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第九章
第407話
しおりを挟む「おもしろかったね」
《 本当に五百周走ったね 》
《 無理だと思ってた 》
「お疲れさま、ダイバ。さあ、みんなもお礼言って」
《 ありがとう、お馬さん 》
《 トナカイさん、また遊んでね 》
「お前ら……ちゃんと礼を言わねえなら、二度と遊んでやらねえ」
パッチーン!
ピピンの触手が地面を打つと一瞬で妖精たちの気配が変わった。そして今度は正しくお礼を告げる。
「あー。エミリア、手を貸せ」
仰臥位で呼吸を整えたダイバが、指をクイクイと動かして私を呼ぶ。
「どうしたの? 回復薬を飲む?」
「その前に俺と同調術かけてみろ」
「この状態で?」
「その方がわかりやすいだろ。それに俺が疲れているとき、エミリアにどんな影響が出るのかもわかる」
確かに、ダイバなら最初っから私を前線で戦わせるようなことはしない。逆の言い方をするなら、疲れたダイバにどれだけ影響が出るのかを知るにはちょうどいい。
「ん、わかった。キツかったらいって」
「お前の方こそ、疲労が押し寄せたらすぐに同調術をやめろ」
コクコクと頷いて、ダイバの両手を握り合って目を閉じて同調術をかける。すると、ふわっという優しい暖かさが全身をおおう。それはまるで『春の木漏れ日』のようだ。
「エミリア、大丈夫か?」
「うん。ダイバの気、あったかい」
〈エミリア。いま包んでいるそれが、ダイバたち竜人の魔力じゃ。ほかの一族とはまた違う〉
「アゴールもおんなじ?」
〈そうじゃ。それがエミリアに向ける感情じゃよ。ダイバたちがエミリアを受け入れておる証拠じゃ〉
「エミリア、無理してないか?」
「ううん、あったかくて気持ちいい」
春の木漏れ日の優しい空気が自分の周りをおおっていて……
「気持ちよくって眠っちゃいそ~」
「おーい、ちゃんと終わってからにしろ」
ダイバの苦笑しているような声で目を開ける。なぜだろう、ダイバが元気になっているような……
「エミリア、辛くなかったか?」
「うん、ずっとポカポカと気持ちよかったよ」
〈コイツは驚いた……。エミリア、ダイバも。ステータスを確認してみよ〉
火龍に促されてステータスを開く。確かに攻撃力が跳ね上がっている。俊敏など、私と縁遠い部分までがダイバの能力で跳ね上がっている。
「おい、エミリア」
ダイバの驚きの声に、自分のステータスを縮小してダイバをみる。
「魔法、どうなっている?」
「最初っから最高レベルの10」
「そうじゃない。『魔法の相乗効果』だ」
「えー? たしか最高レベルだったけど……あれ?」
「なんていうんだ? これ」
ダイバは困惑している。知らない人が見ればこれは『8が仕事放棄してゴロ寝している』と思うだろう。……そう、これは∞だ。
「ダイバ、∞は無限大。限りなく大きい、つまり限界はなし」
「ということは、重ねがけが可能ということか」
「それも際限なく」
これは妖精たちの効果だ。六人の妖精たちと同調術を使っているため、同時に六種類の魔法が使えるようになった。火龍の説明では、それも聖魔師の能力らしい。
〈近々、また来よう。エミリア、それまでにいま教えた聖魔師としてできることを復習しておきなさい〉
「うん、わかった」
〈ダイバは仲間たちにこれを渡しておきなさい。いいか、決して外されないようにするんじゃ〉
「ああ、わかった」
火龍が持ってきたのは浄化魔法が用いられた指輪。わるい子の竜人たちの動きが怪しいため、身を守るために与えてくれたらしい。
〈奴隷の子供たちにも、それをつけるのを忘れるんじゃないぞ。アイツらは竜にもなれる。竜の姿で襲ってくる可能性が高い〉
《 そんな奴ら、私たちが倒しちゃってもいい? 》
《 悪い竜は討伐対象だよね! 》
「たぶん騰蛇、ううん。キマイラたちが守ってくれる。だってダンジョン都市は『みんなのお家』だから」
地面が小さく揺れる。騰蛇が『任しとけ』と言ったのだろう。
それに気付いた私たちは、思わず声をあげて笑った。
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