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第九章
第426話
しおりを挟むミリィさんが、旅の最中で手に入れたペリジアーノ大陸の地図を開いてくれた。この地図は新しい情報だけしか表示しないらしい。
「大陸によって使われる地図は違うわ。ペリジアーノ大陸みたいに、侵略や戦争に滅亡で国の範囲や国名がコロコロ変わる場合、地図は最新情報のみが表示されるものが流通しているの」
「世界全集は国の情報だから、国土や国名だけで何ページも使っているところもあるよ」
ミリィさんが、私に地図の説明をしてくれる。
私はムルコルスタ大陸の地図は持っていない。世界全集を購入したからだ。それには大陸の地図も載っている。最新の国の地図も。旧国名などは国の詳細情報のページに記載されている。だから、地図だけを購入する必要がなかった。
「あっっっ!」
開いている地図上である国の国境がクネクネと動いて、隣の国を飲み込んで国土を拡げた。
「また……国がひとつ滅んだわ」
「ウランベシカ。……この国がそうなの?」
「ええ。エミリアちゃん、世界全集か世界大全集を見せてくれる?」
「はーい」
返事をして両方の全集を取り出す。世界全集は一冊だけど、世界大全集は上・中・下巻からなっている。ルーフォートでまとめて貰った本の中にあったのだ。テントの書架に並べてあったのをピピンが見つけて持ってきてくれたのだ。世界全集と読み比べて、その詳細に驚いた。歴代の国王の名が記載されるのはわかるが、そのときの宰相や大臣の名から、政策に失策まで記載されていたのだ。
すると、調べたくなるのはエイドニア王国のこと。
【エイドニア王国】
・異世界から聖女召喚を行なっていた
・最終召喚は聖女二名。内一名は召喚直後に城を追放されて行方不明。残る一名も不当な扱いを受けて召喚翌日に自死
・第二王子(旧名・レイモンド)の不正召喚および以降のにより神の怒りに触れ、父王(旧名・エルフレッド)と共に不死人の罰を受ける
→第二王子、フルリアス国国境渓谷西部洞窟内にて生存確認
→父王、グモール山火口にて生存確認
・現王ルナンバルトの善政により、短期間で前王の悪政で傾いた国内を立て直して繁栄をもたらしている
・聖女の召喚直後から『空白の一年』がある。記録はいっさい残ってはいない。当時のことを、この国に残された記録から『行方不明になった聖女による大改革がおこなわれた』と思われる。しかし、どの記録からも聖女の姿は確認できていない
唯一聖女と思しき女性の記録として『彷徨える哀れな二人の魂を神の下へと送った』という内容が、王都所属守備防衛隊と冒険者ギルドの活動記録に残されている
「…………」
私が表に出ないようにしていたために、国の記録自体が『空白の一年』となっているようだ。しかし、公開できる国の記録はあるはずだ。アントの襲撃や、ルーフォートをはじめとした多数の『虫の集団襲撃』。
「それには女神が関わっているのか?」
「それはないと思う。……アントの一件も水のダンジョンも、私は偶然関わっていただけ。キッカケが私だった……」
「どうした?」
「私が女神の存在で魔法が強化されていなければ、私……水のダンジョンで死んでたと思う」
通常のダンジョンではない。あの『召喚された百体以上の魔物たち』を相手にできなかっただろう。
「あのエリーさんやキッカさんたち、ミリィさんたちも一緒に戦って、ボロボロになって死を覚悟したんだよ。そんな強力な魔物を相手に私が敵うと思う?」
そう聞いたらダイバには驚かれた。そりゃあそうだろう、エリーさんたちの強さは十分わかっているのだから。
フィールドに現れた魔物の討伐で共闘したことが何度もあるからだ。
「…………あのときの魔法、水の影響もあったし雷を使えば相乗効果が出るのはわかってたよ。でも、さ……全力で放った魔法だったのに、私に一切の負荷もなく、その後も魔法を使い続けていたんだよ」
「疲れは?」
「ない」
女神が関わったからか、そこが水の聖霊の住処だったからか。それが
記載できない理由なら……
「アントも神が関わってるってことだよね」
あのときの私の言葉に、ダイバの表情はゆがんだ。
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