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第九章
第461話
しおりを挟む「それで? エミリアちゃんとダイバは何にいきついたんだ?」
「まだ条件が合うってだけだ」
「かまわん」
食後のデザートのように話を向けられた。コルデさんに声をかけられるまで、オボロさんが揶揄われていた。主に「妹の心を傷つけるオボロはエミリアさんに兄として認められない」というもの。オボロさんが縋るような目で私をみてきたが……事実なだけに何もいえなかった。
シエラのために、オボロさんには泣いてもらおう。
「まだ仮定だ。全員がそうとは限らないからな」
そう前置きしたダイバは「お前は補足でいい」と私に言ってコルデさんに顔を向けた。
「ルレイン、ノーマン。アイツらの消された記憶は、『誰かに愛されたもの』だ。ルレインは結婚直前だったエンリケ、ノーマンはたぶん家族とシエラの。ただ、ルレインの様子から自分が愛した記憶は残った。だから『自分がどんなに愛しても応えてくれない』という思いは残ったのだろう。エンリケは捕まってそばにいない。捕まったことは覚えていたが、『引き寄せ』は効かなかった。地下で失った体力の回復をしていた。あそこは地の魔力が強いせいか地の癒やしが強い。さらに騰蛇の加護もある。そのため、彼らの回復を望んだのはルレインだったがそのことも忘れて、孤独感だけが増幅した。ノーマンも同じだっただろう。ノーマンの家族は……アイツの実の家族ではない」
「ノーマンは身売りの奴隷だよ。赤ちゃんのときに今の両親が息子として買い取った。それはノーマン自身も知っている」
「あー、ちょっとまって。たしか兄か弟がいるだろう?」
コルデさんが軽く右手をあげて確認をする。
「シューマン? 彼は従弟だよ。伯父の一件で置き去りにされた子」
「ああ、都市へは祖父母が連れてきたんだ。…………そう考えると、ノーマンだけがあの家族で異質な存在だったんだな」
シューマンは養子とはいえ祖父母の実孫、父親にとっては甥だ。差別などしていないと断言できるくらいに、私も彼らや家族との付き合いはある。
「信じられる愛情を、その記憶を消されたとき……アイツらにあったのは空虚、だったんじゃないか? 虚しさや、孤独…………」
「だからね、アウミと一緒に出て行ったのは、そんな空虚な心でアウミや女神という存在に縋った『悲しい人たち』ではないかってね」
やっぱり、ダイバに任せられない。私たちは、ノーマンを『ただの被害者のひとり』として見るには親しすぎた。だからヘインジルは身内を集めた報告から私たち全員を外して、都長として彼ひとりで対応をした。情報部から三人が同席したが、全容解明がなされていないことから公開は見送られた。
「このことは、ヘインジルの指示を受けたメッシュたち情報部が調査中だ」
この調査で私たちのたてた予想が当たっていたことを知るのは、二週間後の緊急招集の会議でだった。
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