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第八章

第355話

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《 エミリア。そろそろいくよ 》
「うん、りょ~かい」

今日からちょっと遠出。というのも、妖精たちが虐待を受けていた『滅びし隣国』が完全に滅びたらしい。

「死隊は入ってない。あそこは封印されてるから」
「その封印って誰がやったんだ?」
「騰蛇。正確には地の妖精たちが『国から出ない・入らない』っていう形で隔離したんだ。それを騰蛇が知って、三年前に完全に封印させた。そして、昨年と今年になって、妖精たちと仲良くなった神獣たちが隣国の封印に重ね掛けした」

それが聖魔士騒動で救い出された神獣たちから妖精たちへのお礼だった。そして、今年になって妖精たちが増えた理由でもあった。

《 だって、あそこ今は魔物の国だもん 》

国民たちはすでに人間の姿を保っておらず。日々田畑を耕し、同じく手にした鋤や鍬で隣人を襲う。それで死なない、いや死ねない。彼らは穿うがたれた身体を腐らせながら日々を過ごしている。

「……なあ、隣国って名前なんだった……?」
「そういえば……。誰も覚えていないのか?」

そりゃあ、そうだ。封印、つまりその国に関わるもの全てが封じられる。国も人も固有名詞はすべて『その個をあらわすもの』である。それが封じられるのだから、人々の記憶から消えても仕方がない。

「それが何だってエミリアの知るところとなったんだ?」
「封印されるということは封印したものの支配下となるから。最初の封印には妖精たちが関わってる。そのときに私の魔力も使ったから、私は知ることができる。ただし出入りしようとした者がいるってだけね」
「じゃあ、騰蛇から聞いたのか」
「それとキマイラたちからね」

それが変わったのが数日前。誰も起きてこなかったのだ。

「それに神が関わっているのかはわからない。ただ、妖精たちの話では『神は関わっていないはず』だって。見捨てた大陸だからね。《 いまさら気にすることもないだろう 》というのが妖精たちの考え」
「だったら、いまさら何だというの?」
「最近、大陸ここに関わった神がいるでしょ。正確には信者たちだけど」
「……ああ、『魅了の女神信者』か」
「妖精たちの話では『魅了の女神はいなくなった』らしいけどね」

私がそういうとみんなにコクコクと頷かれた。

『魅了の女神は神々の争いに心を痛めて姿を隠した』

それがこの世界の認識だ。

「それで何を確認しに行くんだ?」
「確認に行くのはベヒモス。生者がいないのはわかってるけど、死ねないはずの人たちが死んでいるとも思えない。罰を受けている彼らにとって死は救いだからね。私たちは封印のチェック。綻びがないかを確認しに行く。そして周囲に何か影響が出ていないかチェックするのが依頼」

今回は私と妖精たちだけではない。

「王都からの正規依頼なんだって?」
「ああ、王都は今復興途中だからな」
「隣国に接している各国から調査団が派遣されている。そのため、自分の国に影響がないか調べるだけなんだが……」

そう言って、ダイバが私をみる。

「私、見せ物じゃあない」

プイッと横を向くと「ということだ」とダイバが苦笑しながら私の頭を撫でる。各国では「もちろんタグリシア国から調査にくるのは聖魔師テイマーですよね」といっているらしい。
そんな問い合わせに新国王ルヴィアンカは「何故です?」と返した。

「国のことに聖魔師テイマー様のお手を煩わせる必要はありません。我が国からは正式な調査団を差し向かわせます」

ダンジョン都市シティには正式な情報と依頼、そして各国の反応が届けられた。

「バカが多いな」
「バカしかいないな」
「バカばっかり」

どの国でも「是非とも聖魔師テイマー様には調査団に加わっていただいて……」という言葉を携えた使者が送られてきた。それに対してルヴィアンカ国王は堂々としていた。

「ではあなた方の国でも女性で調査団をお作りください。もちろん王妃様や王女様の。我が国に留まられている聖魔師テイマー様は女性の方です。その方に『腐った死体と対峙せよ』と仰られるということは、貴国の女性は腐った死体を前にしても平気なのだということですよね。それでは今すぐお帰りください。そして王族の女性による調査団を結成できたらご連絡ください。できますよね。そのための使者あなたでしょう?」

青年と思い見くびっていたのだ。
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