ぽくぽくぽく 》
《 なんまいだー。なんまいだー 》
妖精たちが掘った穴にヘインジルが横たわっている。別にヘインジルがお亡くなりになったのではないし、『ごっこ遊び』をしているわけではない。……いや、妖精たちは遊んでいるな。
「普通、こんな見事に落ちるか?」
「足下不如意?」
「注意散漫」
今ここにいるのは環境管理部のメンツだ。そしてここはバラクルの農園。
妖精たちが腐葉土を作っている場所を見学にきたのだ。私のところは奴隷が働いているため、農場や農園、果樹園を集団で見学には入れないのだ。
「まあ、何も入れていないからよかったというか……」
《 枝は焼却後に入れているから大丈夫だよ 》
「まあ、枝が刺さりまくった方が目が覚めてよかったかもしれん」
《 ヘインジル、埋めていい? 》
《 ヘインジル、栄養になる? 》
妖精たちが目を輝かせている。このままにしていたら……
《 ヘインジル。いい栄養になってね♪ 》
ドサドサドサ。ばらばらばら。
「あ、埋められた」
別の穴で発酵させている腐葉土が、起きてでてこないヘインジルの上に積み上げられていく。実は発酵を促すためにかき混ぜるのだが、妖精たちには上下を入れ替えるために空の穴をひとつ用意させている。そして空気を含んだ腐葉土は発酵が進み、熱をもち……
「あっつーい!!!」
《 あっ! 生き返った! 》
《 埋めろ、埋めろ 》
「えーい、やめんかー!」
《 諦めて栄養になれー! 》
「なるかー!」
立ち上がったヘインジルの頭を、妖精用の小さなスコップを手にした妖精たちがペチペチと叩く。懲りずに腐葉土をかける妖精もいる。
「元はといえば、落ちたまま上がらないヘインジルが悪いだろ」
《 そうだ、そうだー! 》
《 だから大人しく栄養になれー! 》
ダイバの呆れた声に妖精たちが盛り上がる。
「ダイバぁ! どっちの味方だー!」
《 僕たちだあ! 》
「……どっちの味方でもない」
疲れた声のダイバ。さっさとあがってこないから遊ばれるのに、ヘインジルはいちいち妖精たちを相手にする。
「よかったね。ダイバと同じく遊んでくれる人が増えて」
「エミリアさん、妖精たちを止めてください!」
「えー。その子たち、私と契約してない子だよ」
「だから、放っておいて出てこい。いつまでも相手をしているから遊ばれるんだ」
ダイバに言われてハタッと気づいたらしいヘインジルが、深さ百五十センチの腐葉土プールから急いで出てくる。
《 あー! せっかくの栄養に逃げられたー 》
妖精たちが残念そうにすると管理部の職員たちが小さく笑う。彼らはすでにピピンから腐葉土の説明を受けたあと。上下を入れ替えて空気が含まれた腐葉土から、発酵が始まって白い煙が立ちのぼる。
南部の農村をはじめとして、この腐葉土を自分たちでも用いようというのだ。南部の農村には妖精たちの協力はナシという約束がなされている。それでもこういう妖精たち以外でもできることを見聞きして活用するのはいいことだ。
「廃棄にしかならない落ち葉などを再利用することで、自然のちからを活用できる。下手に栄養剤を与えても、それは人の手が加わっている以上、自然とは言い難い」
「その点、腐葉土は自然のもので一切手が加えられていない。これだったら自分たちでも出来るのではないか」
家畜の糞尿による肥溜めも、家畜を育て出したら始めるそうだ。
「エミリアさんから本を提供していただけたことで、家畜の飼育方法などを学ぶことができています。ありがとうございます」
私が提供したのは、ルーフォートでもらった本の中にあったものだ。同じ本が数冊あったりする。私は一冊だけあればいいし、ダイバも農園用に一冊あればいい。そして残ったものを庁舎へ寄贈という形にしたのだ。
「ほかの国ではこんな方法を取り入れているのか」
「この方法なら農村でも可能ではないか?」
「え? エミリアさんやダイバのところでは腐葉土を取り入れているんですか! ぜひ見学させてください!」
そうして、バラクル所有の農園で定期的に講習会が開かれるようになったのだった。
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