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第九章

第410話

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「大丈夫か?」

目を覚ましたとき、私は二階の寝室で寝ていた。そして横にはダイバが付き添っている。

「話は聞いた。何か怖かったのか?」

優しく頭を撫でる右手を掴んで、私が感じた恐怖をダイバに訴える。女神の話を聞いてダイバの表情が険しくなったが、それは一瞬で消えた。そしてダイバは私の手を掴んで横になっている私の額にコンッとあわせる。

「バカだな、エミリアは。大丈夫だ。……大事な話、いや決意をしたんだ。それを聞いて、できれば受け入れてやれ」
「…………いなくなっちゃう?」
「いいや、それは本人たちから。違うな、通訳を聞けばいい」

そういって私の頭を抱きしめるダイバの腕にしがみつく。自分の手が震えている。ダイバは何も言わずに黙って私が落ち着くのを待っている。
通訳が必要ということは、ピピンとリリン、そして白虎のことだ。

『聞きたくない』

その気持ちは本音だ。……拗ねてもいたけど。

『聞いたらいなくなっちゃう』

そう思ったのだ。

「エミリアぁ。アイツらが話そうとしていることは、何も悪いことじゃないんだ。大丈夫、いなくなったりしない。ちょっと休むだけだ」
「いなくなっちゃう」
「それはないな。ただ一週間寝てるだけだ。その期間は守れないから、家から出ずにテントで過ごしてほしいっていってたぞ」

この世界の一週間は六日。その間、寝てるって……

《 エミリア 》

おずおずと妖精たちが寝室に入ってくる。でもピピンたち三人の姿は見えない。

「ピピンたちは?」
《 ……ゴメンね、エミリア 》

地の妖精の言葉に、私の落ち着いていた震えがふたたび……

「エミリア! 大丈夫だ。寝てるだけだ、そうだろ?」
《 え? あ、うん 》
「エミリア。見に行けば理由はわかる」

そう言って私をお姫様抱っこで抱き上げると、ダイバは廊下へと出た。そのまま奥の空き部屋へと歩いていく。そこはピピンが管理している部屋だ。別名『ピピンの説教部屋』。ダイバはその扉の前で立ち止まり、そこで私を下ろした。

「エミリア、開けてくれ」
「ここに、いるの?」
「ああ、そうだ」

まだ震えている右手を伸ばしてレバーハンドルに触れる。そして、深呼吸をしてから下へと押した。
開いていく扉の隙間から部屋の中が見えていく。部屋の中央にクッションが大量に敷かれ、膜が繭のように三人を包んでいた。そんな三人に寄り添うようにアラクネが座っている。

「エミリア、大丈夫?」
「アラクネ。これは一体……」
「しぃー。寝ているから、静かにね」

人差し指を口にあてて微笑むアラクネは、反対の手で手招きをする。そっとダイバに背を押されて、一歩ずつアラクネの伸ばされた手に近付く。

「エミリア。見てわからないかしら?」
「……はじめてみる」
「ああ、そうね。でも、心当たりは?」
「…………進化」

そう、これは知識で知っている。でも実際にみるのは初めてだ。

「エミリア、大丈夫よ。よく見て。この子たちの中には、エミリアからもらった愛情がいっぱい詰まっているわ。あとは勇気が必要だったの。人の姿になるっていうのは、この子たちにとって未知なる世界。ピピンとリリンは元々魔人化するつもりで、書架の本を読んで知識を得てきた。白虎も、獣人化を決意したけど……白虎はエミリアを癒したいから悩んでいたみたいね」
「私の、ため?」
「そうよ。エミリアが落ち着けるのは白虎に甘えているときでしょう? 白虎は獣人になっても獣化じゅうかでいるつもりなの」
《 エミリア。白虎は獣人になったら今まで以上にエミリアを守るために強くなりたいって 》
《 リリンが『眠らせちゃってごめんなさい』っていってたよ 》
《 ピピンからは『お世話できなくてすみません』って 》
「……なんで」

みんな、なぜ『自分のため』に行動しないの? ピピンやリリンが謝ることなんてないのに。

「みんな、エミリアが好きなのよ。三人も、これからは動きやすいように魔人・獣人になることを選んだわ。目が覚めても、すぐに生活ができるかわからない。『二本足で歩く』なんてピピンとリリンには理解できないことだもの。だから、目が覚めてもすぐに会えないわ。この子たち、特にピピンはあなたに無様な格好も努力する姿も見せたくないから」
「だから、アラクネが一緒にいるの?」
「ええ。この子たちにはあなたの愛情も親愛も染み込んでいる。それだけで進化の糧になるわ。あとは目覚めるための指針。これは私を通じて騰蛇様が導いてくださるわ。だから、エミリアは信じてあげて。この子たちが笑顔でこの部屋から出てくる日を」

アラクネに抱きしめられて、涙がこぼれ落ちる。みんなから愛されているって感じられるから。


………… 世界がゆっくり、でも確かに動いている。
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