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第八章

第363話

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夕食前からバーベキューの準備をしていたところ、国境の向こうからヨダレをたらしている調査団たちの姿がみえた。そして「目があった」とか言って国境を越えようとした。

「自分たちを労ってパーティーを開いてくれるんだと思った」
「死ね。今すぐ死ね。さっさと死ね」
「そのアゴールに似た口を閉じろ。ミリィ! コイツを中に閉じ込めててくれ!」
「役立たずの調査団が! 私より働いたって奴がそういうんだったら認めてやる! そうじゃないならお前らが私を労え~‼︎」
「コラ! 大人しくする約束だぞ!」
「コイツら、私を誘拐しようとした! その首、チョン切ってやるぅぅぅ‼︎」
「実行者はすでに王都に送った! コイツらは手を出してないだろ!」
「国境越えた!」

それを確認して、私が魔法で感電させて捕獲した。国境の内側に鎖を埋めてあって、越えたと同時に静電気スタティックを使った。そのため、カラフルだった髪の色は一律真っ黒。焦げてチリチリで、プスプスと煙も上がっている。

「あー、まあ……それは確かだな」
「だったら……」
「国王がすでに徹底的に抗議している。対応如何によっては粛清も已むを得ないと伝えた。話し合いの使者が各国から向かっている」
「だったら、コイツらは串刺しに……」
帰してやれ。お前らは戻って伝えろ。お前らがしでかした不始末で使者がくる。コイツらは謝罪にくるんだ。これ以上問題を起こせば謝罪だけでは済まないからな」

足下で小さく揺れた。それに気付いてダイバを見上げると小さく頷かれた。

「コイツらの姿を見ながらごはん食べても美味しくないよ」
「ああ、二重結界を張る。だから、バーベキューの準備が終わるまでテントの中で大人しくしてろ」
「……やだ」
「どうした?」

ダイバの胸に腕を回してワガママをいう。ダイバは優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。


「ダイバ、こっちはいいから。今はしてて」
「おい、ミリィ」
「……今はダイバじゃないとダメなのよ」
「わかった。そいつらを国境の向こうに放り出してくれ」

ダイバはそういうと、必死にしがみつく私の手を簡単に外すとヒョイッと片腕で抱き上げた。そして反対の手で抱きしめてくれた。

「テントの中でワガママを聞いてやる」

『私のお兄ちゃん』になってくれてから、ダイバは今まで以上に私の心配をする。そして私はワガママをいうようになった。本当のお兄ちゃんのように。
思わずダイバの首に回していた腕に力を入れる。

『このお兄ちゃんは……亡くしたくない』

私は……気付いた。何が起きているのかを。



「…………そうか」
「まだ仮定だけど……」
「ああ、それでもいい。『そういう可能性がある』ってだけで対策は立てられる」

ダイバはけっして否定はしない。『可能性は無限だ』と信じているからだ。
今の私はピピンが置いた結界石の中だ。中にいるのは私とピピン、リリンと白虎。そして私は椅子に座るダイバの膝の上だ。

「ダイバ」
「ん? どうした?」
「さっきはごめんなさい。ダイバはいっぱい私のことを考えてくれているのに……」

夜になったら騰蛇が地下に連れ去る。だから今は帰すようにいったんだ。ちゃんと騰蛇はダイバの言葉をわかっていたのに。騰蛇が返事をしなかったら、まだダイバを困らせていた。

「いや。あれはエミリアが怒って当然だ。連れ去ろうとしたことを謝罪しないで、こちらが持っている情報を無条件で引き渡すように言ってきたり。……アゴールがいたら死体の山だったな」

そう言ってくれたダイバの肩口に顔をうずめる。仮定で話したことが本当だったら怖い。私はこれからどうなるんだろう……

「大丈夫だ」

そんな私の気持ちを理解しているのか、ダイバが抱きしめてくれる。

「エミリア、俺たちの関係はこんなことで壊れたりしない。たとえお前が誰からも見向きされなくなっても俺がそばにいる。ミリィたちもそうだ。俺たちはエミリアの内面を知って好きになった。けっして魅了の女神の効果ではない」


私の中に魅了の女神を感じ始めたのはシルキーの事件からだ。
あのとき女神像をみてはじめて魅了の女神の姿を知った。……夢の中で私に干渉していた、私がブン殴った女神の姿だった。あの日以降、私に接触がないのは『私の中から弾き出された』からかとも思ったんだけど。

「でも、本当は隠れていただけかも」
「……いつブン殴ったんだよ」
「アゴールの妊娠がわかった翌日」
「ああ、エミリアが魔力を暴走させかけた余波が地震になったときか。そういえば『夢の中に閉じ込められた』っていってたな」
「うん。引っ叩いて、ブン殴って、お腹も蹴った」
「そうかそうか。よくやった」

そう言って誉めて頭を撫でるダイバ。思い出し笑いをするとダイバから「どうした?」と聞かれた。

「前にね、きっとダイバたちはこのことを知ったら『よくやった!』って誉めてくれるって言ってたの」
「誰が?」
「妖精たち」
「……そうか。オヤジたちも、ミリィやアゴールたちも、たぶんオフクロたちも。みんな『よくやった!』と誉めるぞ」

うん、きっとそうだよね。
そう思っていたら白虎がすり寄ってきた。ピピンとリリンも私の頬にすり寄る。

「お前らもエミリアは『よくやった!』って思うだろ?」

そう聞いたダイバに上下に揺れて肯定するピピンとリリン。ガウッと鳴いた白虎はダイバの膝に前脚をかけて顔を舐め回してきた。

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